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第二話 荷物を持って逃げたけど

 ローサは荷台に荷物をロープで固定する。

 次いでローサは、落ちないように、しっかりと命綱で船と体を繋ぐ。


 遊太は操舵輪を手に意気込む。

(さて、これからが本番か。上手くいけば百万リーネだ)


 遊太の漁船は他の漁船よりは速い。だが、それは漁船と比べた時の話だった。敵には当然、小型艇がある。


 小型艇は木で作られた流線型の船体で全長が三・二m。二人乗りで前の人間が操縦して後ろに一人攻撃要員を乗せられる造りになっている。速度は二人を乗せて最大で二十五ノットが出る。二人乗りの小型艇で敵に追いかけられれば、追いつかれる。


 だが、逃げ切れる可能性がまるでないかと言われれば、そうでもない。八百万では漁船のほうが小型艇より重い。衝突すれば小型艇は破損、悪ければ沈没する。小型艇で進路を妨害すれば、小型艇は真っ二つになる。


 小型艇は二人乗りなのもネックだった。一人が操縦し、一人が飛び乗ってローサを倒してから遊太を仕留めなければ、漁船は止められない。


 飛び乗ってきた敵をローサが次から次へと海に落としていけば、小型艇の操縦者は指を咥えて見ているしかない。


 そのままヴィーノの街の戦闘禁止区域まで船が進めば遊太の勝ち。ヴィーノの街の中立NPCが襲撃者を攻撃するので、ほぼ安全だった。


(ローサと一緒にヴィーノの街まで荷物を届けられる確率は十%。船が完全に壊れた時の修理費がおよそ五万リーネ。十%の確率で百万リーネが入るのなら挑戦する価値のある仕事だ)


 遊太は艦の望楼にいる人間に漁船から念を飛ばして訊く。

「小型艇は海に何艘、出ている?」

「見える範囲で、二十ってところだ。白頭の鷲が十二、海賊が八、かな」


 八百万では船は魔法で出せる。だが、港でしか出せない制限があった。敵は港を占拠しないと、二十以上の小型艇は出せない。

(合計二十艘を振りきれば、俺の勝ちか。やってやるぜ)


 遊太は操舵輪を握ると、船の推進器の出力を上げた。漁船が海面を滑るように走り出した。大きな敵の艦を避けるように北西に船を走らせる。


 大型の艦は遊太の漁船を無視した。

 海に浮かぶ白頭の鷲の小型艇の集団が近づいてくる。

「そこの漁船、停まれ」と小型艇から念が飛んでくる。


 声が聞こえない状況を承知で、悪態を吐く。

「敵に停まれてと命じられて、止まる奴はいませんよ」


 前方の左右から一艘ずつ小型艇が近づいてきた。船を右の小型艇にぶつける――と見せかけて左に漁船を寄せる。


 左の小型艇は漁船と接触して回転する。左の小型艇に乗っていた操縦者も攻撃要員も、海中に落ちた。

右側の小型艇にいた攻撃要員は魚船に乗り移るタイミングを間違えた。攻撃要員そのまま海中に落ちる。


(よし、まず二艘やり過ごした。この調子で行けるといいんだが)

 すぐに、第二波の二艘が前方からやって来る。今度は二艘で漁船の正面から突っ込んできた。小型艇が破損覚悟の体当たりで、漁船を止めるつもりだった。


 二十mまで引きつけて、推進器の加速レバーを倒す。船を急加速させて舵を切り、衝突を回避する。それでも、片方の小型艇の攻撃要員が船に飛び乗ってきた。


 されど、加速中でもあり、バランスが悪かったのでローサに蹴り飛ばされる。

 攻撃要員は海中に落ちる。

(まだ、四艘目。あと、十六艘)


 どうしても、船を止めたいのか、次は前方と斜め前の四方から四艘が迫ってくる。

 推進器はまだ使えない。船は傷付くのは嫌だったが。やむなしと覚悟を決める。


 漁船をそのまま走らせる。推進器を止めて団子になって衝突する。

 激しく、木片が飛び散る。二台が沈み。二台が横倒しになる。


 漁船の船体もダメージを受けたが、航行不能にはならなかった。

 運よく漁船に飛び乗れた攻撃要員が二人いた。二人は真っ先にローサに向かっていた。


 ローサの華麗な足技が一人の顎にヒットする。攻撃要員は気絶したまま船の上を転がって海中に消えた。

 もう一人の攻撃要員は剣を抜くが、そこまでだった。慣れない海上戦闘のため、実力を発揮できなかった。攻撃要員はローサに押し負けて海に落ちた。


(ローサって、バランス感覚が、ずば抜けていいな。揺れる船上の戦いでも、漁船から海に落ちない。これで、残りは十二艘)


 ここで、静観していた海賊が動いた。白頭の鷲の小型艇を襲い出した。

 ローサが凛々しい顔で叫ぶ。

「チャンスよ。遊太。この争いに紛れて逃げるわよ」


 漁船を全速前進にして進んでいく。だが、海賊の小型艇の四艘が後方からやってきていた。

 海賊は白頭の鷲と違い。すぐに漁船に攻撃を仕掛けてこない。ただ、後方百mの距離を保って追尾してくる。


(下手に仕掛けてこない理由は襲い慣れているからだな。これは、ちょっと手強いぞ)


 漁船に積んでいる魔道具から、念で会話が入った。

「目の前の漁船に告ぐ。取り引きしようぜ。俺の名は義経。お前たちがもっている荷物。十五万リーネで買おう」


 ローサも念を拾う魔道具を着けているので、話は聞こえたはずだった。

 ローサは厳しい表情で考え込んでから、念を返す発言した。

「鏡の騎士団は海賊と取り引きはしないわ」


「なら、白頭の鷲なら、どうだ? やつらとは取り引きするのか?」

「白頭の鷲は欲張りすぎよ。欲張りとは、手を組めないわ」


 呆れた調子で義経から念が返ってくる。

「外から見れば、あんたらも、たいがいだと思うがね」


 義経が軽い雰囲気で命令してきた。

「よし、漁船の船長。船を止めろ。止めたら、百万リーネをやる」

「百万リーネは惜しいが、止めたら俺を殺すだろう。だって、海賊だもの」


 義経が明るい態度で告げる。

「そういう意地っぱりは、好きだぜ。ゲームの中くらい好きに生きようや」


 四艘の小型艇が速度を上げて漁船の四方を囲む。囲みは、じわじわと縮まる。

 左右に漁船を振り、推進器での加速も試みた。だが、囲みを突破できなかった。


 前方にいた二艘が網を張って減速した。網に掛かった漁船は不本意に減速する。そこで後方の二艘から攻撃要員の二人が乗り組んでくる。


 一人は一般的なシャツにズボンといった、若い船乗り風の風体だった。

 もう一人は色褪せた青のズボンを穿き、青のフロック・コートを着ていた。頭に青のキャプテン・ハットを被った、三十代の凛々しい黒髪の海の男だった。


 フロック・コートの男が挨拶する。

「初めまして。鏡の騎士団の副団長さん。黒船海賊団の船長の義経とは、俺のことだ」

「知っていたなら光栄だわ。ならば、勝負よ」


 ローサが剣を抜く。ローサは先に義経ではない攻撃要員を海に落とそうとした。

 されど、義経が割って入る。

「おっと、お嬢さんの相手はこの俺だ」


 義経の鋭い剣戟がローサを襲う。ローサは義経の相手で精一杯だった。

 その間に、もう一人の攻撃要員が荷台に固定している荷物のロープを切りに懸かる。


 遊太は攻撃要員を止めるかどうか迷った。止めにいけば戦闘になるし、操舵ができない。

 ここであと二人、攻撃要員に乗り込まれれば、ローサと一緒に殺される。


 そうして迷っていると、荷物がほどけて海の中に滑り落ちる。

 荷物が海中に落ちると、義経が恭しい態度で嫌味を述べる。

「目当ての物がないのでは戦う意味がなし。これにて失礼」


 義経が漁船から後方に飛ぶ。

 後部座席が空いた小型艇が待っていて、見事に義経を回収した。


 海賊は八人で、海に落ちた荷物の回収を始める。

 少し離れた場所に漁船を止めて、ローサに訊く。


「このままだと、落ちた荷物を拾われますけど、どうします?」

「どうもこうもないわ。相手は、あの義経を含む八人よ。私一人では勝てないわ」

(俺は数にも入っていないんだな。まあ、戦力にならないからいいけど)


 ピロリンと音がする。

 所持金を確認すると、三万リーネがローサから送られてきた。


「マンサーナ島は今頃は戦争よ。さっき海に置いていった冒険者を回収する余力は、うちには残っていないわ。この船で拾いに行って」

「今日の予定は大狂いですが、迎えに行ってきましょう。それで、ローサさんは、どうします?」


「私は、魔法で帰るわ」

 ローサは空中に光る石を投げて魔法の門を出現させると飛び込んだ。


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