旅
決して虫歯の後遺症ではないが、子供のいたずらから、その後続いたトラブルにより捻挫が最悪な状態になった綾は、松葉杖で生活をしなければいけない状態になっていた。
今日は地区予選当日、虫歯で出場できないとなれば納得いかないが、この足じゃどちらにしても無理だろうと、無理やり自分に言い聞かせていた。
しかし応援には行こうと綾は区民競技場に向かう、そして綾が区民競技場に着くと、まずそこで優に出会った、
「綾!」
「優君、今日頑張ってね」
優も別の高校で高跳びを専門競技として陸上部に所属していた。
「加藤!!大丈夫か!!」
吉岡と陸上部のメンバーが現れた、「おはようございます、今日は頑張って下さい」
「加藤…おまえ、こんな姿になっちまって…」吉岡が涙ぐむ…
「いゃ、先生、別に虫歯のせいではないんで…(きっかけは虫歯が理由だけど…)」
「まだ、夜とか痛むのか?」と吉岡が聞く、
「えぇ…時々(そりゃ、何も治療してもらってませんから…)」「臨海学校は行けるといいなぁ、その足じゃ泳げないだろうが、先生おまえの手伝い頑張るから」
(そうだ…来週は臨海学校で沖縄行くんだ…)
一週間あれば捻挫はだいぶ治ってくるだろう…
問題は…この虫歯だ…こいつを何とかしなければ…そう思う綾、帰りにあまり行きたくはないが薮の所へ行こうと考えた…
地区予選の応援の帰り道、今日は一人で薮の所によった、前回、綾が蹴飛ばした事でぎっくり腰になってる様子…
「大丈夫ですか…」
「大丈夫、今日はどうしたんだい?」薮が綾に問いかける、
綾は臨海学校の事を薮に説明した、
「沖縄…残念だがあきらめた方がいい…」薮が答える、
納得いかない綾、
「だから何でですか?そのために治療してほしいって言ってるじゃないですか?」
「気持ちはわかるが、宇宙飛行士も虫歯があると宇宙には行けないのだよ…」薮が苦しい答えを綾に答える…
「アホ!!ジジイ!!だれが無重力体験するって言ったよ!!沖縄だよ、沖縄!!」
綾は切れたついでに薮に脅しにかかる、
「わかりました…もう頼みません、マスコミに訴えます、《通院し続けても一度も治療せず、エチケット用品を薬と言って患者に出すやぶ医者》って」 薮は慌て始めた…
「わかった!!ちょっと待ってなさい!」
薮が席を外した、
診察室で待つ綾、しばらくして薮が戻ってきた…
「これを使いなさい…」
どこかで見たことあるような物…
「あの…これ何ですか…」綾が質問する、
「これかい、これは…あのボクサー薬○寺が使ったマウスピースだよ!!」
自信ありげな薮の顔にマウスピースを投げつける綾、「アホ!治せ!!ガリガリ削れ!!」
綾の怒りは頂点にきている…
「わかった…落ち着きなさい、君にとって一番いい方法を考えるから…」
薮にそう言われて綾は帰る事にした…
「ちょっと待って!!これを持って行きなさい!!」
(ん…正露丸…そう言えばこれ、虫歯に効くんだ…)
正露丸を痛み止めとして痛みは何とかくい止め(?)て、捻挫はだいぶよくなったが、結局虫歯の治療はしないまま、臨海学校の当日を迎えた…
「もう虫歯でもいいや…行ってしまえ」そう思い綾は集合場所である学校に向かった。
学校に着くと、智子が綾に手を振っている、
「綾〜!」
笑顔で智子に駆け寄る綾、
「綾、よかったね、一緒に行けて ウッ!!」
「加藤、加藤」
吉岡が呼んでいた。
「大丈夫か?困った事あったら先生に何でも言えよ! ウッ!!」
?、ちょっと様子がおかしいと思う綾、
「それでは全員集合して下さい」 生徒達が整列をする、校長先生の話の後で、同伴教員の紹介がある。
「今日、養護として一緒に同行してくれる薮 歯科の薮先生です」
(なんであのジジイ来るんよ…)綾のテンションが一気に下がった、
空港まではバスで行く事になったが朝早かった為か、みんな気分が悪そうである…「智子、一緒に座ろう」綾は智子に言うと、智子は
「あっ…うん…ウッ」どうも気分がわるそうだ…
空港まで向かうバス、全員グッタリ…(みんなどうしたんだろう…)綾は全然平気である…すると後部席からヒソヒソ話が聞こえる…
「加藤やべぇょ…なんだよ…あの匂い…」
えっ!?私!? 綾は驚いた、隣を見ると智子は完全にまいってる…「ねぇ!!智子!!私何か匂う!!」すると智子は、
「しょうがないよ…虫歯でしょ…しょうがない…」
虫歯?…ハッ!!わかった!!正露丸だ!!
綾は常備しすぎて慣れてしまったが、一般人にこの匂いはたしかに臭い…
すると薮もフラフラしながら綾の所へ来る…
「虫歯は悪化すると悪臭も放つ…これはは本当だ…」
綾はキレた!!
「アホ!おまえが医者のくせに処方箋じゃなくて、こんなもん渡すからだろうが!!」
綾が薮に正露丸を投げつけると正露丸は飛び散り、バスには悪臭が広まった…
「ギェェェェ〜」
「グォォォォ〜」
バス内は地獄絵図…
運転手は最後の力を振り絞ってバスを横に寄せた。 バスが止まると皆が飛び出して嘔吐しはじめた…
綾は呆然とその姿を見て荷物をまとめた、
「先生、私、ここで帰ります…」
帰り道、綾は涙が止まらなかった…
これも夏の思い出…とは思えなかった…
(神様…もし本当に神様がいるのら…もう私を転校させて下さい…)
青空の飛行機雲にそう願う綾であった。