恋
地区予選のメンバーからも外され途方にくれる綾、
「私の意識が低いだけで本当は虫歯は重い病気なのだろうか…」
呆然と綾は空を眺める、これから私はどうなるのだろう…昨日も薮 歯科ではなんの治療も行わなかったが大丈夫なのだろうか…
綾の不安が高まってくる…
「綾、綾」
窓から下を見下ろすと、友人の智子がいた、
智子もこの、集合団地に住むいわゆる
「幼なじみ」である、
手招く智子に綾は外へ出る、
「吉岡先生から話を聞いたの…」
智子は綾を心配して来てくれたようだ、
「虫歯ってさ…私、よくわからないんだけど、大変な病気なんでしょ?」
(やっぱり智子もあっちの世界の人か…)
綾はその事で涙がこぼれた…
「泣かないで、お母さんからも聞いたの、難しい病気だけど治らない病気じゃないって言ってた」
智子が綾をなだめる、
「ちがうの、智子、なんで私一人だけ違う世界にいるのかと思ったら、つい…」 「大丈夫だよ綾、私がついてるから…一人じゃないよ…」
(しまった…私はまた勘違いされるようなセリフを言ってしまったかもしれない…)
「智子、ちがうの…大丈夫だから…」
「綾、辛い時とか一人で背負いこんじゃだめだよ」
辛いのは虫歯じゃなくてこの周囲の態度だ…
綾は智子と別れて、折角だから散歩をしようと公園まで歩く事にした。
公園に着くと綾の幼い頃遊んだ風景がそこにある、
「うわぁ、懐かしい…昔あのブランコでよくあそんだなぁ…」
綾はブランコに久しぶりに飛び乗った、
ブランコを揺らすとなんだか空が子供の頃より近くなった気がする。
青い空を見てるとこれまでのイライラがとんでいく… しばらくその気分に酔いしれてると、なぜか綾の肛門を棒のような物が直撃した…
「えいっ!!」
「キャハハハハ!!」
子供がイタズラして綾に浣腸をした…
「ウッ☆□■△★!!」驚いた綾はブランコから落ちて、その瞬間
「グキッ…」
「ギャぁぁぁぁ!!」綾は右足をひねってしまった…
「あのガキィ…」
ハッ!! 私やっぱり性格悪くなってる…と思う綾、
「あいたたたぁ…」 だめだ、完全に足をくじいた…綾は立ち上がろうとするが痛くて立ち上がれない、すると後ろから綾に肩を貸す男性の姿が現れる、
「大丈夫ですか?」
綾と同い年位の男性、綾は一瞬言葉を失った、
「ありがとうございます」
「家は?近いの?送るよ」
男性はそう言うと綾を負ぶさり歩き始めた、
「あの、お名前は」綾が聞く、
「マサル、高山 優、君は?」
「加藤 綾です…」「綾ちゃんかぁ…ブランコ乗ってたの?あぁゆうのってさ、子供の頃の方がうまかったりするんだよね…ほら、三輪車とか、この間さぁ、友達と久々に缶けりやったらさぁ一回で息上がっちゃったよ」
たわいもない話で綾を和ませる優、綾にはまるで神様のようだった。
家の前では久美子が団地の前で井戸端会議をしているが、こちらに気づいたようだ、
「綾!!どうしたの」
「ちょっと…」
「こんにちは、綾さん公園で足をひねっちゃったみたいでして」優が説明する、
「とにかく病院に行きましょう、優君だっけ?ありがとうございます」
久美子は綾をタクシーに乗せ病院へ向かった。
開いた口が又ふさがらない綾…連れて来られたのはやはり薮 歯科、足を挫いたのに何故か見せられる歯のレントゲン…
「虫歯がだいぶ進行してる…それが足にきたのかもしれません」薮が語る
「チッ、ちげーよ…」綾がボソッとつぶやく…
「違うんです、私がブランコから落ちた時に足ひねっちゃって、それが原因です」綾が薮に説明をする。
「運動機能にも問題がでるのか…虫歯は…」薮がメモを取りだす、
「いゃ、違うんです、それはガキ…いゃ子供にちょっとイタズラされて、その時に足すべらしちゃったんです」
「子供…まさか!…幻覚まで…」薮はまたメモを取る、
隣りでは号泣の久美子、
(だめだぁ…この人達に今何を話してもムダなんだ…)「あの、やっぱ歯医者だから湿布とかないですよね…」あやが薮に聞くと、
「今の医学で歯に使用する湿布は…」
「黙れ、ジジイ!歯じゃなくて足だよ足!」薮の話途中で綾はまた乱暴に薮を怒鳴りつける、
「湿布、あぁ!シップね、ちょっと待ってね」肩から何かはがそうとする薮、
「言っとくけどピップじゃなくてシップ、湿布ですからね」綾が言うと、薮の手が止まった。
湿布は薬局で購入しよう、しかし完全にごまかされているが、進行してる虫歯はどうするんだと思う綾、表へでると心配してくれた優が待っていた、手には湿布を持っている、
(この人は神様だ…)
「おまえ…虫歯だったのか…てっきり足ひねっただけかと思って、俺、バカみたいにこんな物持ってきて、なんでいつも俺はバカなんだ…」 優は湿布を放り投げる、
「あっ、ダメ〜ぇ!★☆」
綾は湿布を何故かスライディングキャッチ…捻挫悪化…
どうにか湿布ははってもらって、また優に背負われ帰宅する綾、
自宅に着くと、綾の姿を見て泣きじゃくる大祐の姿がある。
「ウヮッ、ウウウウッ…くそっ!!おまえ!!」
何故か優の胸ぐらをつかみ、殴る大祐を久美子と綾は必死で止めた、
優を団地の下まで見送る綾、三階上から睨みつけるように様子を伺う大祐…
「ごめんね優君、今日はいろんなゴタゴタに巻き込んじゃって」
「あぁ、全然大丈夫だよ」
(この人神様だ…もうこれ以上いろんな人達をこの理解不能な虫歯に巻き込む訳にはいかない…)そう決意する綾、
「ねえ、優君、明日時間ある?」綾は優に問いかける。
「あるけど、何で?」
「明日、ちゃんと歯医者に行こうと思うの、だけどお母さんじゃ話にならないから…優君、一緒に来てくれない?」
「わかった、じゃあ朝迎えに来るよ」
そう言い、優は後にした。
角を曲がるまで見送ろう…ブレーキランプは無いけれど…綾はそう思った。
悲劇はその晩に起こった… すっかり虫歯本来の病状を忘れていた綾、眠りにつくと奥歯に痛みが走る…眠れない…フリ○クでスースーしてごまかす、なぜかフリ○クの使用方法に納得する綾、
「痛い、耐えれない…」
眠れないままで夜が明ける…まだ痛い…うなされてると母の久美子が起きてきた。
「ちょっと!!綾!綾!大丈夫!お父さん!!!」
仕事どころではない…大祐は綾を負ぶさり駆けつける、
「お…お父さん…お願い…あの…薮、ヤブ医者以外の所へ…」
夢中で走る大祐に綾の声は聞こえない…
「あ!何だ!大丈夫だ!もうすぐつくから!頑張れ!!もう喋らないで大丈夫だ!!」
するとたどり着いたのはやはり…薮 歯科だった。
あわてて出てくる薮、綾はまたレントゲンを撮った後、診察室へ行く、
「な…なんてこった…虫歯が左上奥歯にも転移している…」
「転移!?」号泣しだす大祐
綾は頭の血管が切れた、薮の座る椅子を蹴り飛ばす、薮は転んだ、綾、捻挫悪化…
「なっ、何するんだい!?」
「あたりめーだろ!!このヤブ医者!!なんも治療しねーで幻覚がどうとか、足がどうとか、肝心の虫歯ほったらかしてりゃあ、他に移るのきまってんだろーが!!」
綾の態度に薮と大祐は呆然とする… すると久美子と優が慌てるように入ってきた。
「綾!!」
綾はしばらく時が止まり、号泣しながら座り込んでしまった…
結局、また治療は何もしてもらえぬままで綾は優と二人で帰宅する、大祐と久美子はショックのあまりに薮 歯科で寝込んでしまった。 綾の住む集合団地と街を橋が繋ぐ、その間を流れる川、
綾は途方に暮れていた…
「フィンランドで歯医者やっても患者が少なくて全然商売にならないんだって、知ってた?」優は綾を励まそと、又、たわいもない話をする。
「あの歯医者も十分に商売になってないと思うよ…」
綾の声が暗い…話が終わってしまった…
「なぁ、虫歯って人にも移るのか?」優が綾に問いかける、
「さぁ、キスでもすれば移るんじゃない…」
やはり声の暗い綾…すると、優は急に綾を抱き寄せてキスをした…
…………時間の止まる綾、
「今度から俺がおまえの辛い事も、痛い事も半分もらってやるから、元気出せよ…」
「…うん、 アリガトウ……」
虫歯の事は納得いかないけど、虫歯のおかげで少しだけ淡い思いができた綾であった。