災難
薮 歯科からの帰り道、久美子と歩く綾、
「たたが虫歯なのに、どうもみんなどうかしてる…」
どうしても綾には今朝からの全員の行動が理解できなかった…
「お母さん、私このまま別の歯医者さん行ってみるよ」
綾は久美子に言う、
「薮先生があぁおっしゃっているのよ…大学病院にでも行かないと、何も変わらないわよ…」
久美子が途方に暮れたような表情で言う、
(大学病院…やっぱりお母さんまでおかしい…)
自宅に着くと綾は、また奥歯が痛み始める…とりあえず薮からもらった薬を飲む……スースする…(これはもしかしてフリ○クじゃないの…あのヤブ医者め…)綾は怒りに体が震える、 もう限界だ、綾は久美子に別の歯医者を要求しようと台所に向かう、綾は久美子に薬(フリ○ク)を投げつける、
「お母さん、もう限界!!明日ちがう歯医者行ってくる!!」
すると、ちょうどそこに大祐が帰宅する、
「ただいま…二人ともどうしたの」
久美子は大祐に、綾の虫歯の事を説明した… 泣きながらやけ酒になる大祐…やはり綾には理解不能…
「だからあれほどいったんだ…ガキの頃からキシリトールはちゃんと食わせろって」と大祐は言いながら号泣、
「まぁ、それは間違ってはいないかも…」と思う綾、
「綾、大丈夫だ、まだ治らないと決まったわけじゃねぇ…きっと神様はおまえの見方してくれるはずだ」
なんだか虫歯が本当に大変な病気なのかと思いはじめる綾であった…
翌日、フリ○クの効き目とは全く思わないが、昨日の晩も痛みはなく、ぐっすり休めて本日はすがすがしい朝である。
いつもと同じように朝食の手伝いを行う綾であるが、久美子の妙な気づかいがどうも落ち着かない…大祐も起きてきて綾に気づかい始める
「ここはお父さんがやるから、綾は横になってなさい」
綾のストレスは頂点まできていた…
「いい加減にしてよ…みんな虫歯くらいで昨日から大げさなのよ」
「綾、おまえ…どれだけみんなが、おまえの事心配してると思っているんだ!!」
何故か綾は、大祐に頬を叩かれる、折角具合のよかった奥歯に刺激が走った…
騒ぎで目覚めたか、由香が起きてくる…
「うるさいなぁ…朝からみんなして虫歯、虫歯って大げさなのよ…」
「…いた、常識人がここにいた…」
綾はうれしくてたまらなかった。
「そうよね由香!虫歯くらいでみんな大げさなのよね!」
綾が由香に問いかける、
「何が虫歯よ、虫歯くらいで……」
すると由香の目からツーッと涙がこぼれた、
「やっぱり……全然常識人じゃなさそうだ…」 大祐に叩かれた痛みと由香への期待の裏切りから綾は布団に潜り込んだ…
父の作った綾への朝食は、おかゆとすりおろし林檎…よく考えたら、昨日の昼からゴタゴタで、ろくに昼食をとっていない、
それなのにこの朝食、体がもたない…
「虫歯の事考えて食べやすい食事をつくったから」
大祐が自信ありげに話をする、
「あ、ありがとう…」
綾は完全に流していた、
空腹と炎天下にフラフラしながら、綾は部活へ向かう、
「冗談じゃない…地区予選まで一週間切ってるのに、こんな事に振り回されてる暇はないんだ…」
綾は昨日までの、穏やかな綾ではなくなっていた…
部室に着くとそこには整列する部員と吉岡の姿、
「おはようございます…」
(こんな早くから何してるんだろう?)
「加藤、ちょっといいか…」
吉岡が綾を校庭の方に連れ出す。
「先生、何ですか?」何か、言いづらそうな吉岡に綾が問い掛ける、
「加藤、今回の地区予選なんだが、加藤は見合わせた方がいいと思う…」
「えっ!何でですか!練習の調子も悪くないし、自己ベストでも上がってるの先生見てくれてますよね…」
興奮して食ってかかる綾に無言の吉岡…吉岡は綾に何か、伝えづらそうであった。
「加藤、おまえは今虫歯の治療に専念した方がいい、そうでないとおまえは取り返しのつかない事になる」
「はぁ〜また虫歯ですか?」
もうなにが正しい答えなのかすら解らない、わけが解らなくなった綾に昨日からの空腹と、炎天下の下で頭に血が上った為、貧血が起こり、綾は倒れこんでしまった…
「加藤!加藤!おい!誰か!」
かすかに吉岡の声が頭の中で聞こえたまま、綾は気を失ってしまった…
「綾、綾!綾!!」
久美子の声が頭の中で響く、気がつくと綾はベッドの上に横たわっていた、
「お母さん…ここどこ…」
「薮先生の所よ」
薮…それを聞くと綾は急に飛び上がるように起き出した。
「は?私、貧血で倒れたのよね?なんで歯医者に運んで来るわけ?」
久美子に怒鳴りつける綾、
「虫歯が進行して貧血になったかもしれないからね…」
薮が姿を表す、
「はい?ちがいますから」
「まぁ、昨日の薬の副作用もあるかもしれないがね」
「アホ、このヤブ医者!!昨日の薬じゃなくてフリ○クじゃねーかよ!大体、貧血起きたのも、昨日からしょうもない話に巻き込まれて、朝から粥と林檎なんて病人みてえな飯しか食ってねぇからだよ!!」
「綾、先生になんて事を…」
ショックに泣き出す久美子、
「虫歯が進行して言語にも影響されはじめてるか…」
(虫歯じゃなくてあんたらが原因だよ…)
思っても言葉が出ない綾、
地区予選も出れない、イライラする、周りの人間はよくわからない…
確実に言える事は、このストレスだけは虫歯が原因だと確信する綾であった。