4話 異世界に来てしまったようだ
突如現れた銀髪少女。いや、さっきの少女の風貌が変わっただけだろうか。髪型はそのまま、少女の金髪だけが、染めたようにきれいな銀灰色になった。舞踏会の踊り子のようなドレスはフリルがついていてとても戦闘用のものには思えないのだが、両手に握られた双剣がそれを否定していた。星の光に輝く西洋刀剣が一度振り上げられ
「覚悟しなさい!!」
振り下ろされた右の剣の軌跡から暴風が吹き荒れ、森全体を揺らした。
銀髪少女が仁王立ちのような姿勢をとったかと思うと
「はぁっ!!」
覇気があるがどこか子供っぽい可愛らしい声をあげて、ダンッ!踏み込んだかと思いきや、次の瞬間にはズメイの目の前まで迫っていた。
速い....!
動きがもはや人間のものではない。先ほど少女が唱えた何かが関係しているのだろうか。
走り出しただけなのに、少女の体のあたりから真空波のようなものが、無数に飛び出してきた。
一瞬、おびえたようなそぶりを見せたズメイも、
「グオオオォォォ!!!」
と声をあげて応戦した。
間もなく、少女の左手の剣とズメイの右手が出会い、空気が割れるような音がする。二つの勢力が互いに牽制しあい、鍔迫りあいになる。
しかし、少女の右手に握られたもう一つの剣が、大きくかぶりを振ってドラゴンの腹へと薙ぎ払われた。
「ガァッ!!」
腹への衝撃からか、肺から空気が絞り取られたような声が、ドラゴンから発せられた。瞬間、傷口が生まれ、ほぼ黒に近い色の血が流れだした。見たところ、ドラゴンの皮膚は戦車のような装甲で、骨塊のようになっているにも関わらず、少女の剣は深い傷を負わせたようだった。
ドラゴンが痛み故に一歩あとずさり、少女も遠心力で一旦後ろに移動した。
少女が地に足を着け、すぐに次の攻撃を繰り出そうと、再度地を蹴った刹那
「グアアアァァァァァァァァ!!!!!!!」
少女めがけて口から灼熱の火炎を噴出した。少女はしまったと言うように目を見開いた。少女の体は勢いよくドラゴンの方へ真っ正面から向かっており、避けることは不可能だった。急いで方向転換しようと足を着けようとするが間に合わない。少女の目が、痛みに備えて閉じられた。
と、思ったが
「『レード』」
再度謎の言葉を口にし、左腕の周りに結界のようなものがうごめく。
「『アクト』!!」
目をあけ、そう叫んだ瞬間
前に突き出された少女の左手から暴風が巻き起こった。
その強さにドラゴンが翼で顔を覆い隠す。しかし、ドラゴンのもとへは風だけでなく、風によって進行方向を変えられた火炎が襲い掛かった。
「グオオッ!グオオッ!」
熱喘ぎの中、ドラゴンが苦痛の鳴き声をあげる。よく見るとドラゴンの方へは風にのったかまいたちのようなものが同時に襲い掛かっていることが分かった。
パシュッパシュッ!と体に浅い傷を入れていく。生まれた傷口に再度かまいたちが触れ、さらに傷口を深くしていく。ドラゴンはたまらず振り返り、その背中にもった翼で空へと逃げていった。かき分けられた木々が、ガサガサッと音をたてた。
俺は、終始ぼーっとその場に立ちすくんでいるだけだった。
なぜか分からないがドラゴンが現れ、なぜか分からないが金髪少女が変身的なことをして銀髪少女になって自分を助け、なぜか分からないが魔法らしきものが使えた少女はドラゴンを追い払ってしまった。
全くもって意味不明だ。
すると、頭がパンク状態の俺に銀髪少女が近づいてきた。
少女の容姿の変わったところと言えば、金髪が銀髪になったことだけではなかった。その身にまとったドレスはパールホワイトでフリルの付いた、とても戦闘には向いてなさそうな服。また、少女の両手には西洋刀剣であろう双剣が握られていた。日本刀ではない、打撃攻撃を主としたように、太い剣。
髪型も変わらなかったが金髪が銀髪になっただけでも印象がガラッと変わって、少し冷酷な雰囲気を醸し出していた。
目の前に足が迫る位置で、少女は立ち止った。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ、大丈夫だ」
さっきの威勢はどこへやら、といった感じの拍子抜けした声で返す俺。
「やだ!怪我してるじゃないですか!」
「えっ....」
よく見ると、右腕に擦り傷ができていた。さっきのかまいたちの流れ弾でも食らったのだろうか。
すると、
「『モディフィ、フォルマ』!」
少女が会った時も聞いたような魔法のような言葉を言うと
青い炎が俺の右腕に現れた。
「のわああああ!!なにすんだてめええぇ!」
炎を消すため、手を振り回す。が、なかなか火は消えない。
「だ、大丈夫です!これはそういうのじゃないんです!」
「何が大丈夫だ?!いいから早く消せ!!」
熱さに耐えようと、両目を瞑ったが
全く熱くはなかった。いや、熱はあったが何かを癒すような温かいにとどまる程度の温度だった。
その炎が現れたところが傷ができているところらしく、元通りの姿へと治っていく。
大した傷ではなかったが、後には傷があったなどと思わせないほどきれいさっぱりなくなってしまった。
「お、おぉ....」
「治った!よかったー。あ...」
少女が安心するも、何かに気づいたように手で口を覆う。
「『イント』!『イント』『イント』!!」
左手をぶんぶんと振り回しながら、またしても出た謎の言葉を連呼すると、少女を包んでいたドレスや握られていた双剣が、光の粒となって空へと消えていった。
少女が焦りながらいう。
「こ、これはっ違うんです!私はディザスターとかじゃなくて、今のも具象魔法を使っただけでディザストとか、かっ関係ない....です」
もう何を言っているかなんてどうでもいい。
ただ、今までのわけの分からないことを、たった一言で片づけられる魔法の言葉がある。
異世界に、来てしまったようだ....