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9/19

地主


 次の朝。

 三人はそろって学校へ。

 「御刀君のお父様ってご立派な方ですね」

 これはまんざらウソではない。

 「とても地方の地主には見えませんわ」

 ルリはリョオの横顔をレナ越しにのぞき込んだ。

 “本当に地主なのだろうか”

 最初、

 地主の息子と聞いて納得していたのだが

 その確信がゆらいだのは

 リョオの父を見てから。

 リョオの父親。

 どう見ても

 とても地主には見えなかった。

 リョオの方は地主のボンボンにしか。

 いや

 親は立派でその息子は

 ○○という例は-----多々ある。

 やはり-----それかな。

 独特の感と言おうか

 なんと言おうか。

 思い過ごしかも知れないが

 なぜかそう思えて仕方なかった。

 あの力。

 いかにレムルレング界には

 超能力の巨人が多いとはいえ

 地主程度とはとても考えられない。

 地主には地主の

 力のレベルというものがある。

 見るものが見れば

 それはわかるものだし

 あれ程の力の者を

 地主のまま、おいておくはずがない。

 それに、

 魔界の者どもに狙われる怖れがある者は

 人間界などにいる際

 身分を隠している場合も多い。

 それかも知れない。

 レナにしろルリにしろ、

 そういう者は何人も見てきている。

 もちろん自己申告通りの者も多い。

 また逆に地主でもないのに-----

 という者もいる。

 しかし

 彼らがいかに身分を隠そうとも

 レナたちが見れば

 その持っている力のレベルから

 あらかた想像できるのだが。

 “やはりリョオの父は地主などではなく”

 それが確信めいたものになっていた。

 その矢先。

 今朝出がけに

 レムルレング界にいるルリの知り合い

 -----実は部下‐‐-

 から連絡が入ったのだ。

 やはりラートスの息子アイアトスとは違うらしい。

 送ってきた写真が全くの別人。

 「手に入れた写真が間違いという事は」

 「それはもちろん考えられます。

 しかしティトス様の時と同様に

 きっちりと調べたと

 間違いないとのことです。

 それに

 現地へも出向いて本人を

 ファルクレムス地方へ行き

 ラートスという地主を

 直接その眼で確かめたそうです。

 遠目ですが。

 まさか直接本人に、

 本人かどうか尋ねるわけにもいきませんので。

 そのラートス。

 息子のアイアトスとともに屋敷に

 今現在おられる事を

 確認したと知らせてまいりました。

 この写真の本人がです。

 周囲の村人たちにも確かめたそうです。

 間違いありません。

 ラートスの写真も送ってきました。

 これがそうです」

 写真を差し出す。

 「御刀君のお父様とは」

 「全くの別人です」

 「やっぱり。

 でも地主でなければいったい。

 御刀君にも何か素性を明かせない理由が」レナ。

 “何。どこかの道楽息子の酔狂に決まっている。

 その方が遊びでも何でも”

 ルリはそういう者を何人も見ている。

 「それでなおくわしく

 その線からたぐっていけないものかと

 調査中とのことです。

 でも-----盗賊のたぐいなどではないですよ。

 きっと」

 「ルリ。

 冗談にもほどがあります。

 御刀君に限って」

 レナは本当に怒っていた。

 「申し訳ありません。

 そのようなつもりでは」

 もちろんルリにも

 二人がとてもそのようには見えない。

 ルリのあまりのしょげように。

 「わかっています」

 レナはできればすぐにでも

 自らレムルレングへ乗り込んで行きたかった。

 しかしレムルレング界へ通じる

 レイファグル・ゲートが開くのは一月も先。

 それにそこには-----ジュピトス様がいる。

 “御刀君はいったい”

 レナはリョオの横顔をジッと。

 “レムルレングではきっと名のある”

 リョオの父を見たときのゾラグムの驚きよう。

 まさか、あのゾラグムが逃げ出すとは。

 レムルレング界では

 余程名の知れた超能力者なのだろう。

 でなければ

 たかだか地主にあのゾラグムが。

 あの時ゾラグムをしめあげてでも

 御刀君のお父様の素性を

 聞きだしておくのだった。

 “きっとジュピトス様配下の名のある。

 これでは本当に、

 御刀君にラトラスへ来てもらえるのだろうか”

 レナは不安だった。

 幼稚だと思われようが

 そのような-----考えが頭の片隅から離れない。

 リョオとリョオの父の写真でも送って

 その線から調べられれば楽なのだが。

 リョオはともかくリョオの父は写真に写らないか。

 確かめてみなければ。

 リョオの写真だけでも送れれば。

 とにかくさらにくわしく調べてもらう必要がある。

 「ところで季崎きさきさん。

 親父とどこかで会った事はない」

 「どうして?」

 「イヤ、親父の奴。

 私が聞いても答えてくれないんだが

 どうも季崎さんの事を知っているようなんだ」

 リョオのその言葉に

 レナは目の前が真っ暗になった。

 もし本当にリョオの父がジュピトス様の配下で

 レナたちの事。

 ティトス様との縁談のことを知っていれば。

 これはどうしても

 御刀君のお父様が誰なのか

 確かめておかなければ。

 レナの素性が知れた時に大変な事になる。

 「何か事情があって

 話せないのはわかっているんだが。

 その君のお父さんの知り合いとかいう人との

 縁談が原因なんだろう。

 相手は誰なんだい」

 「御刀君。聞かないでください。

 レナ様はその事で非常にお悩みなんですから」

 “言えば確実に”

 「悪かった。ごめん」

 リョオはレナのあまりの落ち込みように

 口をつぐんだ。

 「それよりも御刀君のお父様って

 本当はどういうお方なのですか」ルリ

 リョオはマズイという表情。

 「きっとレムルレング界の。

 ジュピトス様配下の名だたるお方。

 地主というのは仮の姿か何かだったりして。

 図星でしょう」

 ルリが冗談めかしに。

 「本当に地主だよ。

 妙な期待しないでよ。

 ゾラグムを倒したくらいで」

 歯切れが悪い。

 しかし言うわけには。

 その様子が一層レナたちに不安をあたえた。

 「いったいどういう御用で

 お見えになられたのですか」

 “まさか私たちを捜しに来たのでは。

 それにしては妙だ。

 それならばあの時、

 もっと別の反応を

 態度を私たちに取ったはず。

 という事はティトス様との縁談話を

 ご存知ないのかも 。

 するとジュピトス様とも関係ないのでは”

 レナは無理にでもそう思いたかった。

 「いや、何」

 リョオは言ったものかどうか迷った。

 「実は縁談なんだ」

 「縁談?」

 レナは真っ青。

 “ティトス様と?”

 「誰の」

 ルリは恐る恐る。

 「エッ!

 もちろん私の」

 レナの顔色が突然変わった事で

 リョオはびっくりしたよう。

 「御刀君の」

 「そう。

 親父の奴。しつこくてね。

 早く身を固めろって」

 レナは大きく息を吐き出した。

 “御刀君の縁談で来られたのか。

 だったら心配する事もないか。

 しかし縁談とは”

 「それでどんな方ですの。

 相手の女性かた

 ルリはこの線から

 リョオの父の素性を

 たぐっていけないものかと考えていた。

 またレナのためにも

 聞いておく必要があると思った。

 しかし、一番の理由は。

 ただ-----知りたかった。

 「それが知らないんだ。

 名前も聞いてない。

 どうせ親父の持って来る縁談だ。

 相手もロクな者じゃないと思ってね」

 リョオはレナに気を使って

 “そんなの目じゃない”

 という事を強調したかった。

 「もちろんレムルレング界の方」ルリ。

 “そういえばレナ様にも

 ジュピトス様からのお話がある前に

 レムルレングの地方領主の貴族の息子から縁談が。

 レナ様も相手の名も聞かずにおことわりになられた。

 よくある話だ”

 「そうだと思うけど。

 わからないよ」

 “こりゃ。だいじょうぶだわ”

 ジュピトス様の事も気になるが

 やはりリョオの縁談となると

 気にならないわけがない。

 「でも御刀君ぐらいになると、

 この手の縁談はなしも多いんでしょ。

 例えばどんな女性かたが今まで」ルリ

 「まあね。

 何度かお見合いもしてみたんだが。

 無理やりね。

 気に入ったのがなくてね。

 どれもたいしたのはいなかったよ」

 リョオはつとめて事もなげに

 “たいしたのはいなかった”

 を強調した。

 その力強い言葉に、

 レナも幾分安心した様子。

 最初は縁談話があるたびに

 見合いをしていたが

 今ではもう。

 名前を聞く気もない。

 仕方なく見合いの席に出る時もあるが

 スッポカス方が多い。

 昨日の魔界の者たちとの騒ぎも知らず

 町はいたって平和そのもの。

 小鳥たちのさえずり。

 それも通り過ぎていく自動車クルマの群に消し去られ

 いつもながらの喧騒の中

 リョオたちは学校へ。

 そこかしこに同じ制服姿の人影がチラホラと。

 「それでお見合いをなさるおつもりですか?

 その女性かたと」

 「絶対しない。

 約束する」

 リョオは反射的に答えていた。

 “一度、見合いをすれば親父も納得するんだが。

 これではとてもできんな”

 「そんなわけもわからない相手と

 私がなぜ見合いなんか」

 「そうですわ。

 そんなどこの馬の骨ともわからない女と

 レナ様のほうがずっと」ルリ

 「そうだよ。

 堆星さんもそう思うだろう。

 きっと、コーンな顔をした○○に決まっているさ」

 今までがそうだった。

 政略結婚とはそんなもの。

 光対こうつい高等学校と看板のかかった校門が見えてきた。

 「おはよう」

 「御刀君たち、

 仲いいわね」

 クラスメートの女生徒が冷やかしの声を飛ばした。









 どことなく憂いを含んだレナ様の横顔。

 “ジュピトス様の一件だけでも

 レナ様は心を痛めておいでなのに

 御刀の奴め。

 ここで自分の縁談話など持ち出しおって

 あの馬鹿。

 どうせことわるつもりなら

 だまっていりゃいいものを” 

 こう思うのはルリだけだろうか。

 今までは

 リョオの前にいる時だけは

 つとめて明るく振舞っていらっしゃったのに。

 傍目にもそれは痛々しく。

 それを

 あの馬鹿が縁談話など

 レナ様にするものだから。

 今では二人きりで話し合っているときでさえ 

 どことなく。

 “ここは一発。

 カツを入れて元気づけねば”

 「レナ様」

 ルリは思いっきり明るく声をかけた。

 レナは二度三度呼びかけても気づかない。

 「ルリ」

 驚いたという表情で顔を上げた。

 「変ですよ。

 何度もお呼びしていますのに」

 「ごめんなさい。

 気がつかなくて」

 「いったい、何をお一人でお悩みなのですか。

 ジュピトス様の事ですか。

 それとも

 御刀君の縁談の事ですか」

 もちろん後者に決まっているのだが

 ルリはきわめて事もなげに本題に入った。

 「ルリ。相手の女性かた

 本当にどんな方かしら」

 レナにしろ縁談の相手の事しか

 頭になかったらしく

 きわめて素直にこの言葉が飛び出してきた。

 “こりゃ、相当重症じゃわい”

 「だいじょうぶですよ。

 御刀君はレナ様にベタボレですから。

 それにお見合いなんてしないって

 あれだけはっきり

 断言なさってたじゃありませんか」

 “アテにはならんが。

 ああは言っていてもいざとなると。

 気をつけなければ。

 御刀の奴め。

 見合いなどしてみろ。

 このルリ様が許さん。

 必ずつぶしてくれる”

 そう思うルリの目は爛々と。

 「御刀君が私に。

 ルリ、そう思う」

 レナの顔が輝いた。

 「はい、間違いありませんわ。

 私、そのあたりのカンは鋭いんですよ」

 まあ、誰でもわかるか。

 しかしこの状況でレナ様を元気づけるには

 そう言うしか。

 「でも、お父様がお見えになっておられるし。

 もしお見合いでもして

 相手の女性を気に入ったなんて事にでもなれば」

 “その可能性は大いにある。

 恋する乙女の

 悩みのタネはつきないものなのじゃ”

 「だいじょうぶですわよ。

 この世にレナ様以上の方が

 いるはずありませんもの。

 それに御刀君。

 レナ様のことしか眼中にないですよ」

 「そうなら

 うれしいんだけれども。

 でもお父様が

 直接いらしてらっしゃるって事は

 今回の縁談

 相当力を入れてらっしゃるって事でしょう

 それにそのお父様に、

 私、昨日お会いしているんだし

 その上でお父様が

 御刀君のお見合いを進めるって事は、

 私が気に入られてないって事でしょう。

 そんなにお父様のおメガネにかなった方なら、きっと」

 “納得。

 するなっての”

 「心配いりませんわよ。

 レナ様が

 御刀君のお父様にお会いになられたのは

 昨日が初めてですし。

 それもたった一回きり。

 ちょうどお父様も

 御刀君の家にいらっしゃる事ですし、

 レナ様のいいところを見せれば

 お見合いの話なんてどこかへ吹っ飛んでしまいます」

 「そうかしら

 でも私がお会いしたのは初めてでも、

 御刀君の話では

 お父様、私のこと以前からご存知のようだし」

 “恋する乙女というものは

 あれやこれやと思い悩むものなのじゃ”

 「本当に知っているんですか。

 知っていればもう少し敬意を払ってくれますわよ。

 なんといってもレナ様はローレム様の御息女。

 たかだか地主な-----ど-----」

 ルリは口をつぐんだ。

 レナのつりあがりかけた眉がもとに戻る。

 「それもそうね。

 きっと御刀君の思い過ごしよね」

 「そうですわ。

 それにジュピトス様の一件が片付けば、

 王様にお願いして」

 「どうするの」

 「裏から手を回して

 その縁談、潰せばいいんですわ」

 レナはびっくりした様子。

 「ルリ、それはいけないわ。

 そんな事をすれば御刀君に嫌われるし」

 “この手はダメか。

 それならば”

 「だったら王様に、直接、

 御刀君のお父様にお会いしていただく。

 何せこちらはラティファルムス、ラトラス国王。

 一発で決まりですわ。

 御刀君のお父様にしても

 息子が玉の輿に乗るとなれば

 もう,諸手を挙げて大賛成。

 そんなわけのわからない縁談なんて

 跡形もなく消えてなくなります」

 そう語るルリの両の目はいつになく-----

 いや。

 いつも通りか。

 爛々と輝いていた。

 “王様にお会いした時の

 御刀君のお父様の顔が見ものじゃわい。

 腰を抜かしでもするような事に

 ならなければいいが”

 「そうなると後はジュピトス様の件だけね」

 「はい」

 不屈のルリもここで詰まった。

 「でもすぐにおあきらめになられますわよ。

 きっと」

 語意に今までの力はない。

 こればかりはいかにルリでも

 どうしようもない。

 それが伝わったのかレナまで。

 「それに御刀君の事が

 もしジュピトス様に知れようものなら。

 それが原因で

 ティトス様との縁談が壊れたなんて

 思われでもしたら」レナ

 “確実にレナ様

 御刀君と結婚できなくなる。

 下手をすると御刀君。

 ジュピトス様に”

 「レナ様。

 今からくよくよと

 そんな事お考えになられても仕方ありませんわ。

 とにかく、ジュピトス様がおあきらめになられるまでは。

 それまでは御刀君にも、お父様にも

 決してレナ様の素性を

 お明かしになってはいけませんわよ」

 レナはルリの言葉に力なく微笑み返した。







 


























 庭を望む大きな窓越しに

 さんさんと日が降りそそいでいる。

 広い庭には様々な花を植え込んだ花壇。

 季節ごとに異なった花々。

 その香りを周囲にただよわす

 -----今咲き誇っているのは-----

 花弁のひとひらを

 小さな風が揺らしていた。

 「季崎さんだったね」

 リョオの父は今日もいたって上機嫌。

 「はい」

 リョオは父親が何を言い出すか

 不安げな表情を隠せない。

 父親にレナの事を気に入ってもらおうと

 二人を誘って自宅へ招いたのだが、

 はてさて。

 もしリョオたちの素性が知れれば

 どうなる事やら。

 父親には事前に

 キツク口止めをしておいたのだが。

 「はっきり言ってやれ。

 その方が相手もあきらめがつく」

 などとイタズラッぽい眼を向けてくる。

 リョオはムキになり。

 「親父

 そんな事をすれば絶縁だからな。

 季崎さんと駆け落ちでも何でもして

 レムルレングへは二度と戻らないからな」

 こう、脅しておいたのだが。

 “親父の奴。

 まだ例の縁談の件はあきらめていないらしい。  

 その証拠にメガトスたちに命じて、

 逃げた相手の行方を捜させている。

 下手をすると季崎さんとの事も

 親父なら裏から手を回して潰しかねないか。

 まさか”

 「そうか。

 お前がそう言うのなら黙っておいてやろう。

 知らんぞ。

 貸しておく」

 さもうれしそうにこう言った。

 とにかくリョオの父はメガトスの作り話。

 レムルレング界の地主

 ラートス役を演じてくれてはいる。

 これが非常に気に入っているのか

 悦に入っていた。

 “まあ、親父の場合。

 お忍びで町や人間界等へ行く時には

 いろいろな偽名を使っているしな。

 定期的に

 その偽名も変えないと

 すぐに有名になって。

 何せ魔界の者どもを片っ端から倒せば

 魔界中に知れ渡らないはずはない。

 その偽名のコレクションが増えたと喜んでいる-----

 のだろう”

 「お父様のお名前は」リョオの父。

 その質問にレナは一瞬顔を曇らせた。

 ここは応接間。

 リョオの父、リョオ。

 そしてその向かいにはルリとレナ。

 この四人が

 豪華な革張りの椅子に腰を下ろしている。

 ドアをノックする音とともに

 メガトスが入って来た。

 父親とリョオに深々と一礼すると

 その傍らにすっと影のように立った。

 リョオの父が呼んだらしい。

 「レナ様のお父様ですか」

 レナが答えられないでいるのを見て

 ルリが助け舟を出した。

 「お父様。

 私たちと以前どこかでお会いした事ありません」

 リョオの父は息子の横顔をチラリと盗み見た。

 「いや、別に」気まずそう。

 “やっぱり知っているのかな。

 それにしては”

 ルリは覚悟を決めた。

 “バレたらバレた時の事。

 知っていても構うものか。

 どうせ相手は玉の輿なんだし。

 後でどうとでもなる”

 ルリは一気に言った。

 「レナ様はラトラスの貴族。

 タームトス様の御息女ラティア様」

 その答えに

 メガトスが吹き出す笑いをこらえる仕草。

 リョオの父がそれを眼でたしなめた。

 レナは気まずい表情で顔を伏せている。

 「なるほど。

 それでメガトスから聞いたのだが、

 縁談話が持ち上がって

 ここへ逃げてこられたそうだが」

 この言葉にリョオの顔は引きつった。

 「親父、何もそんな事。今ここで」

 「お前はだまっとれ」

 「季崎さんたちにも事情があるんだから」

 「いえ、御刀君。いいのよ。

 どうせ-----

 その通りです」

 レナは泣き出しそう。

 「お父様。

 レナ様はその事でお悩みなのですから

 これ以上は」ルリ。

 リョオの父もレナのあまりのしょげように、

 悪いと思ったのか口をつぐんだ

 「お父様。

 それにその相手の方というのが

 これまたヒドイんですよ」

 ルリは続けた。

 「ルリ」

 「いえ。聞いていただきます」

 「どういう風に」

 リョオの父は息子の顔と

 レナを見比べながら、

 いたってご満悦。

 ルリの話を待った。

 「それは-----

 縁談の話が持ち上がりましてから

 当方で先様の事を

 いろいろ手を回して調べましたところ」

 “言っていいのかな。

 ここで言った事が

 もしリョオの父の口から

 ジュピトス様の知るところとなれば。

 まあこの地主のおっさんが何を言おうが-----

 だいじょうぶだろう。

 ジュピトス様まで届くわけはないか。

 「お父様。お約束いただけます。

 絶対,口外しないと。

 もし相手方の耳にでも入れば」

 メガトスは神妙な顔つき。

 リョオの父は力強く

 「他の者には漏らさんよ。

 約束する」

 それを聞いてルリは。

 「それが、まず、ブ男。

 苦労して手に入れたフォログラフ。

 今ここでお父様にも見ていただきたいですわ」

 あっても、見せるわけにはいかないが。

 ティトス様の顔写真など見せれば。

 「いくらなんでもあれはひどすぎます。

 素行は悪く、乱暴者。

 家にはいつかず

 どこで何をしているのか勝手放題」

 そのため本人には会えなかったらしいが。

 「しかも超能力者としても最低最悪。

 おまけに脳たりん。

 出てくるわ、出てくるわ。

 親の権威をかさに着て

 悪さはし放題。

 周りの者たちも困り果てているそうです。

 もし諫言かんげんでもしようものなら

 すぐさま。

 それではもう誰も何も言えませんし

 好き放題、勝手放題。

 どんな事をしても何をしても

 ホメるしかないという有様で。

 そうしないとそれこそ

 何をされるかわからないと。

 本人自身は能も力も頭も

 何もないものですから

 父親がつけたくれた者たちを使って。

 そんな馬鹿でも

 人の力を借りてなどと

 言われたくないのかどうだか。

 自分は特別だ。

 お前たちとは違う。

 この者たちが自分を助けてくれるのは

 あくまでも自分の徳をしたって。

 とやかく世の中が言うのは

 その自分の徳をねたましく思っているからだ。

 本当にそう思い込んでいるから怖い。

 全く影で何と言われているか

 聞かせてやりたいですわ。

 聞かせてやっても

 あそこまでいくと

 わからないでしょうけれども。

 その人によると、

 自分は立派だ。

 特別だと信じ込んでいますから。

 今にきっと世の中もわかってくれる。

 そう信じ込んでいるらしく。

 自分が特別だ。

 立派だと。

 それを世の中さえ認めてくれれば

 チヤホヤチヤホヤと

 何でもしてくれるようになる。

 それさえわかってくれれば

 本人によると-----そういう事だそうです。

 子供の頃から周りにそのように言われ

 チヤホヤされて育てられたのだから

 そう思い込んでいるのでしょうが。

 それでそれを否定する者の方が

 頭がおかしいのだと。

 みんな父親の権威にひれ伏しているのであって

 自分自身にではないという事が

 全くわからないらしく

 どうしようもないですね。

 これでは先行きどうなるのかと。

 今度の縁談の事でもそうです。

 今まで何度お見合いをしても

 そのたびごとにことわられ

 レナ様に白羽の矢を。

 全くどうやってことわったのでしょうか。

 それさえわかれば。

 あっ、いえ。

 親バカと言いましょうか。

 なんと言いましょうか。

 デキの悪い息子に

 どうしても跡を継がせたいのでしょう。

 相手の両親にしても

 息子のデキの悪さはわかっていて

 不安なのかどうだか。

 当然、わかっているはずですし。

 それならチャンと最初から

 しつけておけばいいものを。

 そのようにしつけた方が得だ。

 その方が家来がチヤホヤと

 面倒を見てくれると思っているのでしょうが。

 それでせめて嫁になる者には

 しっかりとした者をと。

 それにレナ様と結婚されれば

 レナ様の実家の力も借りられると

 お考えになったのでしょうが。

 それでどうしても

 レナ様と一緒にさせようと強引に。

 そうに違いないと

 周囲の者たちも口々にウワサをしているとか。

 いえ、私ではありません。

 そのように周囲の者が。

 とにかくひどすぎます」

 ルリの口は

 日頃のウップンもあってか

 この時こそはと非常に。

 常にないくらい。

 いや、いつも通りか。

 非常に軽かった。

 最初、笑っていたリョオの父の顔が

 少し?引きつりだした。

 「誰がそんな」

 リョオの父が怒ったように。

 「それは-----」

 言えるわけがない。

 「ルリ。

 もう、よしなさい」

 制するレナも涙ぐむ。

 メガトスはたまらず吹き出している。

 一方、リョオはレナに同情してか。

 「どう思う。親父。

 ひどいと思わないかい」

 そんな事をするようなヒドイ者は-----

 レムルレングにいたかな。

 まあ、どこにでもある話だし。

 ヒョットして。

 そう言うリョオを尻目に。

 「それでここへ」リョオの父。

 「はい。相手の方がおあきらめになられるまではと。

 しかし-----

 今回は先方もそういうわけで

 レナ様の実家の力を借りられるとばかりに

 相当力を入れているらしく。

 今までのことわり方では」

 「よほどひどい奴なんですな。

 相手は。

 どういう素性なのですか」

 リョオの父も少なからず同情した風。

 何か言いたそうだが

 リョオにニラまれ。

 それを聞くとレナはますます落ち込んだ。

 「それは。

 聞かないでください。

 どうしようもないんです。

 わたしたちでは」

「親父の力で何とかならないかな」リョオ。

 「ワシの持って来た縁談をことわったくせに

 もう頼みごとか」

 「あつかましいのはわかっているよ。

 しかしそんな奴、

 放っておくのは」

 「その-----

 御刀君の縁談のことなんですけど」

 ルリはレナの顔色をうかがいつつ

 恐る恐る聞いた。

 「相手の女性。

 どういう人なのですか」

 「リョオの縁談の?」

 メガトスが隣りで

 表情に出すまいと懸命に。

 「ああ、それ」

 リョオの父は言ったものかどうか迷っている。

 「君たちと同じラティファルムスの者なのだが

 今度はワシも相手が気に入っておってな。

 ぜひにも見合いをせいと

 リョオに言っておるのだが。

 あの娘なら、

 このデキの悪い息子も安心だと思ってな。

 それに家柄の方も

 まずまずだし。

 決して先方の実家の力を

 アテにしてるわけではないのだが。

 いや、少しはあるかな。

 まあそれは-----ともかく。

 しかし、どういうわけか

 コイツ。

 ガンとして首を縦に振りおらん。

 どういうわけか」

 そう言うリョオの父は

 満足そうにレナを見入った。

 “コリャ、後が怖い”

 そう思ったのはリョオだけ。

 「その縁談はなし

 はっきりとことわったんだから。

 まさか

 裏から手を回して。

 そんな事はしないでよ。

 それにデキが悪いはないだろう」

 リョオの父はニヤリ。

 「そんな事はせん」

 「親父が名を出せば同じ事さ。

 陰でみんなに何と言われているのか

 知っているのかい。

 怖ろしい。怖ろしい。

 それだけだ。

 誰に聞いても。

 アッ、イヤ」

 レナたちがいる。

 「馬鹿モン。

 それがワシの商売だ。

 清濁せいだくあわせ持つには

 賞罰をはっきりせんとな。

 そうせんとえらい事になる。

 お前もワシの跡を継ぐなら

 そのくらいわかれ。

 万人が納得するようなルールを造ってな。

 その通りにやっていく。

 硬直化してはならんが

 それにわけのわからん奴らに

 つけこまれるようなルールなら

 その都度変えればいいが。

 まあいい。

 しかし-----

 お前の方こそ

 今の話にあった馬鹿息子と同じで

 家にもいつかず暴れ放題だし、

 家来の言う事も。

 ワシの跡を継ぐつもりなら

 それなりの勉強もしなければならんのに」

 ブツブツと。

 「親父」

 「スマン、スマン」

 メガトスがこらえきれず。

 「それよりその相手の娘。

 事もあろうに

 ワシの持っていったこの話。

 見向きもせずに逐電しおっての」

 リョオは頭をかかえた。

 “まだ言っている”

 「親父。まだそんな事を。

 どうせ、こちらからことわるつもりだったんだから

 許してやったら」

 「何を言う。

 このワシの顔に泥を塗りおって。

 もし見つけたら

 この手で八つ裂きにしてくれる」

 そう言う眼は笑っている。

 “こういう話はどこにでもあるんだなあ”

 レナもルリも妙に納得していた。

 他・人・事・で・は・な・い・

 本・当・だ・

 “デキの悪い息子に嫁をか。

 御刀君なら-----。

 それはあるか。

 超能力者としては-----

 相当。

 これではこのオッサンでなくても

 心配で仕方ないだろうし、

 せめて嫁だけでもしっかりした者を-----か。

 でもレナ様が嫁になれば

 そんな女よりもはるかに。

 それにレナ様の実家は。

 それさえ、御刀君のお父様に

 わかっていただければ

 それで決まりか。

 こちらの方は”

 ルリは言った。

 遠慮がちに。

 「ですが、御刀君のようなステキな方を

 そでにするなんんて

 相手の女も-----馬鹿ですね。

 そんな女。

 どうせ、たいした事ないんじゃ-----」

 「ルリ」

 レナは気を回した。

 リョオの父が気に入った相手。

 リョオの父に悪いと思ったのだろう。

 「アッ。どうも」ルリ。

 “危ない、危ない。

 確かに”

 「でも私でしたら御刀君のような方。

 こちらからお願いしたいくらいですわ」

 レナはいやに積極的。

 “レナ様。

 ティトス様なんぞのためなら

 絶対に嫌だろうが、

 御刀君のためならば。

 ティトス様と御刀君。

 どこがどう違うのじゃろ。

 あれもこれも同じ”

 全て同じに思えるのは

 ルリの思い込みだろうが。

 まあいいか。

 “苦労するな。

 レナ様も。

 こんな地主のボンボンと結婚すれば”ルリ

 「季崎さんもそう思うかね。

 ワシも驚いておる。

 リョオは今まで振った事はあっても

 振られた事などない。

 それをなぜ」

 本当に不思議がっている。

 レナたちもそれは同じ。

 “どうして”

 「相手の女。

 おかしいんじゃないですか」

 ルリは恐る恐る。

 リョオの父に失礼になっては。

 しかしここはレナを売り込むチャンス。

 「その理由が知りたくてな。

 先方の父親にも

 それとなく

 さぐりを入れては見たが

 はっきりとは答えんし。

 まあ言えるわけもない-----かな。

 ワシは恐れられているらしいからな」

 リョオの父親はリョオを

 「まさか。

 娘が逃げただろうとは

 こちらも言えんし。

 どうしたものか」

 「それはそうですわ」レナも。

 “身につまされるものがある。

 他・人・事・で・は・な・い・。

 本・当・だ・”

 「例えば-----

 他に付き合っている相手がいらしたとか」ルリ。

 うまくリョオの父に

 相手の女性をあきらめさせる事ができれば。

 「いや、それはないはずだ。

 縁談話を持ち込む時に

 充分に調べてある。

 他に相手がおるのに

 無理やりというのはな。

 ワシが縁談を持って行くと

 どうしても無理やりっぽくなるのでな。

 それは避けたいしな。

 それにその娘が逃げたと聞いてな。

 先方の親にも再度確認したのだが

 いないそうだし」

 “本当のことを言っているのか。

 まあ本当だろう。

 あの様子では”

 「では、なぜ」

 「それが

 全くワシにもわからん。

 相手に会って聞いてみるしか。

 ひょっとしてリョオの

 悪いウワサでも聞かされでもしたのではと

 思っておる」

 意味有り気に。

 「御刀君の

 悪いウワサと言われましても。

 そんな事

 あるはずが。

 御刀君に限って」レナ。

 「マサカ。

 御刀君に片思いでもしている女が

 縁談を潰そうとして悪いウワサを」ルリ。

 “正解。

 それはある。

 しかしその手があったか。

 ジュピトス様にレナ様の悪いウワサを。

 これはいけるかも。

 ウンウン”

 ルリはニヤリと。

 “何せレナ様は魔界の者ども相手に。

 それを知れば

 あのような軟弱なティトス様。

 腰を抜かして。

 いや待てよ。

 ティトス様はそれでいいとして、

 もしかしてジュピトス様

 それを承知で。

 いや、

 だからこそレナ様に白羽の矢を。

 その可能性は充分にある。

 それはマズイか。

 では、どういうウワサを。

 まあ、息子がいやだと言えば

 いかなジュピトス様でも。

 とにかく今は”

 「相手の女も

 もっとよく確かめればいいものを。

 アッ、イエ」

 確かめられては都合が悪いのか。

 その女の気が変わって

 御刀君と見合いをするという事にでもなれば。

 御刀君を見て気が変わらないはずがない。

 悪いウワサがデマだとわかれば

 確実にむこうから。

 なにせ相手は

 御刀君のお父様の気に入った女性。

 どうなるか。

 「ワシもそう思う。

 もう一度良く調べればとな。

 もし相手に会えれば

 そう言ってやろうと思っておる」リョオの父。

 「気が変わられては。

 イエ、ナニ」

 “私たちとは調査能力が違うのだ。

 私たちなら

 そんなヘマはしない。

 まあ、地主のこのオッサンにビビルような相手。

 その程度か。

 現に、すでに御刀君が

 ラートスの息子アイアトスではない事も。

 しかしもう一度調べられでもすれば

 もしかして。

 どうする。

 御刀君のお父様に

 相手の親をあまり刺激されては。

 どうする”ルリ。

 「今さら。

 そんなウワサ話を良く確かめもせず

 逃げ出すような相手。

 逃げ出した理由など確めても

 しかたないのでは。

 そんな女よりもレナ様の方が」

 「ルリ」

 レナにニラまれてルリは黙った。

 リョオの父もどう言っていいのか。

 口まで出かかって。

 「それでどういう方なのですか」レナ。

 “どうせ、地主?のこのオッサンに

 八つ裂きにされるような相手。

 たいした事はない”

 ルリは断定した。

 「それは-----」

 「親父。どうせことわるんだから

 今ここで言わなくても。

 ねえ、季崎さん」

 リョオは縁談相手の線から

 自分の素性がバレては

 都合が悪いと思ってか

 父親をニラミつけた。

 「いいのか。リョオ。

 言った方がいいと思うが」

 リョオの父はもう

 うれしくてたまらないという表情。

 “季崎さんにあきらめさせるつもりか。

 相手の素性を言って”

 リョオは渋い表情。

 「まあ、そうですね。

 そんないいかげんな女。

 別に御刀君が

 お知りにならなくても。

 お耳障りなだけですわ」

 ルリ。

 “決まった”

 メガトスはこらえきれず。

 “まあ、今ここで聞かなくてもその内。

 それに御刀君が相手の事を知ればもしかして。

 ここは抑えて。

 御刀君のいない時に聞き出せば済むし。

 そして裏から手を回して。

 いやこれはマズイのか。

 レナ様が。

 しかしこちらの事を先方に伝えれば。

 なにせレナ様はラトラス国王ローレム五世の-----

 それですむし”

 ルリは話題を変えた。

 「ところで、お父様。

 レムルレング界の皇帝ジュピトス様って

 どんなお方なのですか」

 リョオの父はそのルリの不意打ちに

 思わず息をつめた。

 「ルリ」

 レナは真っ青。

 ジュピトス様の名は

 口にするだけでも

 震えが身体中を。

 ましてやその前に立とうものなら

 どうなるか。

 「ジュピトス-----様?」リョオの父。

 「はい」

 「どうして-----そんな事」リョオ。

 「いえ、なに、別に。

 ただ、ちょっと興味があったものですから。

 ご存知ありません」

 「一応は」リョオの父。

 リョオは父親を見た。

 その眼は。

 “よけいな事は-----”

 と無言の圧力を秘めている。

 「ジュピトス-----様か。

 よく知っておる」

 メガトスは口元にためておけず

 クスクスと。

 ルリはリョオの父の言葉を待っている。

 「まず力はレムルレング界でもNO.1。

 かな?」

 リョオの父は息子を見た。

 リョオはニヤリと微笑み返しただけ。

 “そんな事はどうでもいい。

 わかりきった事だし。

 それよりも”

 「お怖い方なのでしょ」

 レナ。

 恐る恐る。

 「いや、そんな事はないよ。

 ジュピトス様はお優しいお方だよ」

 リョオは何を考えたのか口をはさんだ。

 “ここは持ち上げておくに限る”

 「本当に」

 いくらかレナの表情がなごんだ。

 「御刀君。

 お会いになった事おありなのですか」

 ルリが驚いたように。

 “ただの地主だと思っていたが

 これははっきりいってマズイ。

 やはり地主では”

 「うん、まあ」

 どう答えたものか。

 「ジュピトス様は非常に気むずかしい方だ。

 普段、御機嫌のおよろしい時はいいのだが

 いったん怒らせると。

 なあ、メガトス」

 父が後を受ける。

 メガトスは笑いを噛み殺すのに懸命。

 「私にはそのような事。

 恐れ多いことでございます」

 そう答えるのがやっと。

 「例えば」

 ルリはごくりと生唾を。

 レナは顔を引きつらせた。

 「二人とも。

 何かジュピトス様に失礼でも」

 リョオの父は

 二人の劇的な変化を見逃さなかった。

 「いえ、別に」

 「もし、何か失礼な事をしたのなら

 早めにあやまっておいた方がいいぞ。

 さもないと何をなさるか」

 意味有り気に。

 「そんな。

 私たち、失礼だなんて」

 レナの声は聞き取れないほど。

 “もう、絶望”

 リョオは父親とレナたちを交互に

 何か不審げな様子。

 「二人とも。

 ジュピトス様にどんな失礼な事をしたんだい

 親父なら相談に乗ってもくれるし、

 とりなしてももらえるけど」

 「いえ、それは」

 「ジュピトス様に失礼な事などと。

 お会いした事もないのに

 そんな事あるわけないですわ」

 ルリは精一杯力を込めて。

 「それならいいんだ」リョオ。

 “まあそうだろう。

 もし会った事があれば”

 「ただ少し聞いてみただけですわ」ルリ。

 この場を何とか-----

 “しかし、まあ。

 他の超次元界の者たちは

 会うたびにジュピトス様について聞いてくる。

 その時の反応も様々。

 レムルレングにはジュピトス様しかいないと

 思っているのだろうか。

 この二人も”

 いつもの事だ。








「どうしましょう。ルリ」

 ルリも答えあぐねている。

 「御刀君のお父様が

 ジュピトス様のそんなお近くに

 いらっしゃられる方だなんて。

 私たちの事をお気づきになられるのも時間の」

 リョオの家を退出し

 自宅に戻ってからというもの

 この事ばかり気にかけている。

 「だいじょうぶですよ。

 御刀君のお父様は地主ですし。

 地主ではないにしても

 ハッタリですよ。ハッタリ。

 レナ様にいいとこ見せようと

 あんな事を言われたに決まってます」

 「でも。

 お父様にしても、御刀君にしても

 あの力。

 とても、地主などではないでしょうし。

 きっともっと上の

 やはり何か」

 あの力から見て

 どの程度の-----地位なのだろう。

 思いをめぐらす。

 「そうお気になさらずに

 要は御刀君の素性を確めれば

 すむ事ですわ。

 折を見て私が必ず

 聞きだしてご覧に入れます」

 「ルリ。

 お願いね 。

 それで皇帝城の様子は」

 問題はやはりジュピトス様。

 「はい。

 もうレナ様の事がお耳に入られたようで」 

 「それで」

 「烈火のごとくお怒りになられ

 レナ様を草の根分けても捜し出せと

 厳命なされたと。

 皇帝城内では口々にウワサを」

 「そう」

 全く力がこもらない。

 「王様のところへも見えられた御様子」

 「お父様の。

 それで何とおっしゃられたの」

 “お父様もさぞお困りでしょう”

 レナは心配そう。

 「それが。

 どういうわけか。

 御機嫌はおよろしかったようです。

 が。

 これがクワセもの。

 次にレイファグル・ゲートの開く

 一月後にお見合いをと、

 一方的に日取りを決められて

 帰られたそうです」

 「本当にあきらめていただけるかしら」

 ルリにも自信はなかった。

 「他にも」

 ルリも言っていいのか。

 「他にも何か」

 「それが-----」

 「お言いなさい」

 「それが-----

 ジュピトス様がおっしゃられるには、

 レナ様に

 他に好きな方がいるのではないかと。

 もちろん。

 王様は即座に否定なされたそうでございます。

 王様は御刀君の事を

 ご存じないですし」

 レナは目の前が真っ暗になった

 “これでは御刀君の事がジュピトス様に知れれば。

 御刀君”














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