ゾラグム
半球状のドームの片隅。
中空にそれは浮かんでいた。
突然、それはニブイ青黒い光を
不気味に発した。
直径数十センチの水晶と思しき球。
実際には何で出来ているのか
魔界の産であろう。
その黒く透けた球。
そこには魔界の住人ギドリドスの腹心
ダルガムの姿があった。
怪物たちはこの水晶と思しき球で
魔界と人間界との間の連絡を行っていた。
「まだローレムの娘の始末をできんのか」
その怒気をはらんだ声に
二匹の怪物は震え上がった。
「ダルガム様。お許しを。
ですが、少し困った事に」
「ギドリドス様はお怒りだ。
たかだか小娘二人に何を手間取っている」
二匹はギドリドスの名を聞いた途端、
ガタガタと震えだした。
「それが、その小娘どもに護衛が」
「護衛だと」
ダルガムの眼が凶悪に吊り上った。
「ギドリドス様には
護衛はいないと御報告してある。
貴・様・ら・の・言・っ・た・通・り・に・」
ダルガムは
『貴様らの言ったとおりに』
という言葉をことさら
怒気を込めて吐き出した。
「それを-----貴様ら-----
今さら
小娘どもには護衛が
などと言えると思うか。
そんな事をすれば
貴様らばかりか
このワシまで八つ裂きにされてしまうわ」
水晶球越しにでも
ゾラグムたちを八つ裂きにしかねない
ダルガムの形相。
「お許しを。
ですが奴らラティファルムスの者ではありません。
レムルレング界の連中です」
生きた心地がしない。
ダルガムの怒気がやわらいだ。
「レムルレング?」
「はい。このブラバスがその中の一人の顔を」
「あれは確かにペシルカスの奴です」
「間違いないか?」
「はい」
上目遣いに水晶球越しにダルガムの表情を。
「ペシルカスか」
ペシルカスと言えば
その力はこの魔界にまで鳴り響いている。
“奴がどうして”
「どういう事だ」
「それを今調べておるところです」
ダルガムは二匹をまじまじと見つめた。
“これはこの連中だけにはまかせておけんか。
しかし、
ギドリドス様は娘を早く始末せよと仰せだし”
「とにかく小娘二人を早くかたづけろ」