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R-15 村人

 細波さざなみ一つ立たない静かな湖面。

 そこに映る山々の連なり

 湖畔には小さなたたずまいの村があった。

 山奥のひなびた山村。

 家々もワラき屋根が多く

 などというのは今は昔。

 近代的な住居が

 しかも広い敷地に建ち並び

 千人ほどの村人が日々を送っている。

 異変が起きたのはここ一月ほど。

 夜ごと夜半を過ぎたころ

 村人が数人。

 ある時は一家まるごと、

 姿を消していくのだ。

 まるで夢遊病者のように湖の方へフラフラと。

 不思議な事には当の村人たち。

 家族の者がいなくなろうが

 隣家の住人が消え去ろうが全く意に介さない。

 気がつかないようだ。

 以前から存在していなかったと言わんばかりに

 何事もなくそれを受け入れている。

  

 



























 時計が零時を知らせた。

 一家の主が何かに取り憑かれたかのように 

 座を立った。

 それに応じるかのように家族の者たちも。

 ゆっくりとした足どりで

 我が家をあとにし歩き始めた。

 隣家の住人が暗闇の中

 湖を目指す彼らと行き会ったが

 別段気にも留めない。

 声すらかけようとしない。

 それどころかその存在にさえ気づいてはいないようだ。

 全てが異様だった。

 一家は湖へ

 細波さざなみの押し寄せる波打ち際へ。

 風が少し出てきたようだ。

 足も止めずそのまま湖の中へ消えて行った。


 
































 湖底。

 ここだけは水がない。

 まるで見えない壁にさえぎられているかのように

 水が浸入して来ない。

 半球形のドームの一画。

 もちろんその外は湖水で充ち満ちている。

 湖底であった地面のそこかしこに

 明らかに血のあとと思われる赤黒いシミ。

 何やら衣服と思しきものの

 切れ端が散乱していた。

 その見えない思念の壁をすり抜けるように

 人影がその中へ。

 先ほどの一家だ。

 水の中を呼吸も忘れ、

 催眠状態のまま歩いてきたせいか

 皆顔色が青白い。

 「今日の獲物はこいつらか」

 口元からあふれ出る唾液をぬぐおうともせず

 ゾラグムと名乗る怪物は

 あわれな犠牲者を凝視した。

 「人間界の奴らは

 魔界にいる魔獣どもよりはうまいが

 やはり味が一番いいのはレムルレングの連中だ」

 もう一匹の怪物、

 ブラバスは何かに憑かれたような目で

 あらぬかたを見つめた。

 「そうボヤくな。

 レムルレングにしろラティファルムスにしろ

 あのあたりはうるさい連中が多い。

 下手をすると」

 ゾラグムは右手で首のあたりをスッとなでた。

 実際、レイファグル・ゲートを越え

 そこへ乗り込んで行った

 腕自慢の者たちからは

 全く音信が途絶えている。

 風のウワサでは

 中には命からがら逃げ帰った者もいるが

 その連中

 完全に再起不能。

 魔界のモノは

 腕がなくなろうが

 足が千切れ飛ぼうが

 首から上が消し飛ぼうが

 腹に風穴が開こうが

 すぐに元にもどるほど

 再生能力にたけているのだが

 全くその力もなくなり

 超能力を使う能力も失せ

 全くの役立たず 。  

 ギドリドス様の逆鱗げきりんに触れ

 八つ裂きにされてしまった。

 ゾラグムもブラバスも

 その時の光景が

 ありありと脳裏に焼きついている。

 「どうする」

 どうするとは目の前の獲物の事。

 「始めるか」

 ゾラグムの眼が黒い光を発した。

 広い半球状のドームの中を

 女性の悲鳴がこだました。

 催眠状態が解かれたのだ。

 一家団欒だんらん

 家でくつろいでいたはずなのに。

 突然

 目の前には見るもおぞましい怪物二匹。

 しかも全身濡れねずみ

 息が苦しい。。

 身体は-----動かない。 

 だれもが恐怖にすくみ声も出せない。

 ヒザに力が入らない。

 ゾラグムがおもむろに前へ出た。

 その中の一人の頭を

 太いカギ爪のはえた腕でつかみ上げ

 「ブラバス、今日のはなかなかイキがいいぞ。

 この暴れよう。どうだ」

 「こっちもだ」

 もう一匹の怪物もすでに獲物に取りついている。

 ゾラグムは男の身体を肩口から

 一気に引き裂いた。

 くぐもった叫びが続いた。

 ゾラグムは手にした肉片を口元へ

 眼は残忍な喜びに満ちあふれている。

 ニブイ。

 骨を噛み砕く音が異様な響きを残す。

 「味はもう一つだな」

 ゾラグムは苦痛にのたうつ男を

 惜し気もなく放り出した。

 それは湖水とこの空間を隔てている

 黒くにごったような

 しかし透明な思念の壁を越え湖底へと。

 「俺様の口には合わん。

 魚のエサがいいところだ」

 などと口走りながら別の犠牲者を。

 「次はお前だ」

 腕をもぐ。

 「俺様は美食家なのでな

 まずは味見」

 口元へ。

 今度は満足した様子。

 異様な臭気を放つ唾液が水のない湖底へ。

 生贄いけにえの女は苦痛に

 恐怖にもがいている。

 まだ若い。

 「心配するな。

 お前は味がいい。

 手足を一本ずつゆっくりと味わってやる。

 自分の身体が喰われていく様を見る気分はどうだ。

 何、手足の一本や二本で死にはせん」

 ゾラグムは足をもぎ取った。

 鮮血がゾラグムの全身を赤く染めた。


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