ラティファルムス
放課後。
レナはリョオにべったり。
リョオの方もまんざらではない様子。
校門を出て帰宅する道すがら
ルリは二人の邪魔にならないように
後ろからついて行く。
“姫様のあの楽しそうなお顔。
それにしても姫様があんなに積極的だったとは。
ここ一月ほどの憂いもどこえやら。
でもあの御刀君。
やっぱりおかしい。
催眠暗示が全く効いていないにもかかわらず
私たちと平然と付き合っている。
普通の神経ならば、
気味悪がって近づかないはず。
やっぱり鈍感なのかな。
んな、アホな!
と、いうことは”
ルリは意を決して二人に近づいた。
直接聞いた方が早い。
さて、どう聞くか。切り出すか。
「御刀君」
ルリの声に二人は振り返った。
レナはルリの語意の強さに
少しとまどった様子。
一方、リョオは。
「堆星さん。ごめん、ごめん
仲間はずれにして」
と、わけのわからん返事。
思い切ってルリは質問をぶつけてみた。
「御刀君は私たちの事
変だと思っているんでしょ」
レナはそれを聞くや慌てて。
「ちょっと、ルリ」
制した。
リョオは真顔になった。
キリリと引き締まったハンサムなその表情に
ルリでさえ、一瞬、胸が詰まった。
「ああ、もちろんだ」
隣りのレナに気を使うように
その顔をうかがっている。
「ある日,突然、
見たこともない二人が入ってきて
今まで長年そこにいたかのように振舞う。
そればかりか
クラスの他の者たちや先生たちまでも。
誰だって変だと思うさ」
「あなたには
私たちの催眠暗示が効かないようね」
レナも心を決めたよう。
これ以上とぼけていても仕方ないか。
「実は私たちは
この世界の人間じゃありません」レナ
「やっぱり」
「御刀君。あなたもね」
「うん」
その答えにレナの顔がパッと輝いた。
同じ超次元人なら遠慮はいらない。
しかしそれならそれで他に心配も。
もしジュピトス様の事が
リョオに知れれば-----どうなるか。
連れ戻されるにしろ、それまでは。
「私たち二人はラティファルムス界の者です。
あなたは?」
「そうか。ラティファルムスか。
ゾルトレス界やレーライル界の人にしては
力が強すぎると思ったんだ。
私はレムルレング界の者だよ」
レムルレングという言葉を聞いた途端
二人の表情が強張った。
「どうかしたの」
「いえ。何でも」
レナは何か思いつめたような様子。
ルリも押し黙ってしまった。
「レナ様。
絶・対・に・ジュピトス様の事は言ってはいけません。
言ったらおしまいですからね」
「エエ。
でも」
と硬い表情。
“しかし何でまた、
よりにもよってあの男
レムルレング界の者なのよ。
はっきり言って都合が”
超次元人の場合、
下位の超次元の者よりも上位になるほど
その持つ超能力も
強力となっていくのが普通である。
しかし-----
レムルレング界といえども
超能力者にはピンからキリまである。
超能力者として生まれたにもかかわらず
中には最下位界の者より
能力の劣る者もいる。
また全くそのような力を持たない者も。
ルリの見た限りでは
あの御刀君。
さ・ほ・ど・-----甘いか-----いや、甘すぎるか-----
力があるとは思えない。
そう言えば、聞いたウワサでは
ジュピトス様の御子息も
たいした事ないとか。
しかし顔は-----
いや、それはさておき
地位にしてもあの様子では
どこかの地主のボンボンがいいところか。
「心配いりませんわよ」
ルリはレナを元気づけようと。
「本当にだいじょうぶかしら」
「要はジュピトス様が
おあきらめになられるまでの辛抱です。
そうなれば王様を説得して
御刀君にラティファルムス界へ来ていただけば」
レナはそれでも不安そう。
「来てくれるかしら」
「はい、もちろんです。
彼だって玉の輿なんですし」
全くどこの馬の骨ともわからん男に。
もったいない。
しかし姫様がここまで真剣になられるとは。
今までも数ある縁談話をことごとく
その中には
相手の地位、能力。
そして顔!
どれをとっても申し分ない縁談を
おしげもなく。
その姫様が。一目ぼれとは
世の中わからんものじゃ。
あんなの、どこがいいのじゃろ。
憧れのエウリュトス様のほうがはるかに。
姫様も全く運のお悪い。
数多くの“当たりクジ”を全てはずして
どこをどう間違えたのか
たまたままぎれ込んでいた
“ハズレクジ”を引き当てたというか。
ア、イヤ
こんな事を言っては。
まっ、なんとかなるか。
姫様がそこまで。
それにティトス様よりはまだましか。
しかし御刀君がハズレクジなら
ティトス様は何になるのだろう。
まあいいか。
「ですから絶対に話してはいけませんわよ。
それと姫様の御身分も」
「どうして」
「もしかしたら、姫様とティトス様の話が
ここまで伝わって来ているかも知れませんし」
その可能性は充分にある。
もしそうならば
こちらの身分を明かせば
当然、ジュピトス様の事も知られてしまう。
仮に今、御刀君が知らなくても
こういうウワサの広まるのは早いもの。
もし耳に入れば。
「私にできるかしら」
「その点はおまかせあれ。
しばらくの辛抱ですわ。
彼ならきっとわかってくれますわ」
ルリは精一杯自信あり気に断言した。
「メガトス。
やっぱりあの娘、ラティファルムス界の人だったよ」
リョオは単数で言った。
「はい。やはり-----
そのようで」
幼い頃よりリョオの教育係を任されていた。
執事の枠見-----メガトスは
最近しきりにリョオの口にのぼる
“季崎”という少女に
非常な興味を持っていた。
リョオ様としてはこんな事はじめてだった。
今までどのような良縁があろうと
見向きもしなっかたお方が。
これは喜ぶべき事か。
それとも。
気がかりな事もある。
リョオ様のお生まれになられたレムルレング界では
リョオ様の御父君様が
現在強力に
いつになくご執心で進めている
縁談話があるらしい。
今までは、リョオ様には内緒だったが
これもダメだろうな。
と半ばあきらめ気味に進められた
縁談がほとんど。
しかし今回は御父君様
相手の娘を相当気に入られたらしい。
これは御父君様のお近くに仕える
メガトスの知り合いから手に入れた情報。
この手の情報に精通するのも執事の務め。
メガトス自身
御父君様からリョオの監督をまかされている。
やっとリョオ様が
その気になったのは良いとして
御父君様のことを考えるとどうなるか。
そのような考えが錯綜する中
それを読み取ったのか、リョオは。
「メガトス。
ところであの話、断る事にしたよ」
「あの話?
とおっしゃいますと」
メガトスはとぼける事にした。
“こりゃ、また一悶着あるわい”
リョオは口元を軽くほころばせた。
「例の縁談話に決まっているだろう」
ロクに先方の名前も聞かず、ことわったリョオ様。
まあそれはいつもの事だが。
その後、御父君様から
『何とかならんか。
一度でも会わせられんか 。
そうすれば』
とメガトスに対し、つい昨日も直々に。
一度お見合いでもすれば
御父君様も得心なさるだろうに
リョオ様にも困ったものだ。
それよりも相手の娘。
季崎様とかいったか
素姓を至急調査しなければ。
当初から
ラティファルムス、
ゾルトレス、
レーライルあたりだと狙いをつけ
そこにいる私個人の部下を使って
調べてはいるのだが
まだ報告はない。
しかしラティファルムスか。
そうとなれば-----
だがラティファルムスといっても広い。
それにこの事を御父君様に
お知らせしてもよいものやら。
何せ、リョオ様の御父君様は
お・気・が・非・常・に・お・短・い・。
そんな事をすればあの娘。
どうなるか。
とにかくもう少し様子を見てみるか。
下手に報告するわけにもいかないし
しないわけにも。
そのようなメガトスの心配をよそに
リョオはおかしなことを言った。
「それよりメガトス。
何か聞いていないか。
ここ数日、魔界の連中が
このまわりで動いているのを」
「いえ、初耳でございます」
いつもの事だ。
とはいえ
また魔界の者どもが
となると。
「またリョオ様を狙っての事でしょうか。
不届きな。
しかしご心配めさるな。
すぐに護衛の手配を」
「メガトス」
護衛なんていらないと言っても、
つけるに決まっている。
半ばあきらめ気味。
「目立たないようにたのむよ」
「おまかせ下さい。
そこのところは抜かりありません。
お嬢様方にももちろん気づかれませんように
取りはからいます」
その答えにリョオは微笑んだ。
このメガトス。
そのあたりは万事心得ている。
親父の信頼が厚いのもうなずける。
「しかし妙だな。
魔界の連中で私の顔を知っている者は、
取り合えずこのあたりにはいないはずなんだが」
実際、そのとうりだ。
リョオの顔を知っていた者は
リョオに戦いを挑み
全てリョオにより一片の肉も残さず、粉々に。
この人間界や他の超次元世界で散々暴れまわり
その上あろう事かリョオに襲いかかり
逆に退治されていた。
もちろん例外もあるが奴らが動けば-----
すぐさまわかるようになっている。
「ですが超次元人の“気”を見つければ
奴ら襲ってきますし」
「まあそうだが。
季崎さんが来たとたんというのも-----
気になる」リョオ
「お嬢様方が狙われているのではと」
メガトスのその言葉に
リョオの表情は一瞬曇った。
しかし次の瞬間。
「その可能性もある」
「ではそちらの方も万事おまかせ下さい」
「よろしく頼む」
リョオはいつになく力を込めて言った。
「ただ」
「ただ?-----何でございます」
「相当な力を持った奴らだよ」
「私めの部下では
力不足だと」メガトス。
考え込むふう。
だが護衛をつけないわけには。
リョオは口元をゆるめただけ。
それにメガトスの部下より
あの二人の方がはるかに力は上のようだ。
足手まといにならなければいいが。
リョオの部屋をノックする音がした。
メイドがドアをゆっくりと閉じ、一礼する。
「お客様がお二人お見えになられました。
季崎様と堆星様とおしゃられる方で
リョオ様のクラスメートとの事です。
いかがいたしましょう」
メガトスの瞳がキラリと光った。
リョオは即座に答えた。
「すぐ行くよ」
「御刀君の家って広いんですね」
レナはリョオが姿を見せるや
待ち構えていたかのように口を開いた。
「ありがとう」
少しテレ気味。
“なにもテレる事ないのに
どうせ前の家主を催眠暗示にでもかけて
安く買いたたいたんでしょ。
ラティファルムス界にしろレムルレング界にしろ
人間界の住人が珍重する
金塊や宝石の類が
そのあたりにゴロゴロころがっているんだから”
ルリはそう思ったのだが。
「エエ、お嬢様のおっしゃられる通り
ステキですわ」
口から出たのはこの台詞。
下手な事を言うと
後でレナ様にキツイおしかりを受けてしまう。
「本当の事を言うとね。
前の持ち主に催眠暗示をかけてね」
「やっぱり」ルリ。
レナはどうフォローしていいのか。
“もう、この男
そんな事くらい最初からわかっているのに
それを。
気を使ってほめているのに
馬鹿正直にもほどがある。
あっさりと
『ありがとう』
とでも言って笑っていればいいものを
レナ様もどうしていいのか困ってらっしゃる。
全く”
しかしそれを言うわけにも。
ルリは-----
こういう攻め方は無理か。
攻め方を変えなくては。
リョオは二人を応接間へ。
リョオは二人と向かい合う形で腰をかけた。
「季崎さんはどうして人間界に」
話が盛り上がるうちに
リョオはズバリと聞いてみた。
魔界の怪物たちの事も気にかかる。
今まで楽しそうに話し込んでいたレナが
急に口を重くした。
「それが
父にいやなお見合いを-----」
これにはルリ。あわてて割って入った。
「レナ様。
いえ-----ですね。
実は。エー。その通りなんです。
お嬢様に縁談が舞い込んできたんです。
その相手というのが
レナ様のお父様が
大変お世話になったお方のドラ息子とかで
ことわりきれず。
レナ様はすぐに断ろうとしたんですよ」
「それで人間界へ」
リョオは心配顔。
レナの方をのぞき込んだ。
「相手はどんな素性の人なんだい」
気になるらしい。
「いえ、たいした事はないんですよ。
その内あきらめますよ。
こんなこと言ってもいいのかな。
まあいいか。
その相手というのがこれまた最低最悪。
ブ男で、超能力者としても最低。
おまけに脳たりん。
父親の権威を笠に来てやりたい放題。
そんな男に結婚をせまられてお嘆きの
レナ様のお姿を見るに見かねて」ルリ。
リョオもグッときた様子。
「私で力になれる事だったら
何でも相談にのるよ」
「ありがとう。
御刀君にそう言ってもらえると。
でも心配しないで
何とかなるから」
レナは無理に笑顔を見せた。
あの。日頃活発な姫様が
こうまで落ち込むのも珍しい。
最も相手が相手
無理もない。
そこへドアをノックする音。
執事のメガトスが入ってきた。
二人を品定めするような目つきも
ほんの一瞬。
感心したように
後はニコやかな笑みをたたえ
「リョオ様。何か御用はございませんか」
「いや、ない。
二人とも紹介するよ。
かれは執事の枠見。
メガトスの方がいいかな。
ここの家は私と彼と
メイドの女の子が二人の四人暮らし。
全員、レムルレング界の者だ。
それから
こちらが季崎レナさん。
そして堆星ルリさん」
二人は立ち上がり、軽くお辞儀をした。
自己紹介をする。
「リョオ様。かわいいお嬢様方ですね。
それでどちらのお生まれですか。
ラティファルムスの」
単刀直入にメガトスは切り出した。
二人は一瞬口ごもった。
ルリが
「いえ、どこの生まれなんて
名もない市井の者ですわ」
「それでお国は」
ラティファルムスは数カ国に分かれている。
穏やかだが容赦のないその声に---
いつもの事だ。
「エー。ラトラスです」ルリ
このくらいならいいか。
メガトスは執拗に聞いた。
このお二人の素性は
どうしても知っておかなくては。
「とても市井の方には見えませんが」
「メガトス。
二人とも困っているじゃないか
何か理由があるらしいんだ」
「しかしリョオ様」
それ以上メガトスも口にしなくなった。
「ごめんね。
気を悪くしなかった」
「いえ、別に。
それで御刀君のお国は
ご両親は何をしていらっしゃられる方なんですか」
「レムルレング界は国は一つさ。
親父は-----」
言いかけた時、メガトスがそれを制した。
「リョオ様はレムルレング界では名の知れた大地主。
ラートス様の御子息アイアトス様。
今は人間界の事を勉強なさるためにこちらへ」
ラートスは実在の人物。
メガトスの治める領地に住んでいる
彼の腹心の一人。
この事はラートス自身了解済みの事。
向こうに問い合わせても
うまく口裏を合わせる手はずになっている。
それを聞いたルリはいかにも
“納得”
という表情。
“やはり地主のドラ息子か”
「お家は地主で
お父様はラートス様。
どの地方ですの」レナ
「ファルクレムスでございます。
ラークトという川の河畔のよく肥えた大地。
その上流にお屋敷が。
私めはリョオ様の幼少の頃より
お仕え申しあげております」
リョオはメガトスとレナたちとのやり取りを
黙って聞いていた。
あまりいい気はしない。
「季崎さん。
話は変わるけど、
何か魔界の連中に狙われる理由でもある」
レナもルリも顔を見合わせた。
二人もこの事に気づいていたのだ。
この二人の力ならば当然か。
「どうしてそれを」
「やはり君たちを」
「御刀君。心配いりませんわ。
狙われているのは私たちなんですから」
「そうです。
それにあの程度の連中。
私一人で充分ですわ」
これはルリ。
「そうはいかないよ」
「嫌いになった」レナ。
あのような怪物に狙われているとなった以上
リョオがしり込みして
離れていくと思ったのだろう。
「嫌いになるなんて
そんな。
私が守ってあげるよ」
レナはその言葉に込み上げて来るものを感じた。
しかしリョオの力では
あの連中相手にとても勝ち目はない。
それでもうれしかった。
「その件につきましてはリョオ様。
お二人がご存知ならば問題ないでしょう。
私めの部下三名を護衛にお付けいたします。
ご心配めさるな」
「護衛?」レナ。
「はい」
リョオ自身
二人を守るくらい自分自身でやるつもりなのだが
一人では手が回らなくなる恐れもある。
「もうそろそろ現れる頃です」
メガトスが言い終わるやいなやタイミングよく。
リョオはすでに。
そしてしばらくして
五人の男たちがメイドに案内され応接間へ。
どれも屈強、精悍そのもの。
「これはレクノス。
そしてアルカス。
レイカス
ラルカス
ペシルカス
以上。五名でございます」
五人の男たちは順次深く頭を下げた。
リョオに対し。
緊張しているのが見た目にもありありとわかった。
レナは一目見るや-----
見る前からその“気”により。
「皆さん、相当な実力をお持ちのようですね」
ルリなどは。
「御刀君の部下にしてはたいしたものね」
そう言いかけて後が続かない。
レナにニラまれたせいだ。
“地主のドラ息子のお守りにしては。
しかし主人がこの程度の実力なのにどうして。
このメガトスさんなら
さもあらん。
地主のドラ息子のお守りとしては合格。
百点に近い。
しかしこの五人は”
レナたちから見ればたいした事はないが。
地主のドラ息子のお守りとしては
少し力がありすぎる”
そういう思いが顔にありありと浮かんでいた。
ルリはリョオを、メガトスを。
そして新たに現れた五人をジロジロと。
「このうちの三人を。
そうですな」
とリョオの表情をうかがいつつメガトスは続けた。
「レクノス。
アルカス。
レイカス。
三名にはこのお嬢様方お二人。
季崎レナ様と堆星ルリ様の護衛をしてもらいたい」
三人とも妙な顔をしたが何も言わなかった。
「でも、ご迷惑じゃ。
私たちのために」レナ。
「それに魔界の連中にしても
そうたいしたのはいないですし」
「そうご遠慮なさらずに」
メガトスは強引だった。
「二人とも、気を悪くしなかった」
自宅の門を出た途端
リョオが口を開いた。
すぐ隣りなのに
リョオが二人を送ると言ったためである。
魔界の怪物たちもすでに十数匹
周囲に見え隠れしている。
たいした奴はいない。
まあ、日のあるうちは襲って来ないだろう。
狙われているのはやはりこの二人か。
「いえ、別に。
本当にご迷惑じゃないですか。
私たちのために」
「季崎さんこそ、迷惑じゃ」
執事のメガトスにしろ
リョオの父に
リョオのお守りを命じられている。
何かあると、
事あるごとに怒鳴りつけられるのは
メガトスである。
もちろんリョオ自身もだが。
そのためリョオも
メガトスの言う事は出来る限り?
聞く事にしている。
もちろん拒否してもやるに決まっているため
半ばあきらめている面も多分にある。
「しかし昼間チラリと見かけたんだが
中に二匹
凄いのがいたよ。
あの怪物ども」
「ええ、それはわかっています」
「まあ、君たちならだいじょうぶだろうけど」
「それで御刀君の部下の方たちは?」
ルリは茶目っ気たっぷりに聞いた。
リョオはどう言ったものか迷った。
「どう思う」
“あの三人じゃ。
とてもとても
無理だろうなあ”
「御刀君の部下の方々
お強そうだからだいじょうぶですわ」
レナのその言葉にルリは吹き出した。
リョオも困った様子。
「まあ、足手まといになった時には
よろしく頼むよ」
そう言うしかなかった。
人間界に現在いるメガトスの部下の中では
あの連中最強の部類に入る者たち。
レムルレング界でも相当なものなのだが
まあいいか。
この二人に比べれば。
気づくとレナたちの家の前で立ち話をしていた。
「寄っていきません。
お茶でも入れますわ」
リョオが帰った後
レナとルリは膝を突き合わせていた。
「どう思う」
「どう。と言いますと」
「あの御刀君。
ただの地主の息子にしては
少し妙だと思わない」
「そうですか。レナ様。
気の回しすぎですよ。
私なんか
地主の息子と聞いた途端
一発で納得しちゃいましたけど」
まあレナ様も。
ホレた男がああなら、
こうだったらいいのに。
そう思う気持ちはわかるが
現実にはそんなうまい話など
めったにあるものではない。
期待するだけ無駄だ。
マンガではよくある話だが
ヒーローもヒロインも特別で云々.等々。
あれはそうしないと-----読者の期待もあるし
面白くない。
話が○○だからそうしてあるのであって
現実の世界では。
しかしここで
それを言うのは。
まあ、レナ様もそのあたりは充分に。
もちろんごく普通の者が
ごく普通に
というパターンのものも。
読者が最初から納得していればそれはそれで。
「でも彼の部下の人たち。
あれはただ者ではないわ」
その点ルリも気になっている。
しかし地主の中には金にあかして傭兵を。
そういう者も多い。
特に魔界の者たちが出没するところでは。
「レムルレング界にいる知り合いに
手を回して調べてもらっていますから
すぐにわかると思いますが」
“レムルレング界。
気がかりはやはりジュピトス様”
「問題はジュピトス様が
いつおあきらめになられるかだけね」レナ。
「ええ、そうですわ。
そうなれば王様にお願いして
相手はたかだか地主の息子」
レナの口元がわずかにつり上がる。
「いえ、あの。
御刀君はきっと姫様のお気持ちを」
“玉の輿なんだし。
逆玉か”
「でも彼の部下の人たち。
なんて言ったっけ」
「えー
レクノス。アルカス。レイカスさん-----ですか」
「そう。
あの人たちに何かあれば大変ね」
“そういや、そうだ。
魔界の連中。
私たちから見ればたいした事はないが
彼らにもしもの事があれば”
「御刀君がどう思われますか」
「何としても守ってあげなくては。
ルリもお願いね」
「はい」
“恋するという事も
こりゃ。大変じゃわい”
ルリ談。