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魔界

 昼なお薄暗い魔界の空。

 リョオはその魔界に一人、足を踏み入れた。

 周囲には異様な姿の魔界の魔物たちが

彼を取り囲むように見え隠れしている。

 それを知ってか知らずかリョオは歩を進める。

 魔物たちはそれを遠巻きに見つめるのみ。

 魔物たちの囲みの一部がほどけた。

 リョオはそちらへ目を向ける。

 その囲みのほころびから強大な“気”をまとった

見るもおぞましい怪物が一匹。

 他の怪物たちをはるかに凌駕りょうがするその“気”にリョオは。

 「君は何者ですか。

 私の国で派手に暴れてくれたようですが」怪物は静かに言った。

 リョオを取り囲む怪物たちの、

 さらにそのまわりには。

 明らかな戦いの跡が。

 「私の手下どもを

 跡形もなく全て消し去ってくれましたか」怪物は穏やかな口調で。

 「皆それなりに力はあったと思うのですが。

 それをこうもあっさりと。

 全く

たいしたものです」タメ息を。

 「それで何用です。

 こんな事をしでかして-----タダで済むとお思いか」

 「いえ。

 あなたの命令で

 ウチの村一つ潰されてしまったようですので」リョオは口を開いた。

 「村を一つ。

 はて。

どこのどの村でしょうか。

 そんなものいちいち覚えていては

キリがありませんしね。

 なるほど。

 そういう事ですか。

 まあいいでしょう。

 それでそのお礼にということですか。

 義理堅いというか。

 何というか」怪物はニヤリと笑った。

 「それでこの私。

 ネトラ様麾下の中でも十本の指に入ると言われるこの私にーーー。

わざわざーーー

会いにきて下さったわけですか」

 「まあ-----そんなところですか。

 それよりあなたのところのネトラ様。

 そしてその手下の方々は

少し我々の世界に介入しすぎでは。

 今日はその忠告を兼ねて参ったわけですが。

 特にあなたは-----こう言っては何ですが

ひどすぎはしませんか」

 何せこの怪物の通ったあとは死体の山が。

 「それを言うためにわざわざこの魔界へ。

 それはご苦労様です。

 しかとお聞きしました。

 それでよろしいか」

 「-----」リョオは無言。

 「それで-----あなたのお名前を聞いていませんでした。

 聞くだけの価値があるのか

ないのか。

 少し迷ってはいるのですが。

 こうして見るかぎり

失礼ですが、さほどお強そうには見えませんが」

 怪物は周囲に眼をやる。

 「しかし私の手下をこの様にした手並みから見ても

相当な実力かと。

 やはり名は聞いておくべきかと思いましてね。

 アッ、イヤ。

 もちろん私の名はご存知ですね。

 まあいいですか。

 私はドルガム。

 魔界の神ネトラ様の下

親衛隊を拝命しているものです」

 怪物は男の表情を確かめるように。

 その眼は氷のように冷たかった。

 「もちろん承知の上ですが。

 それよりも一つお聞きしたいことが」リョオ。

 「何ですか」怪物。

 「その-----ネトラ様ですが

今どこにおられるか、

ご存じないですか」

 怪物は思わず吹き出した。

 「ネトラ様ですか。

 どこにおられるか

それを知りたい」

 怪物は-----少し考えるかのように。

 男の顔をジッと見た。

 “どういうつもりだ

 ネトラ様のおられる場所を知って何になる。

 わからん”

 「いえ。

 前々からネトラ様にお会いしたく

方々でお聞きしているのですが。

 皆さん方、口が固いというか、

知らないといいますか。

本当にご存知ないようなので。

 しかしあなたならば。

ネトラ様の下

その人ありと言われたあなたならば。

 どうですか」

 怪物は。

 「ネトラ様にお会いになられたい。

 正気ですか」怪物は男の顔を。

 どうも本気のようだ。

 「あなた命がいくつあっても-----。

 まあいいか。

 どうせーーーーー。

 ネトラ様ならいつも魔界の魔殿におられるはず。

 いくら超次元人とはいえ、

 そんな事も知らないでどうしますか」

 「なるほど。

 しかし-----いつ行ってもお留守なので」

 “やはりだめか”リョオは。

 「いつ行っても-----ですか。

 おかしいですね。 

 別の魔殿にでも行かれたのでは」

 「麼殿といえばあそこしかないのでは」リョオ。

 「まあ、それはそうですか」

 ”どういう事だ。

 ネトラ様が麼殿におられないとは。

 わからん”

 「しかしまあ------。

 そんなに気を落されなくても大丈夫ですよ。

 何せあなたはここで-----」怪物はニコリと愛想良く笑った。

 リョオは。ニコリと返す。

 「それと」リョオ。

 「まだ何か」

 「いえ、もう一つ」

 「まあいいでしょう。

 どうぞ」

 「ではお言葉に甘えて。

 バヅム様はどこに居られるか、

 ご存じないですか」

 「バヅム様?

 いったいどなたですか。

 聞いた事ない名ですが」ドルガムは。

 「ご存じない」リョオはさぐるように。

 「はい。

 申し訳ないですが

どのようは方ですか。

 バヅム様とは。

 それなりにお力があれば

聞き及んでいるはずなのですが」

 「ネトラ様のご子息のお一人なのですが」

 リョオはドルガムの目をじっと見据えながら。

 “本当に知らないのか。

 ネトラの息子の名を”

 「ネトラ様の。

 ネトラ様のご子息のお名ならば

忘れるなどという事があっていいはずも

ないのですが。

 どういうことでしょうか」ドルガムは不審げにリョオの表情を。

 「そうですか。

 ご存じない。

 あなたのような

ネトラ様のお近くに居られる方でさえ」リョオはタメ息を。

 「それでそのバヅム様-----ですか。

 そのお方が何か」

 「イエ-----ご存じないのなら

 仕方ありません」リョオ。

 「そうですか。

 しかしそのバヅム様。

 気になりますね。

 まあいいですか」ドルガム。

 “調べてみるか。

 しかしネトラ様のご子息となると

下手をすると-----。

 どうしたものか”

 一瞬の間が。

 「それであなたのお名前は」怪物。

 「これは失礼した。

 ○○○。

 ○○○と言います。

 お聞き及びではないですか」

 その答えに怪物は。

 いや、怪物たちは。

明らかに動揺の色が。

 「ホー。

 あなたが。

レムルレングの○○○さんですか。

 ○○○様の御子息の」

 怪物は感心したかのように。

 「それならばこの程度の事は可能ですか。

 お初にお目にかかります。

 あなたには一度お会いしたかったのですよ。

 私は」

 「私もです」リョオ。

 「いえ。散々私どもの世界の者たちを。

 いえ、あなたに恨みなどは全くありませんが。

 やられた方が------ですよ。

魔界では力が全て。

 もちろんあなた方の世界でもそうでしょう。

 アッ、イヤ。失礼。

 あなた方の世界では違いましたか。

 それでこの様な形でここに。

 私に会いに」怪物はうれしそうに。

 「ではそろそろ始めますか」怪物はリョオをジッと見据えたまま。

 周囲を囲む怪物たちも身構える。

 「そうですね。

 それでどうします。

 皆さん一斉に」リョオ。

 「いえ。それでもいいのですが。

 あなたに実力を拝見したい。

 私以外、全てということではどうですか」

 「私は構いませんが」

 「それならば」

 周囲の怪物たちが一斉にリョオへと襲いかかった。

 地表をはうように、

あるいは空中から。

 全部で千はいる。

 その全てがどす黒い、強大な“気”をまとい。

 その伸ばした腕には

禍々しい、黒い光を放つ球体が。

 魔界の者どもは、念の力を黒い光の球とかしそれによって。

 それらはリョオへと、一斉に放たれた。

 “千はいるか。

 仕方ないか”

 リョオは両の手に光の球を。

 リョオもまた光の球を。

 さほど力を込めているようには見えない。

 怪物たちが放った黒い光の球は

ほぼ同時にリョオへと。

 炸裂した。

 その凄まじい威力に荒れた魔界の大地は。

 震えた。

 「やったか」怪物たち。

 しかし。

 その余韻が去った跡には

何事もなかったかのようにリョオの姿が。

 渾身の一撃が。

 しかも千を越える念の球が。

 怪物たちは-----。

 リョオが両の手に集められた光の球を。

 白い光の球を放った。

 それは-----最初、二つだった。

 小さな光の球。

 それは怪物へと。

 それを見た怪物たちは-----恐怖に。

 すでに何人もの者たちが。

 最初二つだった光の球は

 急にわかれた。

 正確に千を越える怪物たち、魔界の者たちと同じ数へと。

 しかもその輝きは

その強大な輝きを放つ光の球は怪物へと。

 それを受けた魔界の者の一人は。

 全身が瞬間、弾けた。

 骨も血も残さず、消え去っていく。

 それが千を越える数。

 同時に生じていた。

 空中で。地上で。

 地下でも。

 地下からリョオを狙ったのだろう。

 「イヤー。お見事。

 そうとしか言いようがありませんな」ドルガム。

 手下たちの-----にも、事もなげに。

 「さすが、レムルレングの○○○さん。

 すばらしい」

 リョオは無言。

 「お噂どおりの実力。

 これならネトラ様もお喜びくださるかと。

 あなたを倒せば私の名も少しは上がるでしょう。

 まあ、ホ・ン・の・少しでしょうが

 ホンの少しね」

 ドルガムはリョオを品定めするかのように。

 ”やはりウワサはウワサか、

 たいしたことはないか、

 しかし本物か。

 カタリもまれにいるし。

 しかし他人の名をかたって何になるのか。

 他人の名を騙れば

 手柄は全てそいつのモノになる。

 そのような事を誰が------。

 しかしこいつらの、超次元人どものすることは-----。

 わからん。

 カタリを見抜けなかったとなれば-----。

 まあいいか。

 本物ならば、こいつを倒せば後でわかることだ。

 レムルレングの奴らが騒ぎ出すだろう。

 それから名乗りをあげればいいことだしな。

 しかしこの程度の力で。

 まあいいか”

 リョオはドルガムへと向き直った。

 「では、始めますか」リョオ。

 「ンー」ドルガムは不満そうに。

 「私の力を今の連中と同じように

 思ってもらっては困るのですが。

 私は今の連中よりもはるかに強いですから」

 「それはもちろん、充分に承知していますが」リョオ。

 「そうですか。

 それならばいいのですが。

 それならば、もう少し-----」

 ドルガムはニヤリと。

  “まあいつものことだが。

 そのような輩には、いつもどうり”

 ドルガムはニヤリと。

 「私の力の一旦でもお見せしましょうか」

 そう言うとドルガムは右の腕を水平に。

 軽くだろう。

 力を。

 黒い、禍々しい光の球が。

 それをリョオに見せつけるかのように。

 リョオは。

 「おや、これでも何も感じないのですか」

 ドルガムは不審気に。

 ”この○○○の力は内在するパワーから見ても

 この程度のはず。

 これを見せつければ

 普通なら”

 「まあいいか。

 ならばもっとパワーを上げれば。

 これでどうですか」独り言のように。

 ドルガムの手の中の黒い光を放つ球が

 輝きを増す。

 それも数倍に。

 しかしリョオは。

 ドルガムは。

 「一体どういうことでしょうね。

 これでもダメですか」

 リョオは自らの”気”を

 ドルガムの内在する”気”と同程度に引き上げた。

 ドルガムの眼に驚愕の色が。

 「なるほど。

 これではいくらやっても。

 ダメなはずだ」

 ドルガムはつぶやくように。

 「○○○の名は

 伊達ではないということですか」

 ドルガムの眼が真剣に。

 「では私も全力で」

 ドルガムの“気”がさらに膨れ上がる。

 ドルガムの右腕の黒い光の球は。

 リョオは。

 「ネトラ様配下でその人ありと言われたこのドルガム。

 私と戦えたことをありがたく思いなさい」

 ドルガムは黒い光の球を

 リョオへ。

 炸裂。

 黒い光がリョオの周囲で。

 リョオハ。

 その黒い光が晴れるや

 何事もなかったかのように。

 リョオが白い光の球を放った。

 ドルガムへ。

 光の球を受けたドルガムは。

 その全身が分解していく。

 そして-----消え去った。

 リョオは。

 「ネトラの手がかりは-----」

 魔界を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 




























 あたり一面、見慣れね花で埋めつくされていた。

 その花弁はどこまでも薄く、軽く、

そして透き通るような光沢をたたえ

燦然さんぜんと輝いている。

 その光の海を縫うように

一本の小径こみち

それは小さくあらがいながらも

どこまでも続いていった。

 「姫様」

 その小径を二人の少女が

しずしずと歩を進めていた。

 「急ぎませんと追っ手が」

 姫様と呼ばれた少女は

いたずらっぽそうな光をたたえた眼で

振り向いた。

 「あわてることはありません。

 いくら急いでもレイファグル ゲートが開くまで

間があります。

 それにまだ私たちのことに

気付いてはいないでしょう」

 それを聞くと

もう一人の娘は安心したように

こっくりとうなずいた。

 “確かに”

 あわてても仕方ない。

 限りなく続くと思われた花畑。

 二人とも息を切らす風もなく、

ゆっくりと歩いていく。

 それにもかかわらず周囲の景色は、

光り輝く花の海から

鬱蒼うっそうと木々の繁る

深い森へと変化した。

 二人の足は並ではないらしい

飛ぶように木々が過ぎ去っていく。

 ここはラティファルムスと呼ばれる

昼のみの世界。

 空には太陽などないにもかかわらず

しかし淡い優しい光で満ち充ちていた。

 人とは住む世界を異にするこの二人。

 “姫様”と呼ばれる少女の名はラトリシア。

 このラティファルムス界の中の国の一つ

ラトラス王ローレム五世の娘である。

 一方、“姫様”とラトリシアを呼ぶもう一人。

 ラトラスの大臣ティサースの娘アルメネー。

 二人は深い森を抜け

この世界で最も高い山レートレムを望む地に立った。

 目差すレイファグル・ゲートはあの山の中腹。

 人も滅多に足を踏み入れることのない

巨大な洞窟の奥深くに存在しているという。

 ラトリシアもアルメネーも

人伝に何度も聞いてはいるが

このような処へ来るのも見るのも始めて。

 二人は意を決したように

山の中腹を目指した。

  












































 それは人ではなかった。

 そして地上のどのタイプの獣とも

 姿形を異にしていた。

 人など一口で

 ガブリと丸飲みにしてしまえそうな巨大な口。

 そこには何列にも、

 人の指ほどもありそうな

 肉食獣特有の牙が顔をのぞかせていた。

 五本の指。

 そして鋭利なカギ爪。

 その手を備えた太い腕。

 身体は細かい甲羅様の

 いかにも硬そうな皮膚で覆いつくされ

 緑青色に薄気味悪く輝いている。

 足は二本。

 眼は黄金色の光をたたえ

 そこからは残忍な表情しか読み取れない。

 この身の丈三メートルにもおよぶ巨獣どもが

 少女たち二人を待ち受けていた。

 この洞窟にいつしか住み着いたモノたち。

 ゾーファングと呼ばれる怪物を

 リーダーとするモノども。

 この怪物たちを恐れて、

 周囲の村人たちもこの近くへは

 決して足を踏み入れようとはしないのだ。

 そのような事を

 二人の少女は知っているのか。

 洞窟の入り口付近で人影が

 二十匹余りの怪物たちは

 その気配に一斉に物陰へ。

 そこで息をひそめ獲物の到来を待ち構えた。

 


















 洞窟の中は闇が支配していた。

 二人のいたいけな少女は

 その闇をものともせず

 ゆっくりと

 しかししっかりとした足どりで

 慎重にその中を降って行った。

 かなりの急勾配。

 洞窟は巨大な底なしの井戸のように

 その冷たく湿った壁面をさらしている。

 その巨大な迷路を

 一筋の光も入らぬこの暗黒の世界を

 二人は苦もなく進んで行った。

 





































 「二人だ」

 怪物の中の一匹がくぐもった声で言った。

 地獄からのうめきのようにも聞こえる。

 「女だ」

 「まだ若い」

 口々にうめき合う。

 彼らにとっては-----。

 そう、何日ぶりの獲物だろう。

 ここへ人が足を踏み入れなくなってから

 すでに長い時間ときが過ぎていた。

 皆、彼らを恐れてのことである。

 そのため獲物の調達は常に近くの村へ。

 あるいは遠く

 山をいくつも越えて行わなければならない。

 獲物とはもちろん。

 そこへ幼気いたいけな少女が二人。

 一匹が舌なめずりをした。

 少女たちは怪物たちの潜む岩陰の

 すぐ真下まで来ていた。

 洞窟内はあるところは狭く-----。

 狭いといっても

 怪物どもが充分に通れるほどの。

 あるところは

 小さなホールほどにひらけていた。

 そのホールのそこかしこに怪物たちは。

 全く怖がる様子もない。

 気がつかないのか。

 “よそ者か?”

 付近の者なら彼らの事を知らぬわけはない。

 あの落ち着きようから見て。

 それならそれで。

 怪物たちは一気に襲いかかった。


















 巨大な影が二人の少女の行く手をふさいだ。

 少女たちは思わず後ろへ、

 戻ることもできない。

 そこにもすでに怪物が。 

 少女たちは立ちすくむのみ。

 「ゾーファング。どうする」

 一匹の怪物が、獲物を前に舌なめずりしながら。

 「獲物は二匹。

 我々は-----」

 「数が合わんか」

 しかし。そのような事を気にする風でもない。

 次から次へと怪物たちは数を増す。

 「均等に分けるという手もあるが」

 「なるほど-----。

 で-----誰がどこを取る」怪物の眼が残忍に。

 「早いもの勝ちというのはどうだ」

 「良かろう」その方が-----。

 怪物たちの眼が

 異様な興奮をたたえるかのように光った。

 二人の少女へ

 その太いカギ爪を振りかざしながら。

 “まず腕をモギ、そして-----”

 二人の少女は-----恐怖に。

 怪物は距離を一気に詰め

 腕を振り下ろした。

 少女のか細い腕は、身体は

 その強力な爪の一薙ぎで真っ二つに-----

 すさまじい地鳴りが洞窟内を覆った。

 後には-----

 見るもおぞましい怪物が

 十数メートル離れた洞窟の壁面に

 完全に体がめり込んでいた。

 全身押し潰されたかのように。

 岩にたたきつけられたくらいで潰れるような

 ヤワな身体の持ち主ではないはずなのだが-----

 少女たちは-----全く何事もなかったかのよう。

 怪物たちは、一瞬-----凍りついている。

 怪物が少女たちを

 その巨大な爪にかけようとした瞬間

 少女の一人が信じられない動きを見せ、

 その腹を一撃。

 少女の右の正拳は怪物の腹へ。

 肘まで入っただろう。

 怪物はもんどりうって一直線に。

 背中は完全に割れ

 内臓を吐き出し

 身体全体がそのすさまじい力によりひしゃげたように

 分解していく。

 壁に激突以前にすでに事切れている。

 その凄まじいパワーに圧倒されたのだ。

 「姫様」少女の一人が言った。

 「このようなモノども

 私めにおまかせを。

 この程度の奴ら

 何も姫様のお手を

 わずらわす事もございません」

 「何を言うのアルメネー。

 おまえは下がっていなさい。

 この程度の者たち

 私一人で充分です」

 姫様と呼ばれる少女も

 この残忍な怪物たちに包囲されながら

 全くおくする風もない。

 「しかし-----姫様。

 もし姫様に-----何かあれば」

 「ウソおっしゃい」

 フォッフォッフォッフォッフォッ-----

 暗い洞窟内に不気味な笑い声が響いた。

 「貴様ら。ただ者ではないな。

 しかしバルーグを倒したくらいでいい気になるな。

 かかれ」

 低く押し殺した声で一匹が。

 それを合図に怪物たちは一斉に

 二人の幼気いたいけ?な少女へおどりかかった。 

 姫様と呼ばれる少女は

 前から来る怪物の顔面へ蹴りを。

 さらに左右から来る者たちへは

 右のひざ蹴り。

 返す刀で左の前蹴りを放った。

 怪物の首が異様に捻じ曲がり

 蹴りを受けた反対側の背が

 その衝撃により盛り上がり

 裂け、弾ける。

 そして一瞬の後、

 数メートルは飛ばされただろう。

 飛ばされながら全身は粉々に-----消滅した。

 三体ともだ。

 少女の放つ蹴りには

 何か不思議な力でも込められているのか。

 一方、アルメネーと呼ばれる少女は

 襲い来る十匹ほどの怪物相手に。

 腕が光った。

 水平に伸ばされたその手には白い光の球が。

 念の力による光の球。

 それを放った。

 光の球は少女の腕を離れ怪物へ。

 それは途中-----十数個に分かれる。

 あやまつ事なく

 怪物たちの腹部を、胸部を直撃。

 怪物たちの背が盛り上がり引きちぎれ

 裂け飛び

 分解し

 跡形も残さず消え去っていく。

 姫様と呼ばれる少女も

 両の手に念の力による光の球を

 襲いかかる怪物へ。

 彼女たちは念の力を光の球と化し

 それによって相手を倒すのだ。

 その光の球には

 どのような力が込められているのか。

 その直撃を受けた怪物どもは

 全て一瞬にして粉々に砕け

 その肉も骨も残さず分解し消滅していった。

 そして最後に一匹残ったゾーファングに対しても

 「ホー。たいしたものだ。

 しかしこの俺様はそうは-----」

 最後まで言葉を続けられなかった。

 少女の放った光の球が-----怪物へ

 避ける間もなかった。

 大音響とともに吹き飛ばされ

 洞窟の壁面に。

 完全にめり込み-----粉々に。

 消え去った

 「さすが。姫様」

 「アルメネー。お前もね」茶目っ気たっぷりに。

 「でも、どうしてここに怪物たちが」

 「そうですわ。

 このようなモノたち

 お城からの討伐隊が

 遠の昔に退治していても」アルメネー

 怪物たちが跋扈ばっこするこの世界。

 いくらレイファグル・ゲートのあるこの山とはいえ

 ここまで警戒の手がまわらないのが

 現状なのだろう。

 城の討伐隊が出向くと

 すでにそこはもぬけのカラだったという話も

 聞かぬではない。

 二人はさらに洞窟の中へ。奥へと。

 ここはあの怪物、

 ゾーファングたちも滅多に近ずかない禁断の場所。

 迷路のように分かれ

 複雑に入り組んだ洞窟の中を

 すでに数十キロは来ている。

 しかし先は全く見通せない。

 どこまで続くのか。

 その迷路を少女たちは迷う様子もなく。

 頼れるのは少女たちの超感覚のみ。

 「ここらしいは」

 ラトリシアは無限に続くかと思われる

 洞窟のある一点で足を止めた。

 何の変化も見られないその壁面をジッと見つめている。

 知らない者ならばそのまま通り過ぎた事だろう。

 そしてこの底無しの洞窟を

 永遠にさまよう事になる。

 「そのようです」

 アルメネーもうなずいた。

 「レイファグル・ゲートが開くまでには

 まだ少しありますが」

 「構わないでしょう。

 中で待っていても」

 ラトリシアが壁面に“念”をこらす。

 この壁を開閉できるのは

 強大な念の力の持ち主のみ。

 そうでなければ全く歯が立たない。

 そのように封じられているのだ。

 それを少女はいともたやすく。

 洞窟の巨大な壁の一部が

 音も立てずに口を開けた。

 そこは様々な色彩の光に包まれていた。

 二人は迷うことなく中へ。

 岩の扉が音もなく閉じた。

 レイファグル・ゲート。

 それはこの超次元世界ラティファルムスと

 他の世界をつなぐ架け橋。

 月に一度。

 それは開く。

 「くわよ」

 レイファグル・ゲートの色彩が

 今までの穏やかな変化から急激なものへと。

 「はぐれないようにね」

 二人はその光の中へ飲み込まれるように

 姿を消した。









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