【002】御伽塚翔。彼の二度目の人生はここから始まった……
――チュン、チュン
小鳥たちの楽しそうなさえずりから私の一日は始まる。
私の名は『御伽塚翔』……十八歳。
今日もまた学校に行くべくいつもの『御伽塚家の正装』に着替えるためパジャマを脱ぐ。
滑らかなシルク生地が肌にするする接触するたびに朝からリビドーを抑えきれな……ひ。
…………
…………
…………
「……ふぅ。さて着替えるか」
私はいつものようにパジャマを脱ぎ、上半身裸体になるとお気に入りの赤ネクタイを首にかける。そして、すぐさま、パジャマのズボンとパンツをいきおいよく脱ぎ、机の横にある『マイコレクションBOX』の中から『今日のブルマー』を選別する。この場合、下半身は『生まれたままの状態』であることが望ましい。
「『今日のブルマー』は…………これだっ!!」
今日はなんだか素敵な出会いが起こる予感がしたので、その際失礼にあたらないよう、かの『全国ブルマー愛連合会(全ブル会)』の会長から『永世名人』の称号を受けた唯一の職人『S山名人』が最後に手掛けた『至高のブルマー』を手に取った。
「むう……なんという輝き、まさに至高っ!」
…………
…………
…………
「……ふぅ。今日はなんだか朝から落ち着かないな…………私らしくもない」
私は『上半身裸に赤ネクタイ』『至高のブルマー』『純白に輝く靴下』『漆黒の革靴』といういつもの『御伽塚家の正装』を纏い、いざ、学校へと向かう。
『私立御伽塚翔高等学校』
私の父が建てた学校であり、私への愛をひとつの建造物で表現したもののひとつだ。父の深い愛情にはただただ脱帽してしまうが、学校名を私のフルネームそのまま使用するのは『文○省』にちゃんと許可を得ているのだろうか。まあ、父のことだから心配はしていないが。
校内には父の銅像と私の銅像が並んで立っている。
どちらの銅像も先祖代々受け継がれてきた我が『御伽塚家の正装』で立派にそびえいきり立っている。
まさに壮観だ。
――校内では皆があいさつをしてくれる。
「翔会長、おはようございます」
「おはようございます」
ありがたいことだ。
ちなみに、我が校の制服は『世間一般用の制服』と『御伽塚家の正装』の二種類を採用しているのだが、今のところ、まだ私と父以外に『御伽塚家の正装』を選ぶ者はいない…………遠慮しているのか?
我が校風は『自由と愛』をモットーとしているので、生徒には変な遠慮などせず自由に学園生活を送ってほしいと常に願っている。なので、こればっかりは生徒が『遠慮』していたとしても彼らの自主性を重んじている我が校としてはこちらからどうこう言えることはできない…………今度、『目安箱』でも設置してみようか?
――私はこの学校で生徒会長兼風紀委員長を務めている。
『制服の乱れは心の乱れ』
この言葉を常日頃、皆に呼びかけながら朝の校内パトロールを行っている。私の日課のひとつだ。我が校は制服の乱れに関しては厳しく行っているため、多少、手荒なマネをすることもあるが、しかし、それは傷つける行為ではなく、愛を持って相手を抱き締める『自愛行為』のみである。
生徒は皆、その愛の行為を他の生徒が受けているのを見ておそらく感動したのであろう……それからは皆が制服をビシッと着こなし登校するようになった…………愛は伝播するということなのだろう。
――放課後は、もうひとつの日課である町内パトロールも行っている。
ここ、『御伽塚町』はその名の通り、我が御伽塚家のことを差す。
この土地で何百年も前から私財を投じて発展させてきた功績を称えられ、百年ほど前から我が御伽塚家の名前を町名にすることとなったらしい。ちなみにこの町の九割は我が『御伽塚グループ』の会社が占めており、それは同時にこの町全体の雇用を支えていることを意味する。
そんな『偉大なるご先祖様』たちが継承してきたものがこの町の治安を守るための『町内パトロール』だ。私の父も、そのまた父も、この『町内パトロール』を行っていた。現在は私が父からその仕事を受け継いでいる。
今日もまた、いつもように『町内パトロール』をしていると皆が声をかけてくれる。
「ぼっちゃん、こんばんわ! いつもの見廻りご苦労様です」
「翔お兄ちゃん、こんばんわ!」
商店街の人たちも幼女も皆が愛おしい。
そんな時、交差点で車道に飛び出す一匹の子猫が目に映った。そして、その数メートル先にトラックの姿も……。
トラックは子猫に気づいていないのか、スピードを落とす気配がない。
私は咄嗟にその子猫の身を守る為、車道に飛び出し子猫を抱きしめようとした。その時……、
「うっ?! うにゃあああぁぁあぁぁぁ~~~~!!(へっ!? 変態にゃあぁあああぁ~~!!)」
子猫は気が動転してたのか私の顔に腰の入った見事な『猫パンチ』を繰り出す。
その反動で私の身体だけが車道側に残った。そして…………、
御伽塚翔はその短い生涯を終えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
御伽塚翔は気が付くと身体が無くなり『魂』となって『天国の階段』という場所で天国への入場の順番待ちをしていた。
(そうか…………私は死んだのか。死んだことは悲しいが子猫が助かったのであれば何よりだ)
自分の行為に何の後悔も未練もない御伽塚翔だったが、一つだけ心を悩ましていることがあった。
(一人息子の私が死んだことにより御伽塚の血が途絶えるのは心苦しい。どうにかして現世に戻りたいのだが何とかならないものか……)
そんなことを考えていると、この『天国の階段』で働いている天使なのか、背中には白い羽、頭上には光の輪っかが浮いている『愛くるしい幼女』が声をかけてきた。
「御伽塚翔さん、女神リディアがあなたを呼んでいますのでこちらへどうぞ……」
(ああ、ふつくしい。なんと、ふつくしい…………天使! まさに天使!…………ふぅ)
「…………どうぞ、こちらへ」
私は、足早に…………というか猛然とダッシュでその場から離脱を図ろうとする幼女の後を舐めるようについていった…………照れ屋さんかな?
「はじまして、御伽塚翔さんね」
「?!」
天使の幼女についていくと、そこには綺麗な青い髪をなびかせ、おだやかな表情で佇んでいる大変お美しい淑女が待っていた。
「私は女神リディア。あなたを迎えにきました」
「め、女神!?………………わ、私を迎えに?」
「そうです。先ほど、あなたは現世に戻りたいと願いましたね」
「は、はい……」
「その願い、私が叶えてあげましょう」
「ほ、本当ですか……?!」
「ただし条件があります。その条件とは私と一緒に異世界へと転生し魔王を倒すことです」
「魔王……なんですか、それは?」
「魔王とはその異世界で多くの者たちを苦しめている『悪』です。その『悪』である魔王を倒すためにあなたの力が必要なのです!」
「わ、私の力が……? わ、私はただの人間です。ごく普通の、どこにでもいる、ただの人間です!」
「いえ、違います。あなたは特別な人間です。これまでのあなたの人生は世の為、人の為、善行を尽くしていたことを私は知っています」
「そ、そんな滅相も無い。私のようなちっぽけな人間ごときが善行などと……単にやりたいことをやってきただけです」
「謙遜しなくてもよろしい。神はすべてを知っています。人は皆死ぬとまた別の人生を送りますが、その際、生前の『善行』があればあるほど次の転生に『プラス』として加算され、次の人生はイージーモードで幸せを謳歌できます」
「イージーモード……?」
「……コホン、失礼。さて、あなたが望む『現世へ戻ること』……これに関してはいくら『善行』を積んだ人間だとしても叶わない願いです。ですが、あなたは本当に運が良ろしい。まさに僥倖っ!」
「僥倖……ですか?」
「ええ、僥倖です。なにせ、その『善行』を利用して異世界に転生すれば『魔王』を倒せる力を持った『超絶スペックの人間』へと生まれ変わることができるからです。そして『魔王』を倒せば『現世へ戻る』という願いも叶えることができるでしょう。これを僥倖と言わずして何と言えようっ!」
「おおっ……!?」
「もし、『現世へ戻る』という願いを叶えたいのであれば私と一緒に異世界へ行きましょう…………いかがですか?」
「はい、よろこんで! 私でよければぜひお力をお貸しします!」
「うむ!…………チョロイン」
「チョロイン?」
「何でもありません。ただの『幸せの言霊』です。あなたに送ります」
「おお、何とももったいないお言葉。女神リディアの愛に感謝します」
「うむ、苦しゅうない…………では、これより御伽塚翔の魂を実体化させ異世界へと転生します。では、御伽塚翔よ…………生前のお前の輝かしい姿を強くイメージするのだ」
「御意に、女神リディア…………おおおおおおおおおおお!!!!!」
翔は強く、強く、強く……御伽塚翔たらしめるイメージを強く思い描いた。
すると、翔の魂が輝きを増していき、むくむくと身体が実体化していった。
「さあ、蘇るのです、御伽塚翔! そして私のポイント稼ぎに…………コホン、異世界の平和の為に共に参ろうぞ!!」
翔の魂は、身体の輪郭がわかるほどに変化しそして…………完全に実体化した。
リディアは眩しさの中、少しずつ目を開け彼を捉えていく。
「!?……び、美形! なんという美形!! やだ、超イケメンなんですけど~~~~~~ハアハア」
リディアは翔のあまりの美形に興奮が表に漏れてしまっていた。
「い、いけない……いけないわ、リディア。仮にも『美の象徴』がこんなチョロインじゃいけない! しっかりと気を張らなきゃ! で、でも、これから魔王倒すまでずっと一緒に旅をするのよね、彼と…………やだっ! わたしったら何を考えているの?! 不潔?! で、でも………………ラッキー!」
リディアは欲望のままに妄想していた。
しかし、そんなリディアの幸せは次の瞬間、どん底へと突き落とされる。
「初めまして、女神リディア。御伽塚翔です。これからよろしくお願い致します」
そう言って、翔がリディアに握手を求める。
「は、初めまして。女神リディアです。超独身です。趣味は手料理とお酒を少々嗜む程度に好き……………………?!?!?!??!」
リディアの目の前には、『上半身裸に赤ネクタイ』『至高のブルマー』『純白に輝く靴下』『漆黒の革靴』という『御伽塚家の正装』を纏いし、御伽塚翔がさわやかな笑顔で立っていた。
「へ、へ、変態だぁああぁああぁあぁ~~~~~~~~~~~!!!!!!!!」
この小説は100%イキオイで書いています。