初めての治癒魔法
ゾッジの治癒を頼んだ男はゾッジの仕事仲間。彼を依頼者として手続きをしてもらった。冒険者ギルドで請け負う初の仕事だ。
はじめは肝心。この世界で俺の名を広めよう。名声と富を手にするぞ。
「成功報酬は金貨1枚と小銀貨20枚。それから手数料が引かれた価格がケンさんに支払われます」
職員から軽く説明を受ける。
「分かりました。硬貨の価値が分かりません。どうしても今知りたいです」
「今はそれどころでは……」
と言いながらも、職員の女性は丁寧に説明をしてくれた。
大金貨>金貨>銀貨>小銀貨>銅貨>小銅貨
の順が価値になるらしい。質問をして金貨の価値を計る。金貨1枚を日本円に当てはめると……約10万円の価値になる。俺の目標が金貨100万枚だから、
ええと、あれ?
「1千億円もか!」
「どうしました?」
「何でもありません。驚かしてすみません」
いくらチートの【治癒魔法】の力を手に入れても、1000億円を3年で稼げるだろうか。【治癒魔法】が使えないなんてことはないだろうな。少し不安になってきた。言葉は通じたから問題ない気がする。ここで悩んでも仕方がないか。さっさと金貨を稼ぎに行こう。毎日一回しか俺は魔法を使えないからな。
「お待たせしてすみません。案内をお願いします」
「ああ。1時間も待ったけどな」
時間の概念がある?ケンはそこが疑問に思った。時計は周りに存在しないような…………?
冒険者ギルドから徒歩5分。目的地の建設途中の店についた。
「お~い。ダルイだ。治癒士を連れてきた」
中に一人の男が横たわっていた。
「お、お、ぉお」
「お?」
「遅いわ!何時間待ったと!」
そのままにしておくと話が進まないと思い、ケンは話を切り出す。
「世界一の【治癒魔法】の使い手が治してあげよう」
「あんたが治癒士様か?ほー、確かにそれっぽい格好をしているな」
神様に贈呈してもらった服装は純白のローブだった。ローブの下には職場で使っていた紺色の作業着だった。
ラレッド町は夏真っ盛りだと感じる。しかし、ローブを着ていると暑くもなく、寒くもない。不思議だ。神様が何か細工をしてくれたと考える。
「傷口を見せてくれ」
といっても見れば分かる。あり得ぬ方向に曲がった足。よくも平気そうな顔で話してるな。大の男でも痛かろう。
「今治してあげるからな」
確か、治したい箇所に手を当てて念じるだけで【治癒魔法】が発現するだった。
ケンがゾッジの足に手を当てる。治れ。治ってくれ。俺のために。
効果はあっけなく現れた。ゾッジの足が元に戻る。手を当ててから数秒経過しただけだった。
「ぉおお。痛くない」
ゾッジから感謝の言葉を受ける。
ケンは自分の【治癒魔法】が使えることが分かり安心した。
一回の仕事で日給10万円以上稼いだことになる。だが、足りない。圧倒的に金貨が足りない。
もっと金貨が欲しい。
それとは他に、魔法を使って気が付いたことがある。『次』は『派手』に治療をしよう。
「ケンといったか。腕は確かなようだな。気に入った。『ラレッド交易都市』で家を建てるなら俺に声をかけな。サービスしてやるよ。わしはこの都市で一番『有名』な大工だ。仕事が多くて滅多なことでは個人の仕事は受けない」
「ああ、家を新築する時はゾッジに頼む。ところで、ここは『ラレッド交易都市』だったのか」
「なんでえ、知らないのか」
案内してくれた同僚がケンは旅の治癒士であることを話す。
「流れの者か。地理もついでに教えてやるわい。北に『王都ラガリンゼ』東に『鉱山都市ラダミミ』そして南に『海辺の町ラーロック』がある。『ラバック王国』の中心地だけあり、王都はすげえ。今一番あついのが南にある『ラーロック』だな。外国と交易をして珍しいものが手に入る。外国産の『奴隷』を手に入れるならそこだな。南の大陸が魔物によって人は住めにくくなったのは知ってるな?」
「ああ」
ケンは自分がいる国の名前も今初めて知った。
南の大陸の話を聞き逃した。
「肝心の『ラレッド交易都市』は流通の要。人・物が揃うってわけだ。この都市だけで20万人以上も生活してるわ」
「はー、20万ですか?」
「驚いたか」
この時代に20万人も生活してるとは。いっそのこと、ここを基盤にして金貨を稼ぐことにするか。
名が売れれば、自然に向こうからこちらに依頼が舞い込んできよう。別れ際に思い出したようにケンはゾッジに言う。
「何かあったら冒険者ギルドを通じて俺に話を持ってきてくれ。ついでに、俺の名を広めてくれ。俺に治せぬ傷・病はない。世界一の治癒士だ」
残り金貨99万9999枚。