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冒険者ギルド

 夢ではなかったようだ。

 ケンは異世界ラスと思われる町に立っている。

 人が多い。道路の端に市場が開催されている。活気があるように見受けられる。ここの場所はどこかわからないが初期位置の場所は、『当たり』かもしれない。魔物が跋扈するところ、戦場。人が住めない環境の大地。そこに送られたらと思うと震えが止まらない。人が統治する町だ。人がいれば金が動く。金が金をうむ。俺の治癒の魔法も大活躍してくれるだろう。


 魔物が存在する世界という話だったが、町にはいないようだ。電気も車もない。現代人の俺が慣れるか。

 そこかしろから聞こえてくる言葉に耳を傾ける。「おじさんリンゴまけてくれ」「ゾッジが死んだらしい」彼らの言葉が理解できて安心する。もしも言葉が分からなければ、いくら【治癒魔法】を使えても金貨100万枚を稼ぐのは至難の業だろう。だろう……憶測はよくないか。


 現代日本と比べて驚くことはある。何と、町中で堂々と武器を所持している人がちらほらと目に留まる。剣だったり、槍に、弓まで。

 明らかに人を殺めた経験がありそうな怖そうな男に話す。


 「すみません、お聞きしたいことが……」 

 「なんだ?」

 「このあたりで仕事を探すならどこに行けばいいですか?」

 「冒険者ギルドのラレッド支店に行くがいい。そこの道を右に曲がった先にある」


 ラレッドがこの町の名前か?情報が手に入った。異世界ラスの情報について、ケンはあまりに何も知らない。そもそも金貨1枚の価値はどれくらいだ?それを3年以内で100万枚も稼ぐことが……いまは余計なことを考えるべきではないか。


 「ありがとうございました」


 親切な対応で場所を教えてもらった。

 ケンは目的地につく。石で出来た造り。そこは他の住宅と変わらない。しかし、大きさは今まで見た中で一番大きい建造物であった。

 木の扉を開け中に入る。


 窓口の眼鏡のお姉さん(30代)に話す。

 顔がケンの好みだった。


 「ここに来れば職を斡旋してくれると聞いてきました」

 「初めて冒険者ギルドをご利用の方でしょうか。当冒険者ギルドの身分カードを作れば、職の斡旋等のサービスを受けられるようになります」

 「お願いします」

 

 職員の女性は何やら紙束のような物をがさごそと漁る。

 机に一枚の茶色の薄汚れた用紙を置く。

 日本語ではない文字なのに何を書いてあるか分かった。


 「文字の読み書きはできますか?」

 「文字は読めます。書くことは出来ません。識字率は高いのですか?」

 「3割程度です。冒険者ギルドでは有償になりますが、文字の読み書きの講習をしています。よければご利用してはいかがでしょうか?」

 「それは素晴らしいサービスですね。冒険者ギルドの会員しか参加できないのですか?」

 「基本的にはそうです。他にもいろいろなサービスを有償・無償で行っていますので」


 最低限文字を書けるようになりたい。当面の目標のひとつにしよう。幸いにも文字を読むことはできる。人より簡単に学習できる。


 職員は視線を皮用紙に向ける。つられてケンも同じところを見る。

 冒険者ギルドの規則等や仕組み、利用方法の説明を受けた。重要だと思ったことは何点かある。一つは仕事を受けると仲介手数料が発生する点だ。成功の合否に関わらずだ。初心者が失敗して『奴隷』として売り払うことが多いとも聞いた。シビアな世界だ。

 次に、職員に名前や年齢などを聞かれる。ケンが答えた内容を、職員が皮用紙に書き込む。


 「最後に何か特技アピールポイントはありますか?」

 「特技……?」

 「はい。魔法が得意だったり、剣の扱いが上手い。文字の読み書きができる。なんでもアピールできることがあれば、それにあった仕事の依頼が受けられるようになります」

 「俺の【治癒魔法】で治せない傷・病はありません。【死人】以外なら」

 「…………随分自信があるようですが、【魔法】の素質があるのは全体の1/3。その中で【治癒魔法】を使える数となるとかなり少なくなってきます」

 

 また有益な『情報』を聞いた。情報は金になる。ラスにはネットもない。一つのことを調べるのには苦労すると思う。『情報』は重要。


 「大変だーーー!」

 「どうした?」

 

 入口が騒がしい。人が集まっている。


 「大工のゾッジが転落した。足の足が」

 「落ち着け」

 「すまん。左足が通常とは逆の方に曲がった。誰か助けてやってくれ!」

 「……」


 それを聞いて誰もが口を閉ざす。小声で職員に聞く。


 「なぜ誰も名乗りでないのですか?骨折くらい【治癒魔法】ですぐ治るのでは?」

 「先ほども説明しましたが【治癒魔法】を使える人材は大変貴重なのです。ちょっとした擦り傷なら簡単でも、骨折となると……」

  

 ちょうどいい。俺の名を広めるチャンス。それに俺自身も自分の【治癒魔法】がどれくらい使い物になるか調べる機会になる。


 「俺がゾッジの怪我を治してやろうか?」

 「あんたは?」

 

 幾重にも重なる視線がケンに注がれる。


 「旅の治癒士をしてる。今日初めて冒険者ギルドに入会した。初の仕事だ。本来なら俺が治す程度の傷ではないが特別に治癒してやる」

 「ちょっ、ケンさん。ギルドで勝手に商売はやめてください」


 職員の眼鏡の女性に怒られた。反省。

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