魔獣
ケンは女剣士の奴隷を、高額な金額を支払い手に入れた。奴隷が売買される世界。逆に言えば、ケンも奴隷として売られてしまう可能性もあった。ケンは自分の能力を過大評価している。1日に1回しか【治癒魔法】を使えないとはいえ、ほぼ何でも治せるだけの能力がある。この力を無法者に目を付けたら、金貨を稼ぐ前に人生を終えてしまうだろう。
そのために腕っぷしが強い奴隷を買った。だがまだ足りない。A級冒険者の実力は知らんが、数の力で押されたらケンとミアの二人も守り切れないだろう。最低あと一人いる。ケンは自分の命さえ無事ならいいという立場だが、ミアは仮にも貴族の娘。何かあればこの世界での活動がしにくくなる。それに、ミアは貴重な治癒魔法の使い手。もっと絞りとって、利用しつくしてやるぜと考えていた。
女剣士ヘルガにはミアの護衛をしてもらう。あと一人やはり男の奴隷が欲しい。
ヘルガから『南大陸』の話を聞いてケンは閃いた。これのために、ケンは【治癒魔法】の力を選択したとすら思った。時間は有限である。『儲け話のにおい』誰にも先は越させない!
ケンは町中をぶらぶらしていると、通りから外れた場所に少し大きめの屋台があるのに気づいた。
(町中では襲われないと思い、単独行動をしている)
「ここは何か売ってるのか?中が見えないな」
中型のテントのような物があり、入り口に一人の胡散臭そうな女がいた。
「その、恰好魔術師の方とお見受けしますウ」
「そうだが」
ケンは白のローブに杖といういかにも魔術師という姿。
「いやー。お兄さんのような魔術師にピッタリのものを売っているんですウ。たったの金貨100枚ですウ」
「200枚!!帰るわ」
日本円に換算すると2千万もする。
「待ってください。冗談ですウ。特別に金貨100枚にしますウ」
特別という声に弱いケンは話だけ聞いてみることにした。
「うちらは、旅で手に入れた魔獣を各地で販売してますウ。魔術師の方には実験するなら魔獣と決まってますよね?魔獣なら魔法に耐性もあり、力も強い。買いますよね?買うしかないですよね?」
「まずは、ものを見せてくれ」
「ささ、中へ入ってください」
口車に乗せられたと思った。
「こ、これが魔獣なのか?1頭で数え方はいいのか。よくわからんな」
「当店自慢の商品です。特別に『南大陸』から仕入れまして。うちの目玉商品とするはずでしたが、癖があるのか、売れなくて……どうしようかと。食費はかかるし……あ。というのは冗談です。『南大陸』原産の魔獣【ゴリィーオ】ですウ。なんと、知能が高く人の言葉を理解し、話します」
「ゴリィーオねえ」
ケンの目にはどう見ても、地球にいる【ゴリラ】にしかみえなかった。ただ、大きさはこちらの方が大きい。大きければそれだけ強いよな。
「言葉を話すか……面白いじゃないか。ここで会ったのも何かの縁だ。欲しくなったな。強さはどれくらいなのか?俺の言う事を聞くのか!?食費はどれくらいかかるのか?何を主食にしてるのか?」
「今は大人しいです。【ゴリィーオ】を捕獲するのにA級クラスの冒険者を動員したと聞いています。それでおおよその強さを判断してください。奴隷の首輪があれば命令を聞きます。普通の成人男性2人分くらいで、雑食で何でもたべますウ。ゴリ、何が食べたい?」
ゴリラ……ではなく、ゴリィーオは優しい眼差しをケンに向けて、口を動かした。
「ニク ニク」
「しゃべった?肉っていったよな?」
「お食べ」
女はトマトを投げる。ゴリィーオはトマトをキャッチし後ろを向いて食べ始めた。
「肉でなくていいのか?」
「トマトの方が安いから」
「そ、そうか・・・・・・」
・・・
・・
・
面白そうだと思って買ってしまった。金貨100枚の価値はあるはず。
「さて、宿についたが。おい!お前。名前どうするかな~」
「何でもいいぜ。適当につけてくれや」
「・・・・・・気のせいかな今ゴリィーオが話したような。まさかな」
「馬鹿か。オレ以外に誰か他にいるか?顔だけでなくて頭も悪そうだな」
「普通に話せるなんて聞いてないぞ」
「向こうでは適当に演技してただけだから。一つ言わしてくれ、オレは肉は好きじゃないから」
「肉が食いたいと言ったような」
「そういえば馬鹿な人間は肉以外のものを渡すだろ。『南大陸』から暇つぶしに『北大陸』に来たが、飽きた。そろそろ故郷に帰りたくなったわい。『南大陸』に行くんだろ?においがするぜ。お前の名前は?」
ケンは混乱しつつも、ゴリラのような生物が話し始めたのを受け入れた。使えれば何でもいい。
「俺はケン。お前の名前はクロだ」
「俺の体毛が黒いからか?本当に馬鹿なネーミングセンスだな。よくしてくれよなケン」
魔獣が仲間になった。




