実験
昨日行ったショーは好評……のうちに終了した。
失った金貨と痛みを伴なった代償はあった。しかし、あれは未来への投資だと俺は考える。群衆は知った。俺という【再生】すら可能な『光の治癒士』という存在を……。
すぐにでも冒険者ギルドに俺に直接依頼がくるだろう。だが、今日は別だ。
ケンは何か細長いものがボロ布に巻かれているのを見ている。
これこそがケンが知りたかったこと。昨日の『腕』の『切断』して【再生】させたことはこのための余興にすぎない。
切り外した腕を再生したらどうなるのか。
もう一人のケンが生まれるのか?
2人……4人と鼠算式に増えることが可能ならば、ケンの最終目標である3年以内に金貨100万枚を集めることも容易いだろう。
「神様は言ってたな。俺に与えた治癒の力は【死者蘇生】以外なら可能だと。そもそも【再生】は【治療魔法】に含まれてるのか?俺もよく分からんが【再生】できた。それならば……」
ケンはボロ布をめくり、昨日の自分の腕を確認する。
「見た目はまだ大丈夫か」
金貨を入れた袋で時間を確認する。
【AM 0:05】
ケンは治癒魔法を切断した腕にかける。
腕は元のまま……ではなく、切断部分からまるでいま切断したばかりのような真新しい『血』が出てきた。
「おおお」
分身のようなことは出来なかったが、分かったことがある。
まず、魔法は午前0時を回るとまた使えるようになった。一度使ってから24時間後しないと発動しないという制約はないようだ。それはこれまで使って分かっていたが、具体的に0時過ぎに使えるようになると認識できた。
また、分身は作れなかったけど、腕の組織の時間を戻すことに成功した……かもしれない……と思う。切断面は切れたばかりの状況になっていた。新鮮な血もでていた。ん?腕を『再生』したときには血は足りなかったような……。
「もしかして、【治癒魔法】には若返りの力があるかもしれない?これなら金貨100万枚(日本円にして1000億円)を稼げる!」
【治癒魔法】はケンもまだ分からないことだらけだった。どこか学園で一度勉強するか、誰かから教えを乞うか。ううう~む。考察、若返りの実験は後日に試そう。もう0時を過ぎていた。ケンは疲れていて眠かった。
ケンは自身の体から発光される『光』を消して床に就く。
神様から与えられた【治癒魔法】以外の、体を『発光』させる力はかなり便利だった。目立って金貨を稼げる。この世界に電気はないので夜は暗い。魔法のランタンもあるけど、値段が高価で、光が薄暗いという欠点がある。ケンが滞在してる宿の個室は真っ暗だった。魔法のランタンの貸し出しは値段が高かったのでやめた。が、ケンは自分は『光る』ことを思い出して電気の代わりに使っていた。
早朝、目を覚ました。ケンは昨日の若返りの事はすっかり忘れてしまっていた。
袋に触り時間を確認する。
【AM 4:57】
こちらの世界は朝が早く起きる人が多い。その代わりに夜になるとさっさと寝る。
欠伸を噛み殺し、眠い頭を無理やり覚醒させる。
早くギルドに行って依頼を確認しないと。割のいい仕事はすぐになくなってしまう。
宿を出て外にでると、一人の小間使いの女性がケンに話しかけてきた。
「あなたが治癒士のケン様ですか?」
「はい、私は旅の治癒士をしているケンですが……何か御用なのですか?」
ケンの返事を聞くなり、小間使いの女が何やら手を大きく振り始めた。
「……何をしてるのですか?」
「すみません――」
なぜ彼女が俺に謝ったのかすぐ分かった。
2人の屈強そうな男を率いるやや肥満気味な男がこちらに向かってきた。
嫌な予感と期待が胸を過る。
「お前が巷で噂の光の治癒士かね?」
この顔は見覚えがある。1ラレッド交易都市で高級宿屋を経営しているウンドウ。
昨日公園でわざわざ町の有力者が集う時間を選んで良かった。ウンドウは居なかったはずだが、噂で俺の名前が広まったのだろう。都市に高級宿を経営するだけあって、金は持ってるはずだ。
「何の噂か知りませんが、俺が治癒士のケンです。……俺に何の御用ですか?」
「そうか。では、何でも病を治せるというのは本当かね?」
「治せます」
「ほほ。それは良い。実はある方の治療を頼みたい」
「いいです。では――ギルドに行って直接依頼を出してもらいませんか?正式に書面にしたいので」
「うむ。さっそく今日中に頼むとするかね」
あ……、今日は【治癒魔法】を使ってしまった。俺は一日一回しか魔法使えないのにどうやって乗り越えよう。




