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営業

 ケンが出した依頼を受けた巨漢の男の名前はビルウス。個人でDクラスのある冒険者。クラスとは上にあるほど『信用』が高い。一番上がS。一番下がF。依頼を達成するこどに『信用』がが上がり、よりよい仕事が斡旋される仕組みになっている。

 ビルウスと女職員を交えて依頼書の内容を確認する。

 ビルウスはケンに再度、依頼書の内容について聞く。


 「本当に、やっていいんだな?俺は責任は取らないからな。報酬の金貨1枚は払ってもらうぞ」

 「そこは問題ないです。こちらも質問があります。普段はダンジョンで魔物を個人で倒してるんですよね?」

 「ああ、パーティは組まないからあまり無理は出来ねえがな。ラレッドダンジョンで魔物を倒してる」

 

 見た目。魔物を普段討伐している経験。申し分ない人材だった。


 「武器はその剣ですか?」

 「いや、これは違う。メインは斧を使っている。修理に出していて、これから受け取りに行くところだ」

 「分かりました。では、依頼をよろしくお願いします」

 「おう、こちらこそな」


 二人は握手をして、目的地を告げて一旦別れる。

 ビルウスには普段使っている斧を持ってきて来てほしいと言った。

 

 『ラレッド交易都市』の公園にケンは先に到着した。

 ラレッド交易都市に中央に位置する場所。広さは学校のグラウンドほどある。色々な屋台、市場が並んでいた。人も多い。

 ケンは一月も暇を持て余していたわけではない。ラレッド交易都市を周り、何があるのか調べていた。そこでこの公園に目を付けた。ある時間帯に行くと町の有力者がこの公園で憩いのひとときを過ごしているのを知った。

 公園の中央に一本のでかい木がある。多分地球ではみかけない種類。高さは30メートルは超えていそう。真下は木陰になっていて涼しかった。ちなみに公園内は芝生。

  

 「待ったか?」

 「いえ、それほどは」


 準備を終えたビルウスがと合流した。

 公園で人が多い場所に行く。


 「みんな、聞いてくれ」


 ケンは大きく響く声で言う。

 周りは何事かとこちらに視線が集まる。

 さらに、赤、青、緑……とケンが知っている『色』でケンの体全体が『光り』点滅し始めた。

 その奇妙な光景に人々は歩みをとめ、ケンのいる方向に近づく。


 「何だ!」

  

 一人の野次馬が声を上げる。


 「俺は『光の治癒士』のケンだ。俺に治せぬ傷・病は存在しない」


 そこで、一区切りする。


 「その証拠に、今から俺の『腕』を切断し、【再生】させよう」

 「無理だろ!【再生】の魔法を使える治癒士がここにいるわけがない」

 

 先ほどの野次馬がまたケンに質問する。

 この野次馬の男はケンが雇ったサクラであった。

 群衆共はうんうんと頷いている。

 でも中には「あれが噂の『光の治癒士』では……」とケンの存在を知っている者もいた。


 目でビルウスに合図する。


 「ケンさんよ、どうなっても俺は知らんぞ。恨むなよ?」


 巨漢の男が斧を掲げ、ケンの右腕を切断しようとする。

 誰もがケンを見守る中、歯を食いしばっていた。

 

 「おらぁあああッー」


 気合の声とともに、斧がぶんっと風を切る音がして、ケンの右腕を『切断』した……

 腕はぼとりと、芝生の上に転がる。

 腕の付け根から血が流れ、中の白い骨、赤い肉が見えた。


 「……ンッ…う」


 痛い痛い痛い痛いタイ痛い痛いタイ痛い痛い。

 痛い痛い痛い痛い。

 

 自分の右腕が切り離される瞬間をケンは見ていた。

 自分の腕を切断して、再生させるという狂気。


 「きゃああぁああーーー」


 若いご婦人には刺激が強かったようで叫び声をあげる者もいた。

 また、少年少女たちは目を背け、顔色が真っ青になっていた。


 ここでケンは一つ気づいてしまった……。確か俺の【治癒魔法】は治したい箇所に手をあてて念じるだったよな。つまり利き腕(右)がなくても【再生】は発動するのか。

 今までは右手を使って【治癒魔法】を行使していた。左手で魔法は発動するのか。もし両腕が無くなったらどうなるのかと今更ながらの疑問が頭に浮かぶ。焦り、額から一筋の汗が零れ落ちる。右腕で汗を拭きとろうとしても……無かった。


 「それでも……やるしかない。デ、では【治癒魔法】の【奥義】であ……る【再生】を行います」


 痛みを我慢して声を出す。大丈夫だと心の中で自分を激励する。【猿風】のメンバーの腕だって【再生】できた。

 ケンは左手を右腕の付け根にそっと充てる。

 ケンの左手から眩い神秘的な光が発光する。

 時間にして、2秒か、3秒。たったその数秒でケンの切断された右腕は【再生】されていた。


 「「ぉおおおー」」


 口々に歓声があがる。

 自分自身を痛めた甲斐があった。

 待っていても仕事は降ってこない。それなら、と思い、自身の体を使って【治癒魔法】の力を世に知らせた。

 【再生】された右腕を見る。日焼けして黒い肌。手はごつごつとしていている。黒子の位置も同じだ。前と全く同じ腕だった。【再生】は成功した。


 痛みを伴う営業?の甲斐があった。やがて『光の治癒士』の名前がラレッド交易都市に広まることになる。

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