プロローグ
やっと馴染みになってきた部屋の、床一面が血の海だった。閑静な住宅街、どこにでもある一軒家のリビングダイニングは惨憺たるありさまだ。ひっくり返った液晶テレビの上には、割れたセンターテーブルが乗っている。
そんな惨状にも関わらず、室内はまるで世の中の音が全て消え去ったような静けさだった。青年と呼ぶにはまだどこか幼いが、少年と呼ぶにはいさいさか育ちすぎている男は、部屋の中央にただ呆然と佇んでいた。視線を落とし、こびりついた血の色よりも赤い自分の腕をじっと見つめる。
「……ともに……帰ろう」
ふいに、後ろから足首を掴まれた。顎を引くと、自分の足首に巻き付く、薄汚れた爪の生えた太く赤い指が見えた。ゆっくりと振り返り、指の持ち主を見つめた。黄色い眼球に耳まで避けた口。とても醜い顔をしていた。
「なんで」
疑問が擦れた喉から零れた。答えを待たずに、醜い男の頭を踏みつける。
「なんで、なんで、なんで、なんで、なんで!」
繰り返し、踏みつける。その声と力は徐々に強くなり、とうとう男の頭蓋が砕け、足は床板を踏み抜いた。それでも、壊れた機械のように足は単調なリズムを刻み続ける。
掃き出し窓から、夜明けを知らせる仄かな灯りが差し込んだ。足が自然と止まる。顔を上げると、窓ガラスに今しがた頭を失ったはずの男の顔がぼんやりと映っていた。
「誰?」
答えが閃光のように体を突き刺す。力を失った自分が床に崩れ落ちるべしゃり、という音を聞くと、部屋はまた静寂を取り戻し、わずかに残る薄紫に包まれた。