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5章-2

 暑い、暑すぎる! そして、いろんな意味で熱い奴もいる。

 陽炎(かげろう)もゆる猛暑の生徒会室で、俺はナウ、大江戸に説教(せっきょう)を食らってます。


「バカにするな! 瑞穂は知らんだろうが、マーケティングというのが世の中にはあるんだ。俺はフリマをやってる。あそこで適当に何か置けば売れると思っているだろう。お前は」

「腹立つ言い方だな。バカにしたような」

「なら、思ってないのか」

「ちょっとは思ってたけどさ」

「それが素人(しろうと)の浅はかさだと言ってるんだ!」

「だから、何でお前はいきなり上から目線で敵作るワケ? 教えんだったら優しく教えろよ」

「俺は考えて仕入(しいいれ)をしている。どの年齢層をお客さんにするか、その季節で欲しい物、そのお客さんにとっての値ごろ感、その人はブランドを重視するかしないか、他のフリマの出展者(しゅってんしゃ)と被らないか。いろいろ考えている。この差は(わず)かだ。この僅かな差が、他の店ではなく俺の店で買う力になる。何も考えずに商売してると思ってバカにするな!」

「バカにしてないって、ちょっと言っただけじゃん。フリマって楽しそうだねって」


 この暑さにめげず、大江戸がタラタラ汗を流しながら、珍しく熱弁(ねつべん)を振っている。

 そんなに熱くならなくてもいいじゃん。ちょっと仕入の電話に頭を下げる大江戸をからかっただけなのに。

 その反論が10倍になって返ってきやがった。


「政治。仕事って楽しいだけじゃないんだよ。相手がいるんだから」

「神門。お前だって、まだ学生だろ。なんで大江戸側なんだよ」

「僕は家の都合(つごう)、半分、足を突っ込んでるからね。面倒(めんどう)は分かるつもりだよ。分かりたくないけど」

 うっ、神門も大江戸の味方かよ。

「ちっ、悪かったよ、からかって」

 けど分かって欲しいのは俺だって同じだ。だって金もない、人もない、なのに桐花祭はやらなきゃならない。どうしようか考えてるのに、電話がガンガン鳴るんだもの。そりゃ俺だってイライラが募るよ。


「わかったら桐花祭の準備を進めろ! 考えろ! 俺は早く帰って、納品チェックをしたいんだ。やる事やって、とっとと帰るぞ」

「そうだ、そうだ。暑くてイライラするのは分かるけどさ、お前がダレたらダメっしょ。ちゃっちゃとやって~、んで終わったら野球しようぜー」

「野球って、こんな炎天下い中、嫌ですよ。それに五人じゃ出来ないでしょ」

 って、何でいる? このオレンジガールが!

 余りに自然に加わってたから、まったくヨミ先輩の違和感に気付かなかったよ。


「取材だよ取材。アレ、なんて言ったけ。メイキング!!! Makeing of TOUKASAI」

「なんでそこだけ横文字発音なんですか。しかも無駄に発音がいい」

「英語得意って、言ったじゃんっ」

 何を嬉しそうに。そんなメイキングだなんて、ドラマなんかねーよ、生徒会には。分かってんのかなこの人。



 実際、生徒会の活動は裏方だ。

 出し物を企画・実施するのは各クラスや部活だし、当日、お客さんの前に出るのは生徒達である。

 だが運営も含め裏方の準備の全ては、桐花祭実行委員会と生徒会が進めなきゃいけない。

 その中でも組織化や大枠の進行管理、組織をまたいだ交渉などは、ほぼ生徒会の仕事だ。皆の知らない所で俺達は桐花祭の統括をしなければならない立場なのだ。

 それも、僅か四人で。

 地域の期待も大きいので、前年の内容を下回る訳にはいかない。過去に恥じない桐花祭に仕立てなきゃいけないと思うと最高責任者は責任重大。その最高責任者が俺。

 何かあれば全て最高責任者の問題。もし、けが人でも出ようものなら……。

 あたた、もしもの事を考えたら胃が痛くなってきたよ。


 恥ずかしいものは出せないからと、先輩から去年の事を聞こうと思ったのだが、「政治の好きにやるとよい。球技大会も、私より上手くやってのけたではないか。自信を持って進めろ」と励ましのお言葉を戴くばかりで、アドバイスは戴けなかった。

「でも、これはやっちゃダメみたいのはありませんか。大江戸の罰ゲームみたいな」

「罰バツゲームは秀逸(しゅういつ)だったぞ。桐花は生真面目(きまじめ)な文化だから面白い試みだった。ダメなものも政治の考えで判断すればよい」

 うぬぬ、任せられるのは嬉しいが、突き放されている気もして、ナイーブな俺は複雑な気持ちだよ。


 そんなことを思い出し、左脇をさすりさすり胃薬を流し込んでいたら、「どうした瑞穂」とヨミ先輩が心配そうに顔を覗き込んできた。

「ストレスですよ。桐花祭のことを考えると、胃が痛くって」

「そうかぁ、だよな、この人数で全部やるんだもんな」

 うんうんと一人納得したようにうなずいてる。

「そう思ってお姉さんは、取材に来たのだよ。今の生徒会って少ないメンバーで頑張ってるじゃん。それって、もっと全校に紹介してもいいと思うんだよね。だって部活は結果が出たら皆にスゲーって言われるのに、生徒会は上手くやるのが当たり前だろ。なんか不公平じゃん」


『今、考えたでしょ』っいう言い草だったが全くその通りです! それ、いつかヨミ先輩に書い欲しいって、お願いしようと思ってた事だ。

 ノーミスは当たり前、ミスがあったら多方面から非難されるって、やってる方も張り合いないし頑張り損だって。まだ半年も生徒会をやってないのに、マジそう思う事がしばしばあった。先輩はよくこんな認められない仕事を5年間もやったものだ。ストイックで偉いよ。

 はっ! Mっ娘って言ってたけど、そういう所もかっ。

 そのくせ、ストレスで食べ過ぎて、ぷくぷく太っちゃうなんて、かわいいところもあるけど。うん、そういうちょっと抜けてる所ってイイ。萌える。ちょっとぷっくりした先輩も見てみたい。


 一人、にゃはは~んとしてたら、瑞穂、瑞穂と声がする。いかんいかん、白昼夢(はくちゅむ)を観ていた。

「ところで少ないって、先輩のときの生徒会って何人だったんですか?」

「さぁ、オレもよく覚えてないけど、10人位いた気がするぜ。式のときステージにそのくらい居たもん」

「まーじっ! 4人だよ。俺達。半分以下じゃん! そりゃ、あれだけ行事があっても回るよ。先輩も言ってくれればいいのに」

 なんて一気にまくし立てると、

「葵様には葵様のお考えがあるのだ。言わぬという事は、別な未来を志向されているのかも知れん」と、新田原がぬっと話題に入ってきた。訳知り顔で立ち上がり、俺の前に背を見せる。


「割り込んでくんなよ。ヨミ先輩と俺との間に。それとも何? その(たくま)しい背中を俺に見せたいわけ」

「見せたい? まぁお前も少しは鍛えた方がいいな。その腕っぷしでは誰も守れんぞ」

 ほれ、と指さしたのは、俺の腕と顔。祭りの一件でボコボコにされた(あざ)が治りかけて、黄色く変色し始めていた。

「自分だったら、こうはならんかったって言いたそうだけど。数に技なんて通じねーンだよ」

「いや戦い方がある。何を勝利とするかによって、自ずと戦い方は変わってくる。地の利もある。なにより小回りが効く、連携(れんけい)によるロスも少ない」

「はいはい、長そうだから、いつか聞くわ、それ」

「瑞穂! お前はなぜ、俺の言う事をいつもいつも」

「はいはいはいはいはいはい」

「もういいわ!」

 プリプリ怒って、どっかとソファに座る新田原。どうでもいいけど、なんで木刀を抱えているワケ? 生徒会室で木刀を持って歩くのは止めて欲しい。


「瑞穂、聞いてやれよ」

「だって、あいつ長いんですもん。語り出すと。それに先輩の話が加わると12時間は話しますよ。あ、これは書かないでください」

「書かねーよ。メイキングじゃねーし。まぁ、手伝いながら、ちょくちょく話も聞くからよ。とにかくやろうぜ。どんな記事になるかは楽しみにしてな」

「はい、よろしくお願いします」


 てな具合に、俺達の桐花祭準備がスタートしたのだが、先輩は夏休みの活動期間中、一度も生徒会室には来てくれなかった。

 連絡をしても「私用がある」「家族のイベントが」「祖母の法事で」と何かと理由をつけられ、ついぞ、始業式まで会う事が出来なかった。

 まさか嫌われちゃったとか、ないよな。

 あーあ、先輩に会いたいなぁ、寂しいなぁ。

いつも拙著をお読み戴き誠にありがとうございます。

私ごとで恐縮ですが、最近まとまった執筆の時間が取れず、申し訳ございませんが水曜・土曜の定期投稿を、週イチ投稿に切り替えさせて頂きたく存じます。

読者様にはご迷惑をおかけしますが、なにとぞよろしくお願い致します。

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