4章-18
結論から申そう。川遊び、めっちゃ楽しい!
田舎者の俺にとって、川で遊ぶなんざ、目新しい体験ではない。けど、皆で遊ぶ河原ってこんなに楽しかったか!?
泳ぎ比べに水鉄砲、河原ではスイカ割りにボール遊び。ランチにお弁当を食べて、また、川に入っては、沢蟹やマスを手掴みする。
水中神経衰弱とか果てや水の掛け合いすら楽しくて腹から笑えちゃう。高校生にもなって!
自慢じゃないが、水切りなどは得意中の得意だ。やり方を女の子三人に教えてあげると、さすがはヨミ先輩、飲み込みが早く、あっという間に大江戸より上手くやってみせる。これでもかのドヤ顔で。
先輩は研究熱心で、石の形や投げる角度を変えて何度も実験しては、その度、親指の爪を顎にあて「ふーむ」と唸る。
水分は、何度やってもとぷんと落ちて水面を跳ねる気配すらない。それが悔しいらしく、俺にコツを教えろとせがむ。仕方なく大江戸を気にしながら手首のスナップや腕の振り方、スタンスの取り方なんかを手取り足取り教えてやると、最後には三回くらい跳ねるようになり、「やったやった」の大喜びであった。
いやぁ~、何と初々しい、なんと麗しい。
お昼は水分が作ったサンドイッチだ。
大ぶりのサンドイッチケースを開くと、ふわっと白パンと卵のいい香りが。
「おおっっっ」
当然なる歓声だ。
「ただのサンドイッチよ」
「こんなのいつ作ったんだよ?」
外を出歩いていた俺は、いつ作っていたのか分かず聞いてみたが、ずっと居間にいた新田原も知らなかったらしい。
「うふふ、秘密」
先輩は、「私も作ったぞ」と鼻を鳴らすが、この出来ばえと調理に参加したタイミングを見るに「作った」ではなく「切った」だろう。
「先輩は、どのサンドイッチを切ったんですか?」
ちょっと意地悪く聞けば、「政治!」と言って可愛く膨れる。
「分かってますよ、その玉子焼きは先輩でしょ」
すると今度は、みるみる喜色を漲らせ、ニッコニコの笑顔で俺を見る。俺はそういう先輩の子供っぽいところが好きだ。二つも歳上だけど。
サンドイッチはさすが水分! お店で出てくるようなふっくらしたパンに、ぱりっと弾けるようなレタス。絶妙の塩加減とからしの刺激で実にうまい。
もちろん、卵焼きも美味しかったですよ、先輩。
泳ぎと言えば、幸い男子三人はそれなりに泳げたので、男の威厳を見せるためにリレーをやってみせる事にした。
互いに対岸に立ちバトンリレーで片道を泳ぐ。向こうまで10メートルもない淀みといえど、流れに逆らいスピードを出して泳ぐと息が切れる。
先輩方は、俺達の泳ぎを見て、やんややんやの大喝采だ。やっぱり男子は早いだの泳ぎが力強いだの。もう、男のプライドをくすぐられまくって俺も鼻高々。
だがヨミ先輩がタイムを計ると、一番早いのは新田原だった。おかしい!? 泳ぎは俺の方が達者なのに。
「政治の泳ぎは我流なのではないか?」
「どこかおかしいですか?」
「クロール以外もやってみろ」
先輩に促されて、平泳ぎやバタフライもやって見せる。俺は海の近くに住んでたので、それなりに泳げるのだ。
「ほほう、一通りできるのだな」
先輩は関心してくれたが、ヨミ先輩と水分は、「なんかオリンピックで見るのと違う」と言うではないか!
当たり前でしょ!
珍しくパラソルの下で本を読みながらジュースをすすっていた神門も口を出し、「腕の掻き方がコンパクトなんだよ。あとバタ足のしなりが悪いかな」と目につくところをズバスバ指摘する。
「だったら、お前が泳げよ! て言うか水着くらい着ろ!」
「ボクはお日様が苦手だからね」
そうか? こういう所に来たら雰囲気として服くらい脱ぐだろ、フツー。まぁ人のポリシーにとやかく言うつもりはないけど、一緒に遊んだ方が楽しいと思うけどなぁ。あ、もしかして。
「神門、もしかしてカナヅチ?」
神門はニッコリ笑ったかと思うと「泳げるよ。でも、水、キライ」と、笑顔と思えない、『これ以上とやかく言うなオーラ』をチリチリ発散するので、スゴスゴ引き下がることにする。
ダメっ! 逆らっちゃいけない。このオーラ危険、触るとヤケドしちゃう。
どうもこのメンバーは、我が道を平然といく人が多い。自慢じゃないが、俺じゃなきゃこのメンバーはまとまらなかったんじゃないだろうか。
自慢じゃないよ。ホント、自慢じゃないけど。
スイカ割りは、先輩愛用の木刀が登場した。
「日本刀を持ってこようと思ったのだが。スイカは割るものではなく切るものだろ。鏡割りならいざ知らず」
「日本刀!」
「もちろん居合刀だがな。真剣だとお縄になってしまう」
「葵、居合刀でも捕まった人はいるんだよ」
「本当か!!! 危なかった。ヨミの言うことを聞いて良かった……」
本当に持って来る気だったのか。もしかして先輩って天然ちゃんなんだろうか?
ヨミ先輩も曰く、葵先輩は思ったのと違う人だったそうだ。
『もっと、真面目な完璧超人かと思ってたぜ』
ごもっともである。それは一般的な見え方だろう。俺も今朝までそういう人じゃないかと思っていた。実際、本人もそういう演出をしてたし。
なんでそんな見せ方をしていたのかは、本人じゃないから分からないけど、今の俺達に見せている姿が素の先輩だと思う。そう思うと、俺だけに見せてくれていた姿が、今、みんなの前にあるのはちょっと嫉妬しちゃう。
「スイカ割りは初めてなので、勝手がわからんでな」
勝手なんか無いでしょ、それって常識の範疇だと思うけど。そんなちょっと危険な会話がなされた笑いの中で、スイカ割がスタート。
木刀が、それぞれの手を渡り降り下ろされる。
ここは剣の嗜みがある先輩か新田原が有利だろうと思いきや、スイカを割ったのはなんと神門だった。これには驚きの声が。
「まさか、神門がやるとは思わなかったぜ」
「見てたんじゃないのか」
新田原の疑問はごもっともだ。
「失礼だなぁ、ちょっとしたやり方だよ」
「どんな?」
「音だよ。音を聞いて川の流れと平行に歩けばいいんだ、あとは距離。川とスイカの距離は歩測で分かるし、スイカと平行方向の距離は皆が教えてくれるからね」
「そんなことを考えてスイカ割りをしてるのか!?」さすがに大江戸も呆れる。
「楽しめよ! アタマからっぽにして!」
「いいじゃない、僕は最小限の力で最大の成果をあげたいんだよ。君たちとは違ってね」
「むむむ……」
この上から目線には男子連中はムカッときたらしい。
「お前ら!!!」
「おう!」
珍しく意見が合い、俺達は見事な連携プレイをみせた。大江戸が神門の手を、新田原が右足を、俺が左足を持って……
「うわー」
「そーれ!」
川に叩き込んでやる!
「やめてー!」
悲鳴など聞く耳持たん!
神門の小柄な体は高々と宙を舞い、ドボンと派手な音と白い大しぶきを上げて川の中へ。
人は石と違って、水に落ちると大きな水しぶきが立つのだ。
うわぷぷ、と大暴れの神門は半溺れ。
ひとしきり手足をばたつかせて大騒ぎした後に、やっとのことで立ち直り、全身ずぶねれで川面に立ち尽くす。
「ひどい!!!」
その一声にみんな大笑い!
「笑うなんて、もっとひどいよ!!!」
「いやだって、こんなのぜってー見れねーもん」
「我クラスの女子に見せたら、何て言うか」
大江戸が指を指して笑っている。よっぽど愉快だったらしい。こんな大江戸は見たことない。
「らしくなったぞ、これぞ、川遊びって感じだろう」
新田原もだ。葵様の手前も忘れて笑い転げている。
「もうっ! びしょびしょだよ!」
チタチタと滴を落として歩るいてくる姿が、哀れで哀れで。
「大丈夫だ、今日は暑い。帰る頃には乾くだろう」
「そういう問題じゃないよ、葵!」
「神門さんは、濡れても色気がありますね、うふふ」
「いらないよ、色気なんて!」
神門を乾かすついでに、皆で甲羅干しをして、俺達は遊び疲れた頃には、お日様も傾いてきた。さて、そろそろ別荘に戻るか。
「神門、パンツも乾いた?」
「しらないよ!!!」
もう照れ屋さんなんだからっ。