4章-8
すみません。投稿が一日遅くなりました。
でもポケモンのせいじゃないよ! ホントだよ!
自然な流れで、先輩とLINEで繋がれたのは嬉しい。
思いあがりかもしれないが、それは先輩も同じだったようで、勇気を出して「連絡先を交換しませんか」と切り出したら、先輩は微笑みを溜めて無言で頷いてくれた。
二人とも今更感があったし、俺と先輩は、最初から微妙な関係だったから。
それが何の行幸か、先輩の別荘に遊びに行くことになったのである。ついでに連絡先も交換出来て、嬉しくない筈はない。有頂天ってこういう時のための言葉なのね。
別荘は静岡の某所となった。そこまでは電車で行く。水分が車を出しましょうかと提案してくれたが、先輩がなぜか電車に拘りを見せて、新幹線からローカル線を乗り継いで行くことになった。
こりゃ、ボディーガードの赤母衣さんは大変だ。
「みなさんの、ご両親は大丈夫だったんですか?」
一応、そこら辺は聞いておく。ほら、僕って常識人なんで。
「わが家の別荘だからな、男子も居ると伝えたが、生徒会役員をやるほどの者だ、両親からは快諾をもらったよ」
「私も葵さんのお誘いですから大丈夫でした。先方には保護者もいらっしゃいますし」
「うんうん、俺の信用だね」
あら? 自信に満ちた俺の発言に対して、曇った表情が。
「嘘を言っても仕方がないから言うが、信用という意味では、神門と新田原が大きい」
「ええ、そうなの。生徒会長の信用が一番じゃないの!?」
「二人とも両親とは面識があるからな」
「黙っていてもいつか分かると思うので言いますが、瑞穂くんの評判は父兄からすこぶる悪いです」
マジですか!? 思い当たるフシしかないから、信じられないという訳ではないが軽いショックだ。
まぁそうだよな。外部生で赤字問題スッパ抜いて、部費激減させて家庭の負担を増やして、理事会とやり合って内部生の利権を剥奪してんだもん。先輩なんか女の子なのに遅くまで学校に残らせて、牛丼屋に連れて行って学校の噂にさせちまってるし。
まさか、別荘に行ったら先輩のお父さんがいて、そこで刺されたりしないだろうな。不安になってきたよ。
寝静まった別荘の深夜。ヒタヒタと迫る黒い影。その手には刃物が。
ギャー!
想像がリアル過ぎて、どうやら青い顔になっていたらしい。ヨミ先輩が、そんな俺を元気付けようとバンと背中を叩く。
「大丈夫だって瑞穂! オレはいつだって瑞穂の味方だぜ!」
「ありがとうございます。そう言うヨミ先輩の所は大丈夫だったんですか?」
「オレは、友達の別荘に行くって言ってきた」
「男もいるって?」
「それはーーー。言ってない」
「えー! 大丈夫なの? 俺、犯罪者にならないよね」
「バレなきゃいいんだよ!」
確かに桐花の女子っぽくない、やんちゃっぷりだ。あんたの家だってフリーダムじゃねぇだろ。女の子三人姉妹なんだから。
「もう引き返せないぜ。ここで帰ったら逆に勘ぐられるからなっ」
くそ、これは織り込み済みだ、確信犯だ。益込姉妹はどっちもグイグイきやがる。
「まぁ、いいんじゃないの。そう言うのも。僕らも羽目を外す経験は必要だよ」
そっぽを向いて、『本当ですか?』って事をさらっと言い放つ神門。そういえば、こいつも家が面倒くさいとか言ってたよな。それが何かは庶民には分からないけど、なんか不満があるのだろう。年以上にませた奴だか、苦悩は年相応なのかもしれない。
新田原と大江戸は、普通にオッケーをもらってきたそうだ。生徒会の合宿と言ったらしい。まぁ当たらずとも遠からじだ。
旅行当日。
女の子三人は、やはり張り切ったのだろう。とても可愛くキメて駅前で待っていた。
先輩は、カンカン帽にスカイブルーのストライプのワンピース。丈が短いのが気になるが、先輩は硬派な風でミニが好きだから驚かない。
それに白のカーディガンを羽織っている。ヒールの高い靴を履いているので元々高めの身長が、さらにしゅっとして見えて決まっている。
ヨミ先輩は、キャップを斜めに被り、セーラーの白シャツに紺のショートパンツ。それにスニーカーだ。サングラスなんか帽子の上に乗っけて活発なイメージのヨミ先輩にぴったりだ。
肩のトートがオレンジ色なのは、好きな球団の影響だろう。うん、そうだろう。
水分は、若草色の丈の長いワンピース。白い大きな襟と七分の袖で、とても清楚感がある。
『これから別荘に行きますわ』と言えば、そうでしょうと十人が十人答えそうだ。
それにローマサンダルを合わせて、カジュアルな感じを出している。
それに、神門が加わる。
美少女三人に、美少年一人である。衆目を集めるのは必死で、通りすがりの男女が四人に視線を奪われていた。
彼らに声をかけるのは実に気が引ける。が、腹を決めてあえてフランクに、
「よう、待った?」
「政治! 我々も先ほど来たところだ」
いやぁ嬉しそうだな先輩。周りの通行人は、その美声にちらっと振り向く、
「瑞穂~、女を待たせんなよ」
なんて冗談を言いながらも、応援している野球チームが勝ったような顔で俺を出迎えてくれる。
ヨミ先輩の笑顔は、いつもはじけてるなぁ。
「すみません。でも時間より前ですよ」
「私の家の車で、お二人をピックアップしてきたのですが、思いのほか早くついてしまって」
「あ、そうなんだ。気にしなくていいよ。そうか、そうですよね。荷物もって移動じゃ大変ですもんね。ところで荷物は?」
「ああ、大きいものは送ってしまったよ」
「なんと、その手があったか!」
「女の子は荷物が多いのよ。あなた達なら、そのバッグ一つで十分でしょうけど、そうはいかないの」
バッグ一つに入りきれない荷物って、どんだけあるんだと聞いてみたら、「それは秘密だ」だって。
なんで三人が顔を見合わせてニコっとしているのか分からないが、俺の追試と、この旅行をきっかけに随分仲良くなったものだ。よき哉、よき哉。
新田原と大江戸が来るまでの間、旅程をネタに雑談の花がひらく。
冷静に聴くと、神門と先輩の声のトーンって同じくらいかもしれない。圧倒的に神門の声が高いからなんだけど、目を閉じると自分のことを「僕」って呼ぶ女の子が三人と姦しくおしゃべりをしているように聞こえる。
神門は頭の回転が早いせいか、男の割にはよく喋るし、女の子の会話にも意外についてくる。先輩とよく話すからなんだろうけど。
「宇加のバレッタかわいいじゃん」
ヨミ先輩が、めざとく髪飾りを見つけて言う。
水分は内部生では顔が通っているので、ヨミ先輩も知っていたようだが、見た目は気位の高そうなお嬢様なので接点はなかったそうだ。
だが、親しく話してみると『お節介で情にもろくて家庭的』といった、見た目とのギャップがお気に召したらしく、今では、時々ちょっかいを出しては、水分を困らせるかわいいオモチャだ。水分もまんざらではないらしく、気が付けばお互い名前で呼び合う仲になっていた。
まぁ水分って、特別内部生なんですけどね。ヨミ先輩は、そういうの全然気にしないから。
「これですか? 作ったんですよ」
「もしかして、僕が教えたところで?」
「ええ、トンボ玉がかわいらしくて」
「あしらっているのは、マリーゴールドか? 素敵じゃないか」
「ありがとうございます」
「このオレンジは、宇加にぴったりだよ」
「オレンジっていったら、オレの色でしょ!」
「ヨミちゃんはショートだもん。バレッタなんて使わないでしょ」
は、入れん。会話に混ざれん。
なんでそんなに自然に喋っているのかな。神門くん。ヨミちゃんが苦手とか言ってたのに。俺なんか女子四人に囲まれている気がして、そわそわしてるっていうのに。
縄跳びに入れぬ子供のように、何度となく会話のチャンスを見送っていると、時間通りに新田原と大江戸が到着した。軽くほっとしながら、俺達は新幹線の改札をくぐる。
到着までは、まだ時間がある。
俺達がホームで待っていると、先輩が「少々が早いが駅弁を食べよう」と言い出した。
「葵さん、まだ10時ですよ」
「葵先輩、もしかしてこれが目当てで電車、電車って」
ヨミ先輩の言うとおり、先輩が妙に電車の旅に拘っていたのって、そう言うことだったのか。
「うむ、憧れだったのだ。友人と駅弁を食べながら旅行をする。ワクワクしないか!」
「確かにワクワクしますね。せっかくですから、買いましょうか」
水分も珍しく乗り気だ。
「しょうがねぇなぁ」
と言いながら、ヨミ先輩はもう食う気満々な顔で、売店まで歩き出している。
それを無感情に見ながら、「弁当なら、コンビニで買ったほうが安いだろう」と大江戸。
「大江戸、お前には分からんかもしれんが、葵様はこのような体験はないのだ。自由にさせてやってくれ」
「まぁ人の財布だから止めはせんが、さっき朝食をとったばかりだろう」
「自由にさせてやってくれ」
「まぁ人の腹だから止めはせんが」
面白れぇなぁ、新田原と大江戸は。
二人の掛け合いの向こうでは「待ってくださ~い」と細い声をあげながら、ヨミ先輩と先輩の後を水分が追いかけていく。
「冷凍みかんは、ないっかな~」
「何ですか、それは?」
「カッチカチの凍ったみかんだよ。子供の頃に食べたことあるんだ」
「見たいものだな。ヨミ! それを探せ!」
「あ、葵さん。これ温まるお弁当ですって!」
「何? 温まる牛タン弁当か。面白いな。ところで宇加は牛丼を食べたことはあるか?」
おーおー、遠目にも楽しそうだ。
このご時世、新幹線に乗るだけでこんなに喜んでくれるのは、5歳児くらいだよ。
一方、神門は電車待ちの間、ずっと小説を読んでる。自分の世界があるのはいいね。結構、結構。
「葵様とお会いしたのは中等部の春だった」
「ああ」
「学園のパンフレットに生徒会長挨拶として葵様のお写真が掲載されていてな」
「ああ」
「そのお御影に、俺は胸を射抜かれた! 衝撃だった」
「そうか」
「運命だった」
「そうだな」
こっちはこっちで、新田原の偏愛ヒストリーが始まってる。まぁ大江戸もよく付き合うよ。けど聞いてるのかね、あの耳は。
メガネが反射して目が見えないけど。寝てるんじゃないのか?
「買ってきたぞ! 政治!」
「お帰りなさい、好きなお弁当……え、こんなに!?」
「ああ、お前らの分も買ってきた」
「違うわよ。私たちが選べなかったからって、ヨミさんが片っ端から買っちゃったのよ」
「宇加! 言うなよ! 言わなきゃ分かんないんだから」
「何個、買ってきたんですか?」
先輩が袋を覗きながら、ウキウキと答える。
「いかめし、釜めし、牛タン、かつサンド」
「ます寿司、かに寿司、これはシューマイだ。それと牛肉どまん中。どまん中って何がどまん中なのか興味が湧かないか! 政治」
「ちょっと待って、人数と会わないですよ。7人でしょう、うちら」
「うむ、だが、どまん中が気になってな」
おーまいがー! 先輩。嬉しさのあまり理性まで置いていかないで下さい。
「大丈夫だって、きっと食べちゃうって!! あとダルマの弁当も」
ヨミ先輩。あなたの大丈夫は絶対大丈夫じゃない! 大丈夫だった、試しがない!