2章-11
「政治、学園の件は調べるけど、部費問題も大事じゃない?」
「ああ、もちろんだ。それについては、どういう方針でいくか意見を聞かせて欲しい」
互いに顔を見回すメンバー。神門が口火を切った。
「25億円が動かせないなら、減らすしかないよね」
「25億円は変えたくない。学園の破産が本当だったら、ここは動かせないところだ。ミニマムに合わせた方がいい」
「正鵠だな」
先輩も同じ意見である。よかった。
「じゃ、どう減らすかだね」
「不満が出ぬ案などないと言ったのは、瑞穂本人だろう。持論を覆すのか!」
まだ気持ちを引きずってる新田原が、涙に滲んだ声で俺に詰め寄る。泣くのか俺を責めるのかどっちかにしてくれ。俺も表情に困る。
「ああ、だからどうせ不満が出るなら、全員から平等に不満が出る方がいいと思っている」
「なるほどね。全員が不味いご飯を食べていたら、どっちが不味いで喧嘩にはならないよね」
「まぁ、取りあいだと目の色が変わるのには、随分痛い目をみたからな」
「だが、等しく不平等とは何処が基準か分からぬのではないか?」
「そうなんだよ。妥当な金額が分かんねーから、不満の重さもわかんねーんだよ」
「うーん、じゃ他の部長に判断してもらったら? 部長同士なら、お互いの妥当さが分かるんじゃない?」
「どうやって?」
「入札みたいなものだよ」
そういうと、神門は立ち上がってさらさらと黒板に仕組みを書き始めた。図を描きながら説明も始める。しゃべりながら文字も書いてるんだけど、さりげにそういう事を出来るのがスゴイ。
「最初に対象の部長から、部費の希望金額を提示してもらうんだ。次に残りの部長達が、この部の部費は幾らが妥当か声を上げてもらう。その声を例えば10件とか20件とか集めて、最高額と最低額を切り捨てて平均金額を求めるんだ。それを全部の部活で行って、その金額比率で25億円を配分するんだよ」
一気呵成に言う。
「えっと、俺付いてきてないけど、有力部活同士が裏で手を組んだらダメじゃねーの」
「いや、裏で手を組んで額を釣り上げても、結局は25億円で均されるから、全部の部活が金額自体を釣り上げることに意味はないよ。自分達だけが得をするには、一部の部活で手を組んで値を釣り上げることになるけど、そういう不正が起きないように、僕たちは何件の意見を聞いたところで額を決めるか、どの部活から額を決めるかは絶対に外には漏らさないようにするんだ」
「なるほど。件数が分からなければ、手の組みようがないってことか。考えたな神門」
新田原が手を打って納得している。
「そういうこと。それに手を組む相手が増えるほど、取り分が減るから、ズルをしたい部活にとってはジレンマだよ」
……すげー事を、あっという間に考えるね~。呆然だよ。
「神門さ、おまえ人のこと信用してねーだろ」
「うん! してないよ!」
にぱっと周りが明るくなるくらい、会心の笑顔で答える神門。言ってる事と顔が合ってないから。
「やっぱ、俺、お前を敵に回さなくて良かったよ」
「敵にするつもりだったの? 政治」
「めっそうもない! 親友です!」
「うふ、ありがと」
そんな、かわいい笑顔で見つめられると、ドキッとしてしまいます。いかんいかん、顔、赤くなってないよな。
「まだ25億円問題が残っておるぞ。それはどうする」
そんなドキドキが止まらない俺を尻目に、先輩が淡々とした口調で問題をあぶり出す。さすが修羅場を超えた人は鋭い。課題を見逃さない。俺の赤らんだ素振りも見逃さない。
「それは、僕らの調査が終わらないと答えは出ないね。その意味ではさっき言ったやり方は、25億円の妥当性が決まってからの手段になるかな」
「けど、それじゃ期限に間に合わねーぞ。七月には執行する予算もあるんだし、止められないだろ」
「そうは言ってもエビデンスがないと、妥当だとは言いきれないよ」
「その分析ってのは、すぐに分からないのか?」
「これから大江戸を引き込もうとする話だ。無理に決まってるだろ。バカ者が」
バカはねーだろ。新田原。
「分かってる! 言っただけだっつーの!」
「私も、直ぐには資料を集められん、すまない政治」
「いえ、すみません先輩、言っただけですから、気にしないでください」
「瑞穂! 貴様、なにが仲間だ、俺だけ扱いが違うだろ!」
「はぁ、無礼だとのたまわったのはお前だろうが!」
俺達の掛け合いに興味を示さず、神門がうーんと頭を抱えている。俺は俺で新田原と掛け合いをしつつも、25億円分だけ一度通して、もし理事会がちょろまかしていると分かれば、それを人質に補正予算を組ませることができないかと考えていた。
「いったん、25億円で予算を組んで。証拠が上がったら補正予算を組むのはどうだ」
先輩が俺と同じ事を考えている。
「それは僕も考えたんけど、それじゃ部長達は納得しないでしょ。まず25億円で予算を組む理由がないもの」
神門も同じ事を考えていたか。ならこの筋は俺の責任で通すのが、この学園を守ると決めた俺のやるべき事なんじゃないだろうか。そして、理由なんか一つだ。