5章-17
生徒会の方は、方針が二転三転して、皆さんに大変ご迷惑をおかけしております。
まず、中等部との合同開催。
これは部活系だけとなった。クラス系は決定が遅れて合同開催はムリになったのだ。
本件につきまして、中高合同委員会で「私の不手際です」と謝罪すると、気の強そうな中等部副生徒会長の女の子に、「瑞穂先輩大丈夫ですか?」とツンと言われてしまった。
「いたたた……すみません」
僕、そっち系の趣味はないので、本気で冷たくされると心が痛いです。
部活系は場所さえ割り付ければ、あとの準備は向こうが勝手にやってくれる。中高合同だから対応してくれる人も沢山いて進めば話は早い。
と思ったら、内容のブラッシュアップが必要なので、コッチもコッチで停滞気味。
俺が拒否権を発動してるせいなのだが、「先輩が早く承認しないから準備が出来ません!」と、中等部の子達に睨まれ続けております。
「こっちも、ごめん」
あと差し迫っているのがプログラムの印刷とかチラシとか告知とか。こちらは桐花祭のテーマや出し物が決まらないと作れない。
ところが、そのテーマが決まってないのだ。
『そんなのアリか!』と思かもしれないが、すべて同時並行で進んでいるので、テーマが後から決まる場合も多いそうだ。
「こら、生徒会! テーマはどうしたんだよ」
「すみません!!!」
廊下で実行委員会にすれ違うたびに責められる。中等部の委員にすら、「まだですか、瑞穂先輩」と冷ややかに突き放される。
『お兄さんだって、頑張ってるんだよ!』
言いたい。言いたいけど言い訳になっちゃうから言えないっっっ!
決められないのは理由がある。なんとなく場当たり的に進めちゃったツケを払っているからだ。
中高合同開催である理由や、緊縮財政だけど皆が前向きになれるもの、かつ学園創設からのグランドテーマである、『学びの素晴らしさ』を髣髴させる言葉が誰も思いつかなかった。
それで『もうアカン』と思って、いよいよ先輩に泣きついてしまった。
「先輩、すみません。時間を取ってもらって」
生徒会室に呼び出すと、また色々とマズいので食堂に来てもらう。
「いや、構わんよ。政治が私を頼りにしてくれていることを嬉しく思う。本当にそう思っているのだ」
あれ? 今日の先輩はやけにしんみりだ。
「あの、テーマが決まってなくて」
「そのようだな」
「もう時間切れでヤバいんです」
「そうだろうな。かなり遅れているのではないか」
「面目ないです。アイデアが出なくて、先輩のお知恵を拝借に」
「そう改まらんでもよい。お前より年上ではあるが、役割はお前の方が重責を担っているのだ。敬意をもって接するのは良いが卑屈になってはいかんぞ」
先輩はいつもイイことを言う。経験に裏付けされたイイこと。
「はい、すみません」
「新田原や大江戸はどうした?」
「やつらにアイデアを期待するのは無駄でした」
「うむ、少々頭が固いところがあるからな。あやつらは。今日は連れてこなかったのか?」
「はい、別の仕事がありまして。新田原は仕事をほっぽって来そうでしたけど」
「あははは、あやつらしい。変わっておらんな。お前たちの生徒会は」
「はい、それにヨミ先輩が加わりました」
「意外だったぞ。あいつはそういうものに興味がないと思っていたからな」
「ええ、お姉さんとの確執で、ヨミ先輩がブチ切れて勢いで」
「そうか、益込は妹の事になると大人気ないところがあるからな」
「やっぱり」
「それに巻き込まれるのだ。何人もそういう輩がいたぞ」
「俺もです」
「それとは別に、私にはよく突っかかってくる。益込は二等サロン会長だから、私と話をする機会が多かったが、問題点を指摘する目が鋭く容赦がない」
「ああ、やっぱり」
「そんな姉から見ると、ヨミの生き方は何かと不満に映るのだろう」
「そうみたいです。俺もすごい剣幕で怒られましたから」
「怒られたのか!? 益込に!」
先輩は虚をつかれた顔を俺に差し向けた。余り見たことはないがきょとんとした顔もかわいい。
「はい」
「珍しいな」
「珍しい? 先輩はちょいちょいぶつかってたんでしょ」
「言葉で攻めてくるタイプなのだ。12年の間に何度か同じクラスになったが、怒りを表に出すところは一度も見たことがないぞ。そうか」
先輩はふむふむと親指の爪を顎に当てて頷くと、何を思ったのかその手を俺の頭にすっと乗せた。
「やはり政治は、面白いな」
くくくと笑って、俺の頭をぐりぐり撫でる。
「なにが面白いんですか」
「いやなに、政治といると何かと本性を引っ張り出される。私も弱い自分を見せられる。それは苦しくもあるが喜びでもある。お前との出会いを感謝せねばいかんな」
意味深長な事を言って、先輩は長い睫毛をふせた。
「それで何だった? テーマだったか!?」
「は、はい」
「どんな事を盛り込みたいのだ?」
「中高合同開催で、緊縮財政だけど皆の前向きになってもらいたくて、それで外から来る人にこの学校で学びたいと思って貰って、内部生と外部生の区別なく楽しんでもらいたいし、浮いてる二年生にもメッセージを届けたいし」
「一杯あるな」
「ええ」
「一番、政治が伝えたいのは何なのだ」
「一番ですか?」
「一番だ。三日間やって、最後にキャンプファイヤーみたいのもやるのだろう? そこで皆の心の中に、ああこうなってよかったなぁ、と最後に残るものだ」
「最後に残るもの……」
「政治の直感でよい。お前の直感は私は好きだ」
「そうですね。自分のやれること、今できる事を精一杯やって良かった……かな。手を抜いて後悔するような瞬間がゼロのような」
「いいじゃないか。それで」
「いま俺なんて言いましたっけ」
「今できることを精一杯、後悔なくだ」
「そんな簡単でいいんですか?」
「いいのだ。全てをそぎ落して、条件とか全部忘れて、最後に残る本心がテーマだ。りっぱなテーマだと思うよ」
「はい……」
「どうした? 不満そうだな」
「先輩が一言で解決しちゃったので、なんか今まで何だったのかと思って」
「わたしは解決などしておらんよ。聞いただけだ。お前がしてくれたように」
先輩はまた分からない事を言っている。だがなんとも慈愛に満ちた表情で俺を見るものだから、俺もすっかり愛おしい気分になってしまい、そんな仔細を聞くこともなく、座りなおして先輩の顔を見つめた。
「先輩はやっぱり凄いです。俺は足元にも及ばないや」
「政治、比べることに意味はないのだ。わたしはこの学園を守る事しかできなかった」
「それも大事です」
「そうだな。だがそれだけではダメだと、政治がわたしに教えてくれたじゃないか」
「はい、計らずも」
先輩が席を立つ。俺もつられて立つ。
「自信を持て」
先輩は俺の胸に握り拳をトントンと当て、心のドアをノックをした。
「ともに生徒会をすることはできん。だが、まだこうやって時折会う事は出来る。質問の一つをするくらい生徒会活動にはならんだろう?」
「ははは、そうですね」
「わたしは常にお前の中にいる。いや、居させてくれ。お前と共に活動した時間は短いが、私の想いは政治の中に伝わったと信じている」
「なんですか急に。最近見た映画のシーンですか?」
「ふふふ、そうだな」
「May the Force be with you!」
同時の出た言葉に、俺達は互いに指を指しあって一緒に笑った。
「あはははは、息が合うな、私たちは」
「まったくです」
「政治、時間はいいのか?」
時計を見ると16:35 やばい! 打ち合わせの時間が過ぎてる。
「やべ!」
「急げ、時はとまらんぞ」
「はい!!!」
そう会心の返事をして、俺は先輩が見送る食堂を後にした。
先輩が胸元で小さく手を振っている。
先輩はこんなしっとりした空気だったろうか。一言一言をじっくり味わうような余韻、さよならと振る細い指先が、さながらアルペジオを奏でるようで、先輩は柄にもなくそんな哀愁を漂わせていた。
もう一つ、生徒会として決めねばならないのが、ランキングである。
ノリと勢いで『ランキングをつけちゃおう』なんて言ったけど、いや全部、ノリと勢いで進んでる桐花祭なんですが、実はノーアイデアなんだよね。
体育祭のように、新田原や大江戸を頼りたいけど、今回ばかりは本当に手一杯のようで、新田原に至っては相談する前から怒りまくってて、声なんか掛けられない。
仕方ない、これは神門とヨミ先輩に相談するか。
ヨミ先輩は俺のお願いはいつも笑顔で快諾してくれる。「しょうがないな瑞穂ちゃんは」と子供扱いされたけど、まぁこういうノリの人なんで俺も「えへへ」と笑ってよろしく頭を下げた。だが渋ったのは神門だ。
「政治は、僕の事、暇だと思ってるでしょ!」
「そ、そんなことないよ」
「顔に書いてるもん」
「え、どこ。どこどこ」
「額の真ん中」
「キン肉マンじゃねーよ! じゃ逆に俺が神門の額に書いてやろうか、このマッキーで!『暇』と」
「いや、やめてよっ、来ないで」
「おらおら、あっ!」 と手を突いた書類の山で、それがズルりと滑り体勢を崩してしまった。
「やんっ!」
そのまま神門の上に倒れ込む。俺はあわや神門の足の間に四つん這いになってかろうじて体を支えた。
「わりぃわりぃ、危なかったな。あわやお前とセカンドキッスになるところだったぜ」
「こっちこそ、ごめんだよ」
「そりゃお互い様だろ。ていうか、してきたのはお前だろ」
「あれは事情が事情だからだよ。今でもあの噂が消えたか不安だよ。それに政治ったら体育祭でも僕の名前出しちゃうし」
「あれは、うっかりだ」
「うっかりね……。それより、いつまでも僕の上にいるつもり」
神門は女の子がするみたいに、胸の前に手を重ねて、少々怒った顔で俺を見てる。
「あ、うん。すまん。すま・・・」
と言って体を持ち上げようとすると、なんか背中からぐいぐい押されてるんですがっ!
「なに、なんだ?」
首を捻るとヨミ先輩が鼻息も荒く、俺を右手でぐいぐい押しているじゃないか。
「なにしてんですか、ヨミ先輩!」
「いっちゃお、ねぇいっちゃおうよっ」
「なにが? ちょっと」
「そのまま、ぐっと」
「はっ久々に来たBL神! 神門! 這って逃げろ、早く」
「う、うん」
四つん這いの隙間から、体を返してベトコンで這い出る神門をヨミ先輩が光る目で見ている。
「逃がさんっ」
「ひぃ~!」
・
・
・
「だから、ヨミちゃんは嫌なんだよ。はっきりいって僕にそんなことする人はヨミちゃんだけだよ」
「いや~、つい久々の名シーンに興奮しちゃって」
「その写真消しといてよ」
ちぇっと舌打ちをしてヨミ先輩が渋々とスマホをいじる。
「ヨミ先輩、欲求不満なんですか?」
「はぁ!? 乙女に向かっていま何って言った!?」
「いえ何も。空耳です」
「欲求不満な訳ねーだろ」
「聞こえてるじゃないですか」
「うっせ! そんな事にうつつをぬかしちょる場合じゃないって言ってんだよ。桐花祭まで時間ねーんだぞ。誰かがテーマを決めねーせいで広報は大幅に遅れてんだ。印刷屋止めてんだぞ。分かってんのか瑞穂」
「分かってますよ。だから決めたじゃないですか」
「葵先輩とだろ」
「なんで知ってるの!?」
「情報網が無くて新聞部長なんてやってられるかって。やるならもっと人気のない所で会えよ。おまえ浮気に向いてねーぞ」
「しませんよ。俺はこう見て一途なカニ座です」
「あら~、瑞穂くんったら乙女チック。って! 星座占いなんてどうでもいいんだよ」
「べつに、ちょっと相談しただけですって」
「知ってるよ。別にダメだって言ってねーだろ」
「はいはい、痴話げんかはいいから、早くやろうよ。僕も時間ないんだから」
「痴話じゃない!」
「でなんなの?」
神門は呆れ顔で椅子に座り直し、話を本筋に戻した。
「出し物のランキングの事。どうしようかと思って。やるにはやるんだけど、普通にアンケート用紙を配っても面白くないじゃん。もっとうまい手がないかと思って」
「あれって何でやるんだっけ? オレ忘れちった」
「ヨミ先輩! あなた本当に上級生ですか?」
「瑞穂、記憶に一年も二年も関係ないのだよ」
「テストいいじゃないですか。俺より」
「あれは勉強してるからだよ。大事なことだからね。キミ」
「じゃこの仕事は大事じゃないんですか」
「ああ、もう! 時間ないっていってるじゃない! いつまでじゃれてんのヨミちゃんも政治も! アンケートは来年の参考にするのと、収益金を伸ばすために競争原理を働かせるためにやるんだよ。株を発行してるから償還しなきゃいけないんだ。元本割れは必至でも、少しでも取り戻して、僕らの本気を父兄やお客さんに示すんだよ。思い出したっ!?」
「おー、そうだった」
「おーじゃないよ、広報大丈夫。ヨミちゃん一年の時はもとキレキレだったじゃない。腑抜けているよ最近」
「そんなことねーよ」
「こう見えても信用してるんだからね。理事会や生徒達とのコミュニケーションに失敗したら、僕らは生徒会どころか謹慎や退学だってありうる爆弾をしょってるんだよ。財務問題はまだ終わってないんだから。忘れないでよ」
「あ、ああ。すまん。そうだな」
「うん」
カリカリする神門に注意されて、ヨミ先輩はかなり不機嫌そうだったが、俺はちょっと目が覚めた。球技大会の成功やら夏休みボケからまだ頭が回復しなかったがようやく気が引き締まった気がする。
「で、アンケートの何が不満なの、言ってみてよ。短めに。一項目30秒くらいで。要点を絞って」
怒っていらっしゃる神門先生。
「はい先生。アンケート用紙だと、途中で捨てられちゃうし、ペンがないと書けないし、集めるのも手間だし、投函とかだと多分入れないし、集計も面倒だし、なにより俺だったら貰っても書かないからです。帰りに書こうと思っても何を見たか忘れてるしさ」
「分かった。じゃアンケートやめたら?」
「おい! それじゃ解決になってねーだろ」
「ちがうって、瑞穂。違う集計方法にしろって事だろ」
「はい、じゃ解決策。ちゃんとメモとりなよ」
「はやっ!」
「集計は、シールにする。桐花祭のときは生徒は全員お客さんの為に名札をつけるでしょ。だから『この出し物、いいな』と思ったお客さんには、その名札にシールをはってもらうんだ。そして最後にそのシールの合計を出して、名札と一緒に実行委員会に報告する」
「こんなの賞金も商品も出ないんだ。厳密に集計したって意味はないよ。水増しさえ行われなければいいんだから。パンフレットを入り口で配るときに、一緒にシールも手渡せばいいんだ」
「フリーアンサーは、各展示場に模造紙を張り出す。そこに展示名とイラストとか楽しげに書いてもらって、お客さんには隙間にコメントを書いてもらう。どうせ教室とか廊下には壁がいっぱいあるんだ。模造紙が一杯になっても追加すればいい」
「逆に苦情は書きにくい。パンフレットに二次元パーコードを印刷して、フリーの業者がやってるアンケートサイトに誘導して書かせる。もちろん匿名で。文句があったらそこに書かせればいい。それで溜飲は落ちるでしょ」
「シールを張ってくれたお客さんのインセンティブがいるから、たとえば学園にクイズのヒントをちりばめて、お客に解かせて、シールの台紙にある解答欄に答えを書いてもらって、一緒に本部に持って来てくれたら景品を貰えるようにするんだ。景品はなんでもいいよ。去年の文化系部活が作ったものが一杯あるでしょ。ガラクタでいいんだ。それが欲しくて来る訳じゃないんだから。ついでにクイズのヒントを探すがてらに学園をぐるぐる回るから誘導にもなる。どう。これで。使えそう」
「……ところどころ、乱暴な言葉と知らない言葉がありましたが、よーく分かりました」
「そう、それはよかった。お礼はいいよ。じゃ僕はこれからヒトに会わなきゃいけないからもう出るよ」
鞄をむんずと掴むと、神門はなんの後ろめたさも躊躇いもなく生徒会室から出て行いった。俺とヨミ先輩を残した生徒会室にぽっかりと穴が開く。
「ヨミ先輩、メモとれました?」
「ああ、一応」
「凄いですね。だてに第二新聞部部長じゃないや」
「お褒めにあずかり光栄です。しかし、一気だったなー」
「ええ」
「わかったか? 瑞穂」
「なんとなく全体は。ヨミ先輩は?」
「なんとなく全体は」
「あとは二人で考えましょう」
「そうだね」
「……」
「……」
「あいつ何物なんでしょうね」
「さぁ、オレもよく知らねーんだよ」
実は俺も友達なのに良く知らない。でも俺が悩んでることが一瞬だもんなショックだよ。
やっぱり俺ってダメ生徒会長なのかな。先輩は比べるなと言ってくれたけど、結局遅れの原因は俺が作ってるし、挽回の為に頑張ってるのは周りの皆だし。その皆の力を今だって借りてるし。
『はぁ~』
心のなかで盛大に頭を掻きむしってため息を深々ともらしていると、俺が鬱々としてたからだろう、「悩むなよ、瑞穂。神門はすげーけど、お前はそれを引き出してるんだからさ」とヨミ先輩が慰めてくれた。
「引き出してるんですかねぇ」
「そうだよ、仰木監督は、イチローみたいには打てねー。じゃ監督はダメなやつか?」
「いえ、役割が違いますから。仰木監督は名将だと思います」
「だろ」
「でも先輩、何でも出来る人だったみたいで」
「たしかに、オレも去年取材したけど、何でもやる人だったよ。どの行事もスケジュール通りに率先して進めて、落ち度もなくて、ウチラ、一年は結構荒れてる奴等がいたけど、早くに学校に来て校門の前に立って、話しかけたり取締したり。風紀委員より風紀だったから、そいつらと随分口論してたけど、口で負けた事なんかなくて」
「凄いですね。二年からの評判があまり良くないのは先輩から聞いてました。でもそんなに今、荒れてる感じはないんですけど。そいつらも随分更生したもんですね」
「更生? 違うって。辞めさせられたんだよ、村正叶多とか」
「へ?」
「葵先輩が動いて。辞めさせたんだ。どうやったか分からないけど」
辞めさせたって……そうか、あー、やっとつながった。
理事会が金に困って、金持ちの問題児も入学させて、そいつらが伝統を守りたい先輩と対立して、先輩はロックアウトまで決行して最後は問題児を強引に切ったんだ。
たぶん先輩は、創始家とは言え生徒身分じゃできないから、理事会を動かしたのだろう。
その一部始終を益込先輩は書き続けたんだ。先輩が村正さんを切ったという所まで。
財務の詮索もあって、先輩のことが目の上のコブだった理事会は、ちょうどいい機会到来ってことで、今度は先輩を切ったんだ。
初回の学級代表委員会で、卸矢さんが言おうとしたこと、三年の先輩が「幕内の事を良く知っている」と言ったのは、そういうことだ。
そんな事があったんだ、そりゃ先輩もロックアウトの所までしか言わないだろう。自分の後を引き継ぐのに俺の気持ちが熟す必要があったんだ。
でも、聞いちゃったなぁ。
本人から聞きたかった。教えてくれたヨミ先輩には悪いけど。
「話が逸れちゃったけど、だから瑞穂は、葵先輩にならなくていいんだよ。違うから選んだんだろ、お前のことを」
「そう思いたいです」
「そうだって!」
ヨミ先輩が俺の肩を、ぽんぽんと叩いて気遣ってくれる。その手が女の子にしては、ずしっと重いのは、ヨミ先輩がそれだけ俺に伝えたい思いがあるからだろう。
やさしい人だと思う。
心に色々な捩れを持ちながら、それでも俺の事を心配してくれる。みんなが思っているよりも繊細な人なのに。
そんなヨミ先輩をがっかりさせちゃいけないな。アンケート真剣に考えるか。