第一話・オープニング
ばり……ぼり……
人気の無い路地裏に、硬い物が無理やり噛み砕かれる音が響く。
音のする方には人影が二つ。そのうち一つはまったく動かず、その上にもう一つの影が覆いかぶさり蠢いている。そんな中、音が響くだけだった路地裏に不意に光が差し込まれる。
「そこで何をしている!……ひっ!?」
運悪く路地裏の巡回に来た警察官が手にした懐中電灯で人影を照らすと、そこには血まみれで倒れ内臓や骨がむき出しになった女性と、その女性の上に覆いかぶさったモノが居た。
ソレは確かに人の姿をしているのだが、全身毛むくじゃらで、異様に伸びた巨大な爪を警官に向け、犬歯を剥き出し唸っている。
「か、怪物っ、止まれ!撃つぞ!」
暗がりより姿を見せた怪物に動揺し、思わず携帯していた拳銃を抜き放ち銃口を向ける。だが怪物は気にする風も無くゆっくりと警官に向かって歩み寄ってくる。
「う……うぁぁぁーっ!」
パンッ!パンッ!
恐怖に駆られ、怪物に向かって発砲する。だが着弾したと思われる箇所には傷一つ付かず、怪物の歩みも止まらない。恐怖に震える彼には、心なしか怪物の口元が笑みの形に歪んだ気がした様に思えた。まるで『そんなオモチャは俺には通用しないぞ』と言わんばかりの笑みに。
「ひぃ……ひぁぁぁぁ!!!」
ついに恐怖が彼の感情を支配し、恥も外聞もかなぐり捨てて怪物に背を向け逃げ出す。その背を見て怪物の目がギラリと光る。
『グォォォォォッ!』
「……がぁぁぁっ!」
襲い掛かる怪物、なすすべ無く首筋に歯を立てられる警官。怪物の持つ大きな歯が首に刺されば常人にはひとたまりも無い。次の瞬間には彼は絶命していた。
怪物は抵抗しなくなった彼に更に歯を突き立て……
ばり……ぼり……
再び路地裏に嫌な音が響きだした。