猫が空を飛ぶには?
私は、高いところが好きだ。
木から降りられなくなっても、猛暑を全身に浴びても決して屋根から降りない。
理由はある。
私は――彼らに憧れた。
私にはない器官を持ち、あの青しかないあの場所を自由に駆け回る。
地上を駆けずり回ることなく自由に私を見下ろす彼らを見た時に感じた、あの虚無と憧憬を私は忘れない。
だから、地上には下りたくない。
私も彼らと同じように、人間も同族も見下ろしてやるのだ。
だって地上に私の居場所はない、同族も人間も私を邪魔者扱いする。
だって、私はよそ者だったから――親猫も飼い主もいないノラ猫だから人間達に邪険にされる。
でも、ここにいればそんな煩わしさはない。
ずっと、この青を眺めていこう。
そんな卑屈なことを考えながら今日も天蓋を見上げる、そこには相変わらずあの者たちがいる。
大きな者小さい者、速い者まで実に様々な者たちがいる。
猫にも個体差はあるが大体似たようなものだから、彼らは実に多種多様であると思う。
陽気がいいせいか、なんだか眠くなってきた。
瞼が、だんだんと落ちてくる。
このまま、微睡に身を委ねようかと思った。
だが、頭の上から聞こえてきた人間の声に下がった瞼が持ち上がった。
「ごきげんよう、我が眷属よ」
いつの間にか居たその人間は、朗らかに挨拶をしてきた。
普段ならば人間を見かけたら逃げるか威嚇するかの二択なのだが、今は体に力が入らない。
それに、私は見てしまったのだ。
この人間は、きっと爪弾きにされてきた。
この人間の眼差しからは、そんな感情が読み取れた。
「迎えに来たぞ」
彼は、そっと私に向かって手を伸ばす。
体に力の入らない私は、黙ってそれを受け入れる。
「人間の世は、お前にはさぞ生き辛かったであろう」
私を抱き上げてその人間は、優しく私を撫でる。
2回・3回と私の毛が彼の暖かい手によって、波を打った。
あぁ、私を優しく撫でてくれる人間がいるのだな。
それを知れただけでも、私の生に意味があったと思える。
「では、行こうか」
彼はそう言って、宙を舞った。
ゆっくりと、私のいた屋根から遠ざかったいく。
私は――空を飛んでいる、その事実に私は静かに歓喜する。
その時、ふと地上を見下ろした。
視線の先には、私がさっきまでいた屋根がある。
そこには私によく似た、瘦せ細った猫が満足げに眠っていた。




