白豚、鏡を見る
下働きに堕とされた元上級使用人たちと行われる、今晩の極秘会議に備えて自室で鏡を見ている俺。
う、う~ん……もしかしてもしかすると、俺ってば痩せればイケメンになれるのでは?
色合いは、さすが現ポンコツ伯爵の昔侯爵子息のザ・お貴族様って色ですが。
少し長めの前髪、後ろ髪は襟足にかかるぐらいの短髪で、金髪というよりも白金色。
その白金色のけぶるようなまつ毛に覆われた瞳は、高貴な紫色ときた。
もっちりとした美肌は透き通るように白く、ツヤツヤ唇はほんのりと赤い。
油モンの食いすぎでテラテラしてるわけじゃないと思いたい。
いや、顔の造作も整っているよね?
脂肪に埋もれがちな目はパッチリしているし、鼻も鼻筋が通っていてちょこんと愛らしい。
なんで、このスペックで痩せようと思わなかったのかな?
貴族だったら、外見にも拘ると思うんだけど。
さすさすとでっぷりとしたお腹を摩って、首を捻っているとコンコンと控え目なノックの音が聞こえる。
「はいはい」
さあ、この家の大掃除の準備だ!
意地悪コーディ一味に見つかるとうるさいので、今夜の会議はベンジャミンとディーン、ライラが参加する。
ちなみにこれから行う作戦はシャーロットちゃんには内緒だ。
俺は教えてあげたいけど、ライラが反対した。
「お嬢様に腹芸は無理でございます。下手をしたら嵌められるモニカに同情して企みがバレる可能性があります」
いやいや、シャーロットちゃん、人が好すぎない?
むしろ、ボコボコにやり返してオーホホホッと高笑いしても許される身の上なのに。
「それでは、ハーディング家から協力を得られたということで、具体的な掃討作戦を立てていきましょう」
シラッとした表情で怖いことを言うベンジャミンだが、その息子のディーンは隣で呑気に欠伸をしている。
「ディーン。お前、緊張感持てよ」
「いやいや、旦那様。無理ですよ。もう長時間勤務で眠いんです」
なんて奴だ! 俺がディーンの態度にブウッと頬を膨らませると奴は小声で「元から膨れてますよ」と笑った。
くそっ!
「ディーン。お前はとりあえず聞いているだけでいい。文句を言うな」
「はいはい」
……なんか、微妙な親子だなぁ。
俺はなんとなく二人から視線を外し、今日の朝に届いたハーディング家からの手紙を手に取る。
「……このレイフ・ハーディングて人が俺の親父さん?」
俺の実家がハーディング侯爵家なら、そこの当主は俺の父親だよね?
ベンジャミンとライラが目を一瞬合わせたあと、ベンジャミンが嫌味なぐらい長~いため息を吐いた。
「レイフ・ハーディング侯爵様は旦那様の兄上様です」
「兄上……ああ、兄ちゃんか!」
ポンッと拳で手のひらを叩くと、ベンジャミンの眉間のシワが深くなった。
「侯爵様、若しくは兄上と。平民ではないのですから」
「記憶にないんだから仕方ないだろう」
ツンと唇を突き出して言い訳するが、前世日本のサラリーマン、平民以外の何者でもない俺が「兄上」呼びは恥ずかしい。
「とにかく、このレイフさんがシャーロットちゃんの婚約破棄に協力してくれるんだから、この際にコーディたちも全員追い出してやろうぜ」
「わかっています。奥様とモニカ様、コーディたち使用人をこの屋敷から排除します」
メラメラとライラの眼に決意の炎が揺らめいているぜ。
「あと、今後の憂いを失くすためにも、俺の子供はシャーロットちゃんだけって証明したほうがいいと思う」
あのニセ乳ちゃんは下品ママと陰険執事との間の子供だと思うけど、ちゃんとハッキリさせとかないと後々困るでしょ。
「ハーディング家にお願いして、司教クラスの聖職者を直接オールポート家に招きましょう」
俺はポカンとした顔でベンジャミンを見つめた。
へ? なんで神父さまの偉い人がウチに来るの?
「本来、婚約とは両家でまとめて、その届を王宮へと送ります。王家が認めた婚約書を教会に送り司教クラスの者が認めれば、その婚約は成立します」
「うわ、めんどくさ」
なにその手順。現世日本のお役所もびっくりの書類の回し。しかも王家が認めた後に教会の承認が必要なの? 反対じゃない?
「祭事を司るのは教会ですから。王家の結婚だって認めるのは教会です」
「うわ~」
俺が少し引きぎみだったので、面白がったディーンが余計な情報を入れてくる。
「しかも、その国の教会のトップを決めるには王の承認が必要なんですよ」
「なんだよ、その相互関係。絶対に裏とか覗きたくない」
俺は両腕を摩って身震いをした。
絶対、王家と教会の癒着とか権力争いとか、裏はドロドロのグチャグチャだ。
「はあ~。真面目に聞いてください。とにかく、司教クラスの方であれば、両家のサイン入りの婚約解消届で即決できます。他に回している間に居座られては困りますからね」
「ああ、そうだね。司教さんで即時婚約解消できるなら、望むところだよね。その司教さんって……」
ちゃんとこちら側の気持ちを汲んでくれる人だよね?
俺の言いたいことがわかったのか、ベンジャミンがいい笑顔で頷いた。
「あ、あとさ絶対、後妻とコーディの奴、伯爵家の財産使いこんでいるだろう? それも罪に問えないかな?」
下品ママが身に着けてた宝石とか、あれ伯爵家の金だろう? シャーロットちゃんの財産じゃないか!
「ハーディング家に騎士の派遣も頼みましょう」
うむうむ。あ、あとあのボンクラも復縁とかできないように手を打っておきたい。
「それなら、俺にいい考えがあります」
ディーンの発言にベンジャミンが険しい顔をしていたけど、いいじゃないか、聞いてみようぜ。




