伯爵、就職希望者と面接
トビーとリタという人材を確保できた俺は、ニコニコ笑顔で店を出ようとした。
その鼻先……いや俺の場合は腹先か?
ドッドドドドッと馬に乗った騎士たちが、かなりのスピードで通り過ぎていく。
「うわっ!」
「大丈夫ですか?」
ぶつかりそう! と驚いて上半身を仰け反らせた俺の体を支えるベンジャミンだが、俺の巨体を支えるお前の腰が心配だよ。
頼むから、ぎっくり腰とかやめてくれ。
俺はベンジャミンに小さく礼を言うと、騎士たちが颯爽と去っていた方向を見た。
先頭にいた騎士がめちゃくちゃ男前だったのだ!
黒髪の短髪に鋭い目は金色に輝いて、高い鼻筋、薄い唇がキュッと引き締められた精悍な顔立ち。馬に乗っていてもわかるバランスの取れた体にキッチリとしたデザインの軍服が映えていた。風にたなびく黒いマントもかっこいい。
そう、かっこいい。
白豚である俺とは違う、ぐぎぎぎぎぎいぃぃぃっぃ。悔しい!
いや、この白豚様の過去を知ってしまったら、セシル君のことを悪くは思えない。だが、元凶であるセシル母とヤバい妻とその両親は既に鬼籍に入り、父と兄に責任を追及するのは憚られる。
なので、白豚は地味に真面目にダイエットするしかないのだ。
いつか、俺だってあの騎士みたいに凛々しい男になってみせる!
幼少期の俺が天使すぎるから、ちょっと中性的な美人になるかもしれないが、前の人生のときも童顔だったし、諦めはついているはず……。
全ては痩せてみないと、俺の顔のタイプはわからないもんな。
俺は「男前になる」との決意で右手を握りしめた。
「セシル様? 馬車直りましたよ?」
ディーンの声かけに生返事をして、背中にトビーたちの見送りを受ける。
「あの騎士たちはなんだ?」
「こんな道で女性用の馬車が立ち往生していると聞いて、見回りに来たみたいです。わざわざ騎士団の副団長が来られましたよ」
俺の問いにディーンが浮かれた声を出しやがる。こいつ、王都の騎士団の偉い人に会っちゃったムーブでも起こしてんのか? ミーハーな奴め。
「オールポート伯爵家でただの馬車の脱輪だとわかったら、修理も手伝ってもらえました」
「……そうか」
騎士という名前に相応しいサービスだな。しかも飲み屋街の治安の悪さもわかっていて迅速な対応を取ることもできる。
あの男前め~、仕事までできる奴なのかよっ、けっ。
「セシル様。人相がたいへん悪うございます。ささ、早く屋敷へ戻りましょう」
ベンジャミンに背中をグイグイと押され、俺は馬車に押し込められタウンハウスへと帰った。
翌日。
スッキリと朝、目を覚まし、昨日の男前騎士に誓ったとおりダイエット運動に勤しみ、朝食を親の仇のように嚙みまくっていたら、来客があった。
「ん? 昨日のトビーとリタか?」
二人のことはヴァスコに報告済だし、料理人やメイにも確認はとってあるから、朝から屋敷に来てもらってもいいけど。
モグモグ、ごっくんとしたあと、ベンジャミンの案内で応接室へと移動する。
このタウンハウスの応接室は三部屋あり、一番豪華な部屋は先日、兄上と談話した高位貴族向けの応接室。それよりちょい落ちる調度品で囲まれた同位貴族又は下位貴族用の応接室。最後に商人とかと商談する応接室で、クラークとかの役人ともここで話し合う。
俺が案内されたのは貴族以外の応接室だったので、トビーとリタだと確信していたが……誰? この人たち。
「こちらはハーディング侯爵様ご紹介の者です」
ヴァスコが兄からの紹介状を俺に手渡す。
ふむふむ。あー、この人たちは自分で店を開く人ではなく、宿屋で働くホテルマン志望の人たちね!
ある意味使用人の訳だが、とりあえずソファーに座ってもらう。俺が遠慮なく座るために。
「こちらの方はホテルの料理人を希望。こちらの方は外国語が得意で、こちらの方は……」
ヴァスコの紹介と、手元の紹介状の内容と照らし合わせていく。
兄上ったら、結構優秀な人たちを寄越してくれたみたい。感謝!
「あー、オールポート領への移住を決断してくれ、感謝する。それで、君たちの仕事なのだが……」
ここで俺はチラッとベンジャミンの顔色を窺う。
怒られたんだよねぇ、思いつきで喋りすぎだって。前の世界では当たり前のことでも、この世界では目新しく画期的なことも多い。
なのに、それを情報規制することもなく俺がベラベラ喋るから、ベンジャミンの胃が大変なことになってしまった。
これからは、思いついても一旦お口にチャックして、企画書を書きベンジャミンに提出したあと、クラークたちと計画を立てていくことに。
だから、この人たちにも俺のホテルの構想をぶちまけたいけど、できないんだよね。
「コホン。条件は決していいとは思わないが新しくいろいろと挑戦していきたいと思っている。そのため君たちの力をぜひ貸してほしい」
トビーたちに出した条件も呑んでもらわないとね。
「あと……春と秋の社交シーズンでは貴族の客が増えるが、その他は平民の利用が多いだろう。俺の考えている経営では、領民の利用も増やすつもりだ。つまり……客の身分などで態度を変えないでほしい」
俺の対面に座っている就職希望者五名が、きょとんとした顔をする。
「簡単にいうと、貴族だからといって必要以上に謙ったり、平民だからとぞんざいに扱ったりしないことだ。誰でも同じように接してほしい」
「……それは、提供する料理もですか? 扱う食材も?」
「当たり前。もちろん値段による違いは仕方ないが、同じ料理同じ金額なのに、平民相手だからとランクの落ちる食材を使ったり安物の食器を使ったりしない」
俺が頭を横に振ると、その料理人らしき若い男はニッコリと笑った。




