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転生したら悪役令嬢の白豚パパでした!?~うちの子は天使で元恋人は最強騎士です?オーラを見極め幸せを掴め!~  作者: 緒沢 利乃
社交シーズン春①

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伯爵、手招きする

新作菓子として提供されたのはプリンだけど……、瓶ごと? テイクアウト用でもないのに?


俺は改めて店内を観察した。

古くてガタがきているのは、壁紙の汚れや天井のヒビ、床の歪みからも歴然だ。


店主たちは、少しでも店内を飾ろうと努力しているのだろうが、テーブルクロスはペラペラの安物で飾ってある花は道端に咲いている花だ。

食器もカトラリーも統一性がなく、紅茶のカップはマグカップみたいに厚さがある。


プリンも美味いんだけど……、滑らかさもあるし卵の味も濃いけど……カラメルソースはない。

カフェなら生クリームで飾るとか、フルーツで彩りを増やすとか、見た目も重視したらいいのに。


そして、紅茶は上手い! 香りもいいし味もスッキリとした茶葉を選んでいるみたいだ。

ベンジャミン並みの技術がある、ということは貴族の上級使用人レベルの腕があると同意だよ。


だから……残念なんだよなぁ。

チラッとベンジャミンの前に置かれた皿を見ると、知らず知らずため息を吐いてしまう。

パンケーキも地味。膨らみは家で焼いたパンケーキと同じかやや薄い。飾りもなく、トロッとした蜜がかかっているがバターはない。


ううむ。俺は眉を寄せて、小皿に盛られた小さなクッキーを口にする。


「おっ!」


これも味がいい! チーズクッキーかな? 甘さは控え目でチーズの風味が濃いし、バターの味も感じる。

サクサクのホロホロで、これって酒のつまみにもいいかも。


ベンジャミンは紅茶も含めてどれもゆっくりと味わっている。


店主と女性の店員はこっそりと厨房からこちらを覗いているが、緊張のしすぎで倒れそうな顔色をしているぞ。

ふむ。ダメで元々。声をかけてみるか。


「おい、店主、ちょっと、こっちこい」


あ、ヤンキーの呼び出しみたいになっちゃった。

店主はガクガクと震えながら俺のテーブルまでやってきた。右手と右足が一緒に出ている。


「な、なんで、なんでしょうか!」


声、裏返っているぞ?

なんとなくベンジャミンへ視線を流せば、彼が真剣な顔で頷く姿が映る。


「店主……、どれも味はよかった」


初めての客からの賛辞に店主の膝からガクッと力が抜けた。


「……っ、あ、ありがぅ……ごじゃーましゅ」


泣くなよ……気持ちはわかるが。


「それでな、なんでここで店、出してんの? もっと女性が多い場所で店を出しなよ」


こんな裏道を通る女性なんて、たとえ昼間でもいないぞ?

俺の真っ当な指摘に店主は床に座り込んだまま、もじもじとしだす。

いや、若い男がもじもじしてても、俺的には心が刺さるほどのドッキュンは生まれないんだけど?


「あ、あの、私たち、望んでここで店を出したわけじゃないんですっ!」


奥から女性店員がびゅーんと飛び出してきました。




















つまり……騙されたわけじゃないけどわらしべ長者のように次から次へと移動して、辿り着いた先がここ、王都の裏道の貸店舗だったのね。


田舎の幼馴染カップルは自分の店を持ちたいと、生まれ育った辺境の村を出て町へと出て行った。

もちろん、村の行商人から町で開く店の仲介を受けて、自分で貯めた分と餞別の開業資金を携えて。


しかし、着いた先では、既に借主がいて店を借りることができなかった。


「騙されたと最初は思いましたが、僕たちの持っている紹介状を見て大家さんは自分が間違えていたと謝ってくれました」


手付として仲介の行商人に払ったお金も戻してくれ、別の町で借りられる店も探してくれたらしい。

では、と乗合馬車を乗り継ぎ知らない町へと着いた二人を待っていたのは、なぜか同じ状況で、それを繰り返すこと数回、気が付いたら王都にいた。


途中で引き返し故郷に戻ろうとも考えたが、手元のお金は少しずつ削られていて、戻ったらまた数年は店の開業資金を貯めるのに費やさないといけない。


決断できないままズルズルと身を任せ、最終的に借りられた店舗は、自分がやりたい店とはほど遠く……でもどうしようもない。


「僕たちもわかっていました。ここの通りは労働者が夜、お酒を飲みにくる場所なんです」


しょんぼりと肩を落とした店主の消えそうな声に、俺はそうだろうなと納得した。

昼間人通りが少なく、なんとなく薄暗い。石畳が崩れているところや壁の傷や落書き。汚いないし匂う。


言われなくてもここは、夜は賑わう飲み屋通り。俺もサラリーマンのころは上司の付き合いで通ったものだ。

あっちの世界では飲んだあとは夜パフェなどと甘いものを食べる人もいたが、この店の営業時間は朝から夕方まで。

……絶対に客は来ないし、どんなに美味い菓子を作っても流行らない……。


話を聞けば、ここで店を開かないと自分の店の夢は絶たれるし、そもそも故郷の村まで帰る路銀が尽きた。

開業資金もかなり目減りしてしまい、仕入れのお金を残した分でなんとか店の清掃と飾り付け、食器などを揃えたらしい。


「……でもでも、自分が考えたとおりのお店には、ほど遠いのです」


女性が目に涙を溜めて鼻声で訴える。


「あー、店の前のランプはかわいいよなぁ」


コロンとしたデザインで目を引いた。

俺の言葉に女性店員は、パアーッと顔を輝かし、店主と手を取り合って喜んでいる。

なんか……田舎育ちのピュアな二人を騙すつもりはないが、ちょっと心が落ち着かないぞ。


「コホン。ところで君たち、王都の店に未練がないなら、別の場所で想像どおりの店舗をやってみないか?」


いまなら、改装費はこちら持ちの開店資金半分贈与の半分は貸付、利子なしだぞ?


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