セシル、待ち人帰る
……ふよふよ。
ああ、またこの夢か……。
以前見たときは、俺の葬式だったんだよなぁ。
いま見ている夢は、見覚えがある生活感のないお洒落な部屋の天井近くに胡坐状態の俺が浮いている夢だ。
視線を下げると、黒い寝具に包まれて眉を顰めて眠る親友の姿。
……寝苦しいのか?
いや、前に自慢されたことがあった気がする。なんでも海外製のベッドで、寝具も最高級品だって。
とにかく寝心地が良くて、熟睡で疲労回復もバッチリ。
お前も試してみないかと、かなりしつこく誘われたことを思い出した。
あのときはなぁ……すごく興味があったけど同僚が急に入院することになって、代わりに出張に行きまくっていたから、親友の家に行ける日がなかった。
う~ん、死ぬまでに一回試してみたかった。
しかし、あんなに自慢していたのに、寝ている本人はものすごく苦しそうですが?
ふよふよと浮かびながら、あいつの顔近くまで降りてくる。
うっわー、至近距離で見ても男前。ムカつく。
そりゃ、女子社員も取引先の人も、みんながみんな狙うよなぁ。
でも、俺ってばこいつの彼女に会ったことないな。俺の彼女は毎回、ちゃんと紹介しているのに。
だから、あの勘違い女子の毒牙にかかりそうになったんだけどさ。
いや、すまん。変な女に会わせてすまん。
俺もその女のせいで死んだから許してくれ。なんつって。
俺が一人でクスクスと笑っているのに、奴の眉間のシワはますます深くなるばかり。
これじゃ、たいして眠れないし、疲労も溜まるだろう。
なんとなく、俺は指を奴の眉間に伸ばし、グニグニと揉んでやった。
いやだって、幽霊って物に触ることできないでしょ? だから、気分で手を伸ばしただけだったんだよ?
なのに、ふにっと感触があって、グニグニと柔らかい肌の質感が伝わってきて……。
「……っん」
ゆっくりとあいつの瞼が開いていって……俺と目が合った?
長い休みが明け、学園の生徒が続々と寮へ戻ってきた。
同室の者との久しぶりの再会に話は弾み、領地の名産を土産にと周りに配って歩く。
そんな賑わいに包まれた学生寮の中、一際背の高い学生が大股で廊下をズンズン進む。
ただひたすら、自分の部屋を目指して。
「うわーっ。ルーカスの奴、領地で魔獣討伐に加わって森の中で十日も過ごしていたって聞いたぜ?」
「ルーカスは辺境伯の次男だからな。兄を支えるべく鍛えられてんだろうよ。まだ学生なんて言い訳にもならないんだ」
自分の部屋の扉から頭だけ出していた生徒は、ルーカスという生徒の噂話で盛り上がる。
そんな話が耳には入っているけれど、構っていられないルーカス本人は、長い休みの間、ただ手紙だけで繋がっていた同室の者の元へと足を急がせる。
たぶん、彼は本当は自分に会いたくて会いたくてたまらないけれど、素直になれないから寮のエントランスで待つなんて行動はとれない。
きっと、部屋の中で紅茶を飲んでいるフリをして、ソワソワと俺の帰りを待ちわびているはず。
森での訓練があったため、結局手紙は二度しか出せなかった。
セシルはもっと送ってくれてもいいのに、やっぱり意地っ張りな君は俺が送ったら返事を書くというスタンスで。
「……ふっ」
きっと、森に籠っている間、書けなかった手紙を待ちわびて、セシルは機嫌を損ねているかもしれない。
でも、喜びそうな菓子をたっぷりと買ってきた。
甘いものが好きな君のために、わが領地、辺境伯領でしか採れない魔虫のハチミツ。そのハチミツをたっぷりと使った焼き菓子。
濃い味の果実も我が領の自慢だ。その果実を干して甘味をギュッと凝縮したドライフルーツもある。
プリプリ怒ったフリで、こちらを窺う視線をチラチラと投げてくるだろう、麗しい恋人。
君が喜ぶものはすべて手に入れてきた。
だから、どうか久しぶりに会う恋人に抱擁のご褒美を与えてくれ。
「セシル!」
バンッとノックもせずに寮の自室の扉を開ける。
ゆっくりとこちらを向くセシルの白金髪が午後の日差しにキラキラと光った。




