領主、企画を考える
視察から帰る馬車の中で、領都のメインストリートの商店街の問題をクラークと話し合うことにした。
ちょっと視察に時間をかけてしまったので、改めて話す時間が取れないクラークには馬車に同乗してもらいました。
俺以外も馬車に乗ると知った馬の悲壮な瞳が忘れられないぜ。
「しかし、あの西側の領地に工場が建ったらオールポート領だけでなく周りにも影響を与えそうですね」
クラークが上気した顔で興奮気味に話すが、良い影響もあれば悪い影響もあるぞ?
「同業他社との競争はえげつないだろうし、商人たちが行き来すれば活気は出るか治安も悪くなる」
産業を起こせば経済が活発になるし、働き手が増えれば人口が増え税金も増える。
だけど、問題は次々と起こるから、その対処をしっかりと準備しておかないと痛い目に遭うぞ?
「それは、まだいい。とりあえずラスキン博士に他の植物を探してもらうことと、あのカイコの繭から糸が撚れるかどうかだ」
実際に糸にして布を作って色を染めて売るとなったら、何年も先のことだろうしね。
その前に、オールポート伯爵家の騎士の編成と衛兵の育成。税金もちゃんと制度を決めてインフラを整えておかないと。
教育問題もあるし、子どもの預かり所も必要かな?
ああ、そうそう医療関係も把握しておきたいな……。
「セシル様。それはセシル様が王都からお戻りなられてから少しずつ着手しましょう。例のコーディたちよりも前から、領地運営はめちゃくちゃだったので、すぐにはどうにもできないですよ」
「そうだったな。今は春の社交に王都へ向かう下位貴族の対応だ。んで、俺はこういうことを考えたんだが」
俺はクラークたちと初めて会った日から書き溜めた、企画書チックなものを差し出す。
「これは?」
「俺なりに考えた案だ。まだまだ拙いとは思うが、どうだろう?」
イベントを考えるノリで企画してみたが、こっちの世界でウケるかどうかもわからんし、そもそも貴族たちって何が楽しいの?
陰険執事や下品ママたちとグルだった店は、王都で扱っている商品の質の悪い模倣品を高値で売りさばき、王都で大流行と謳って二束三文のお菓子を食わせ、見栄えだけ派手な調度品で誤魔化したサービスの悪いホテルに宿泊させていた。
つまり「王都で流行っている」という一点だけの押し売りだよな?
「……これは、役所の職員も総出で、町の者にも協力してもらえばなんとか実現可能かと」
プルプルと企画書を持つクラークの手が震えている。
「そうか! 実際は役所の職員であるお前たちに頼るしかないんだ……。俺自身王都へ行かなければならんし」
俺……いや元の白豚ちゃんがここ数年、下手したら十年以上、王都の社交には顔を出していないらしい。
亡くなった奥さんに社交を任せ、奥さんが亡くなってからは下品ママたちが王都へ繰り出していた。
ああ、下品ママたちが王城の招待を受けられるわけがないから、知り合いの下位貴族との茶会や夜会に参加していた程度だけど。
つまり、オールポート伯爵家は王族に対し、約三年の間、ご無沙汰状態なのです。
……ヤベェよな?
だから、春の社交には、当主である俺が、この白豚の体を引きずって、王家主催の夜会に参加するってわけだああああぁぁっ!
――あー、いまから、胃が痛い。
メインストリート沿いの空店舗を利用した屋台。
ホテルの食事はレストランを経営している町の料理人に出張をお願い。
ホテルの従業員は、オールポート伯爵家の使用人の指導を受けた町人を雇う。
メインストリートは夜、街路樹にも灯りを灯し、イルミネーションを楽しむ。この灯りは魔道具で対応し火事対策をする。
夜でも屋台は営業し、夜のお散歩が楽しめるように、そここに灯りを灯すこと。
屋台はお揃いのランプを支給してもいいかもしれない。
噴水広場には大道芸や吟遊詩人、歌手などのステージ。町人の飛び入り参加も大歓迎だ!
この芸人たちは、ハーディング侯爵に依頼して派遣してもらう。
ああ、孤児院の子たちの合唱とかもいいかもな。貴族って孤児院とかに寄付するモンだろう?
あとは、子どもたちにスタンプラリーもどきだ。
謎を解いて進んでいくミステリーツアー仕様で、キーポイントでスタンプを押してもらい、ゴールで記念品をもらうってやつ。
なんでも下位貴族たちはかなりの子沢山だと聞いた。
子爵なら二人、三人の子持ちだが、男爵になると四人、五人と子どもの数が多くなるとか。
だったら子どもは置いて王都へ行けばいいと思うが、ある程度大きくなった子どもは社交シーズンに王都へ連れて行き、就職活動をするらしい。
貴族の家の使用人や王宮の下働き、騎士……は無理でも衛兵見習いとか。
大きな商会や地方文官の助手とかね。
あちこちに出向き顔を繋いで職を頼む。万が一、婚相手が決まれば万々歳!
そんな世知辛い現実をひと時でも忘れて、楽しんでくれればいいなって思ったのさ。
もちろん、安全には万全の態勢を……ハーディング侯爵領の騎士たちに頼みます。
「あ、そのツアー。うちのシャーロットちゃんも参加で!」
あの子も童心に還って楽しんでほしいなー。




