領主、企画を思いつく
ここで俺のお勉強タイムとなる。
自分とこの領地もわからんが、隣り合う領地の状況も知らんがな。
隣は俺の実家のハーディング侯爵領だろうって目で見られても、記憶喪失な俺が知るわけがない。
あとでクラークとチャールズには、俺の記憶がないことを教えておこう。
やっぱり、味方には情報共有しておいたほうが、いざとなったときに正しい判断ができると思う。
まず、王都へ向かう地方貴族とやらは、社交の季節で王都で行われるパーティーとかに出席するための大移動らしい。
春と秋と二回行われる社交だが、秋は特に一年の収支報告の大役があるため、ほとんどの貴族は王都に滞在する。
遠い地方貴族や辺境伯は代理で済ませる場合もあるけど、大抵は一年に一回は王都へと向かうらしい。
今回は春の社交の季節に合わせて地方貴族がゾロゾロと王都へ向かうのだが、ここでルートが二つに分けられる。
オールポート伯爵領は王都から見て南に位置していて、この南側の領地を持つ貴族たちは、高位貴族ならハーディング侯爵領を通り、下位貴族はオールポート伯爵領を通る。
単純に、旅費にかけられる金額の違いで、通る道を変えている。
ハーディング侯爵領では、扱う商品も泊るホテルも超一流で、王都とほぼ変わらない。
こちらのオールポート伯爵領は、それよりはいくらか格が落ちる……けれども王都でお金を遣うため節約したい下位貴族たちには大人気。
しかもコーディたちがヤバい商売、つまり粗悪品とまではいかないが、王都で流行っている商品の偽物を派手に売りさばいていたり、宿屋も従業員のレベルはお粗末だし調度品も二流がいいとこだったが、「一流品です」との文句に目利きのできない貴族は騙されて、いい気分で宿泊できたという。
……下位貴族……騙されてんじゃんと笑ってはいけない。
この下位貴族が落としていく金額がバカにできない金額だったのだ。
それが、下手をしたら次回から、いいや今年の秋からゼロになる……由々しき問題じゃないか!
「そ……その、こちらの代わりに通る領地候補はどこになるのかな?」
そっちがうちよりも「おもてなし」が上手だったら、もう顧客は戻ってこないかもしれない!
「……いいえ。オールポート伯爵領を通らないことはないです。ただ……滞在するのが短期間、下手をすれば馬を休ませるための一日。他の店での買い物は一切なし。それでも王都前に他の貴族との交流や準備に費やしたいのなら、予算オーバーでもハーディング侯爵領を通るかもしれません」
「なんてこった! 実家が商売仇かよっ」
バシッとテーブルを叩いて悔しがる俺の姿に、ケイシーさんがビクッと体を慄かせる。
「ふーっ。ここではすぐ解決策が出んな。俺も屋敷の者たちと考えてみる。近いうちにまた話し合うことにしよう」
「では、次は私がお屋敷までお伺いしてもよろしいでしょうか? それと、セシル様が気にしていたハーディング侯爵領側の土地の視察にも同行したいのですが」
「うん? いいぞ。じゃあ視察は二、三日後を予定しているが?」
「では、三日後でお願いします」
「わかった。ああ、これからの連絡はクラークのお友達のディーンで構わない」
ふふふ、ディーンの名前を出したらクラークの奴、複雑な顔をしやがった。
俺は、役所での話が有意義だったことに満足すると同時に、難題を抱えて帰路に着くのだった。
「あ、シャーロットちゃんにお土産買いたいな!」
ちゃんと、僅かに開いていたお店でイチゴのフレーバーティーを買って帰りましたとも。
お土産はシャーロットちゃんに喜んでもらえたし、俺に対して厳しい態度のライラたちメイドからの評判もよかった。
やらかしたお父さんは、地道にポイントを稼がないとね!
夕食を終えて自室に戻り、フッ、ハッと息を荒くしながらのストレッチ中に、町の復興策を考える。
いや……春の社交シーズンってもうすぐらしいじゃん。無理でしょ? あらゆる店を招致するのって。
だから、話題になるような店の招致は俺が王都に行ったときにスカウトしてくるとして、他の方法で訪れる貴族たちを楽しませる方法なんだよなぁ。
「ふーっ。あれか? この世界での娯楽を考えるからわからんのか? 前の世界でのイベント感覚で考えればいいのか」
こっちの世界での流行とかわからんし、今から様々な商品を集めるのも難しい。
「お祭り感覚でいいかな? 出店とか。子供向けのイベントとか」
それだったら、前の世界のノウハウが活かせそう。宿屋も働く人がいないだけで他は揃っているしな……。
三日後までには構想をまとめておいて、クラークの意見を聞こう。
「こういうノリのいい話の相談役はベンジャミンよりもディーンだな」
ノーマンは四角四面の奴だから、絶対に賛同してくれないだろう。
明日からは、町のイベント企画を中心に、三日後に行く視察場所の勉強に励もう。
「オールポート伯爵領はほとんどが農地で農耕が盛ん。山は宝石が採れる鉱山が幾つかあり、真面目に領地運営すればお金に困ることはない領地。あとは、ハーディング侯爵領との境にある荒地の活用方法か……」
農作物に向かない土地なら、商業施設や工場などに活用できるんだが、ここには問題がまだある。
「不法に居つく者多し、か……」
いわゆるホームレス問題なのか? だとしたら住むところと仕事を与えなければならない。
「うう~ん。将来のオールポート伯爵領に関わる問題だし、三日後の視察にはクラークの他にシャーロットちゃんにも同行してもらおうかな」
白豚の俺でも往復できる移動だし、順調に体調を回復しているシャーロットちゃんなら大丈夫だろう。
そんなことをうつらうつら考えて、俺は夢の中へと落ちていった。




