白豚、夢を見る
怒涛の一日を終えて、未だ慣れない天蓋付きのベッドに体を横たえご就寝。
……そして、懐かしい夢を見た。
フワフワと浮いている。
パッと目が覚めた? いや意識がハッキリした俺は、フワフワと空に浮かんでいた。
不思議なことに俺はその状態を自然に受け入れていて、パニックになることも、はしゃぐこともなく、ただ空に漂っていたんだ。
「ここは……日本か?」
目覚めたら白豚の体でよく知らない世界だったのに、この夢の中は俺が生きていた世界のようだ。
高いビルもあるし、俺はスーツを着ているし、忙しなく人が動いている。
フワフワと人の波に付いていったり、公園でボーッとしたり、久しぶりの世界を満喫して、最後に辿り着いたのは……黒い服を着た人が集う場所だった。
あ、やっぱりな。
やや広い会場の祭壇には、見飽きた男の写真……俺だよ。
屈託のない顔で笑っているけど、お前はもう死んじゃったんだぞ?
喪主側には、厳しい顔をした父と泣いている母。その隣には化粧もしていない姉と鼻を啜っている妹。
なんだよ、姉ちゃんたち。どんなときもスッピンは見せないって言ってたじゃないか。
弔問客には友人や会社の同僚たち、上司もいるし、ああ……取引先の人まで来てくれているじゃないか。
申し訳ないな……。
しかし……なんで俺を階段から突き落とした元カノが棺に縋って大泣きしてんだよ。
警察は何してんだ?
ハッ! 事故として処理されたからこいつは無罪放免なのか……ちっ、しょうがねぇな。
だが、お前がわざとらしく泣いているのが気に食わん。
フヨフヨと元カノ……俺としては階段から落ちる前に別れ話が完了していると認識しているので元カノ扱いだが、そいつが詫びている言葉でも聞いてやろうと思ったのに。
思ったのに……え? お前、何いってんの?
な・ん・で、別れ話をしたのがお前で、別れるのが嫌でぐずったのが俺になってんだよっ。
はああああ? お前と俺の親友がお互いに思いあっている?
んな、わけあるかっ。あいつがお前と一緒にメシを食ったのは、お前が俺のことで相談があるとかベタな手を使ったからだろう?
だいたい、あいつはクールで寄ってくる女の子にも塩対応なのに、俺が絡むと誘いにひっかかる悪癖を直したほうがいいと思う。
そして、俺は自分の彼女や好きな人が姑息な手であいつに近づくと、途端に気持ちが冷める。
だから、お前にも愛情なんて残ってないし、元々別れるのが面倒で放置してたんだよ。
だって、こいつ……ちょっと地雷っぽいし。
泣きながら、俺がお前に執着していてストーカー紛いで、お前にフラれたからお前の見ている前で階段からダイブしたとか……作り話にもほどがあるだろうがあああああああっ!
さっきから、こいつの口を塞いでやろうと周りでジタバタしているが、さすが幽体の俺、スッカスカですよ。
喪主側に座っている家族が怒りに燃えてて、そろそろ飛びかかってくるぞ?
特に姉妹の引っ搔き攻撃には気をつけろ。
あー、誰でもいいから、この女の口を塞いでくれえええぇぇっ!
「そこまでだ!」
ババーンと登場したのは、俺の親友……と誰?
俺の元カノは警察の事情聴取に連れて行かれました。
親友と一緒に登場したのは、刑事さんたちでした。
どうやら会社の外階段で言い合いをしている俺たちの姿を見ていた人がいたらしく、親友はその目撃者を探し出し警察に連れていってくれたらしい。
俺が自殺するはずがないと信じてくれた家族と親友に胸が熱くなる。
しかも親友は、のうのうと嘘を吐き悲劇のヒロインぶっていた元カノを成敗すべく、地道に警察に訴え目撃者まで探しだしてきてくれた。
お前の厚い友情に俺は思い残すことなく昇天できそうだ……いや、その転生先が白豚なのは置いといて。
ざわざわと騒がしくなった式場の中、親友はゆっくりと俺の棺に近づき俺の死に顔を覗く。
い、いやだなぁ。肌は真っ白だし鼻に詰めモン入ってるし……そんなにジッと見るなよ。
フワフワと宙に浮いて、親友の眩しいご尊顔を拝見する……って、ずいぶんと痩せたな?
大丈夫か? 仕事が忙しいのか? ああ、俺のせいだな、すまん。
ちゃんとメシを食えよ。もう、俺はお前にメシを作ってやったり世話してやったりできないんただから、結婚でもしろ。
嫁をもらって子供を作って、家族を増やして……そうして幸せになってくれよ……。
親友が一筋流した涙が、俺の冷たい頬にポタリと落ちていった。




