白豚、結婚させる
なにやら、ニセ乳とぼんくら息子がいちゃイチャイチャしだしたぞ。
「モニカ、なんて健気なんだ。僕も君を守る立派な伯爵になってみせるよ」
いや、領民守れよ。
「私も王都の社交界に咲く大輪の花のように美しい妻として、ギデオン様を支えます」
美しさの前に賢さを磨きなさい。 君、ちゃんと勉強している?
「モニカ。僕たちの愛はみんなに認められた。祝福された。幸せになろう」
「ええ。私たちの愛は運命の愛、真実の愛だもの。誰にも引き裂くことなんてできないのよ」
ひしっと抱き合うバカ二人。うえーっ、こいつらの相手するの面倒だな。
リトルトン侯爵夫妻は自分の息子のぼんくら加減にようやく気が付いたのか、口をパッカーンと開けて呆然としている。
よし、ここで冷静になられる前に煙に巻いてしまえ。
「二人の婚約に否やはないが、また心変わりして破棄されるかと不安ではあるだろう」
俺が眉間にシワができるように思いっきり顔に力を入れて、重々しく言葉を発する。
脂肪に埋もれてシワなんてできないかもしれないが、俺が君たちのことを憂慮しているのが伝わるかね?
「オールポート伯爵! 僕たちに限って裏切りなんてありえません!」
いや、既にシャーロットちゃんを裏切ってんじゃねぇか。どの口が誠実を表すんだよ。
「お父様! 私たちなら大丈夫ですわ。どうか、二人の婚約を許して」
……俺、お前のお父様じゃないし。だから、ニセ乳は無視してぼんくら息子に話かける。
「……では、婚約ではなく婚姻を結べ、今ここで。大司教の前で、婚姻書にサインを」
「「え?」」
ぼんくら息子とニセ乳がポカンとした顔でこちらを見るので、あとの説明はディーンにおまかせだ。
俺の意を汲んで頷いたディーンは、感情の籠らない声で淡々と言葉を紡いでいく。
「この度はギデオン様とモニカ様、婚約ではなく婚姻とさせていただきます。こちらにリトルトン侯爵とギデオン様のサインを」
ディーンは再び書類を出しリトルトン侯爵へペンと共に渡す。
「え、えっと……」
戸惑うリトルトン侯爵へ、俺は低い声で脅してみる。
「なにか? リトルトン侯爵は娘シャーロットだけではなく、そこの少女に結婚の約束をして反故にする気なのか? 貴族子息があちらこちらに婚姻の餌をぶら下げて何を企んでいるのだ? 今回の件とともに正式に王宮に陳情してみようか?」
「……サインします」
うむ、借用書ではないんだから、とっととサインしろ。
リトルトン侯爵とぼんくら息子がサインしたら、ディーンはニセ乳を無視して俺のところへ戻ってくる。
俺も婚姻書にサインして、ちょいちょいと手でニセ乳を呼びだす。
ニセ乳はキョロキョロと左右を見て自分が呼ばれているとわかったらしく、バタバタと小走りで寄ってきた。
俺はここにサインしろと指で示しペンを渡してやる。
「名前だけでいい」
ボソッと周りに聞こえないように告げれば、ニセ乳は首を傾げながらも自分の名前だけを書き入れる。
そして、再びディーンが大司教の爺さんに渡して、爺さんの手からキラキラと光が零れて、若い男が木箱でどこぞに転移させたあと、リンリン。
「婚姻証明書です」
ディーンは俺に証明書を確認させたあと、当人の二人にそれぞれ渡す。
「こ……これでモニカと僕は結婚したことに」
感動に震えているぼんくら息子とは違い、母親は現実に意識が戻ってきたみたいだ。
「む、無効ですわーっ。ま、まだモニカ嬢は成人しておりません! ギデオンとは婚姻できませんわっ」
バッと勢いよく立ち上がりニセ乳を指差している侯爵夫人は、たぶん下品ママとニセ乳が嫌いなんだろうね。
「そ、そうですぞ。オールポート伯爵、さすがに成人していないと婚姻は……」
「わかっている。だから、二人の婚姻はそこの娘が成人してからだ」
俺はチラリとディーンに視線を投げてあとを任す。
「モニカ様の成人まであと三年。この婚姻は猶予されます。ですが、二人が教会にて認められた夫婦であることは事実です。既に証明書も発行されました。もし、心変わりがありこの婚姻を終えたいときは、三年後モニカ様の誕生日以降に離婚届を出し、それが認められてから新しい方との婚姻が認められます。この三年間はある意味婚約期間ではありますが、シャーロット様のときとは違い婚姻前に破棄したり解消したりすることはできないものです」
「なんと……」
リトルトン侯爵夫妻の顔色が悪くなってきたけど、爆弾はまだまだあるからもう少し頑張ってね。
さて、頭がお花畑の二人は両手を握り見つめ合っている。
「恥ずかしいわ。もう結婚してしまったなんて……ふふふ、旦那様。きゃっ」
「モニカ。かわいい君が独占できるなんて、僕はなんて幸せ者なんだろう。君が成人する三年が待ち遠しいよ。でももう二人は夫婦だから、誰かに取られる心配はないね」
「ふふふ」
「ははは」
バカか、お前ら。
「それでは、食堂にてささやかではありますがパーティーを開きましょうか?」
コーディがにっこりと下品ママに提案する。いや、お前さ、一応執事長でしょ? 今まで仕事してたか? 全部ディーンがやっていたよな?
「素晴らしいわ、コーディ! パーティーには上等なワインを用意してね!」
下品ママ、先に注文するのが酒って、ここは居酒屋かよ。
「待て。ここで伯爵家の後継をハッキリさせておきたい」
俺が右手を挙げて部屋の中にいる奴らの注目を集めると、ディーンがこそっと、しかし全員に聞こえるように囁いた。
「結果がでました」
さあ、ここからが大掃除だぞ!




