白豚、役者は揃った
ベンジャミンたちと夜の作戦会議を繰り返し、ハーディング家と交わす文も二桁になろうとする頃、その存在を忘れかけていた悪役執事のコーディが俺の執務室を訪ねてきた。
「……なんだ?」
重々しい声が出たのは、お昼ご飯後で睡魔が俺を襲ってきたからだ。
「失礼します。ギデオン様からお手紙でございます」
恭しく差し出された銀のトレイの上にほんのり水色の封筒が一通。
……ギデオンって誰だっけ?
俺がトレイから手紙を取ると既に封は開けられていて、澄まし顔のこいつが盗み見たことは明らかだった。
憮然とした顔で手紙を広げると、そこにはギデオンという謎の人物の汚い字で来訪の先触れが書かれていた。
「……リトルトン侯爵夫妻も共に」
ふむ……あ、ああ、ギデオンってあのボンクラ婚約者か。
「おい、用意をしておけ。あ、部屋はここね」
俺はコーディに手紙を突き返すと、会談場所は自分の執務室だと主張した。
「……ここですか?」
そうだよね、伯爵家だもん。調度品も高級な応接室がちゃんとあるに違いない。
しかし、会談場所はここなのだ!
ここなら、ペンも紙も印章もあるから、すぐに届とかの書類が用意できるしね。
「動きたくない」
俺が理由を呟くと、コーディは執事のくせに小さく舌打ちするとわざとらしく深く腰を折り、部屋から出て行った。
よしよし。とうとう、追い出し作戦が始まるな。
リトルトン侯爵夫妻には悪いが、あんな出来の悪い息子をシャーロットちゃんに押し付けたことを反省しろ。
その日の夜、ベンジャミンにリトルトン侯爵夫妻が来ることを告げ、ハーディング家へ最後の手紙を書き上げた。
ライラは婚約者の両親が訪ねてくるのに、シャーロットちゃんに相応しい装いを用意できないことを嘆いていたが、今はまだそのときではない。
我慢してくれ。
そして、とうとうシャーロットちゃんの婚約について両家の話し合いが始まる。
場所はオールポート伯爵当主の執務室。
俺は不動の場所、重厚な執務机の仰々しい椅子にドーンと座っている。
当主や婚約者本人がお出迎えもしないで、この部屋に通されたのはボンクラ婚約者のギデオンくんとその両親、リトルトン侯爵夫妻。
リトルトン侯爵家は俺の向かいのソファーに座らせてくれ。
キャッキャッウフフと軽い足取りでやってきたのは、今日も宝石ジャラジャラで化粧の濃い下品ママと一段と寄せたニセ乳ちゃんの親子。
君たちは俺の左手側のソファーに座りなさい。
ケバいメイドの二人もその後ろに控えて。君たち、そんな毒々しい色の爪で仕事できるの? スカート短くない?
で、なんでコーディは俺の後ろじゃなくて、下品ママの横に立つんだよっ。
ま、いいけど。
コンコンと遅れて部屋に入ってきたのは、地味な藍色のワンピースを着た俯きがちなシャーロットちゃん。
君は俺の右手側のソファーに座ってね。一人だけで座るのは心細いかもしれないけど、すぐに味方が来てくれるからね。
さて、前世営業サラリーマンとしては、下手とか上手とかが気になる配置ではあるが、異世界だからそこのところは無視しよう。
「では、始めましょうか」
「いや、待て」
コーディの猫撫で声にぞわっと鳥肌を立てながらも、俺は右手を軽く上げて奴の言葉を制止する。
「は?」
そのとぼけた顔をこっちに向けんな。笑っちゃうだろう。
「まだ、揃っていない」
俺が何を言っているのかとコーディか首を傾げていると、コンコンと扉がノックされた。
「入れ」
カチャリと開いた扉には、ディーンの姿が。その後ろには白い服をズルズルと引きずり金糸銀糸で細かく刺繍された布を首にかけ左右に垂らした、いわゆる聖職者っぽいおじいさんが入室してくる。
「あ、あなたは!」
ガタンと音を立てて立ち上がり驚いたのは、意外にもリトルトン侯爵だった。
ん? この爺さん有名な人なのか?
ディーンは司教だろう聖職者たちを案内し、そのまま室内に留まる。
俺の後ろにシラッとした顔で立ち、爺さんは俺の隣にいつの間にか用意してあった豪奢な椅子に腰かける。
その爺さんの後ろには真っ黒な襟の詰まった服を着た若い男が寄り添った。
よし、これで戦陣は整った。
「さあ、始めようか」
お前たち悪い奴を追い出す、胸がすくような喜劇をな!
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年内の更新はここまでです。
よいお年をお迎えください。




