【エピローグ】20歳のクリスマス
今日は君の20歳のクリスマス。
20歳だよ。
20歳の君とクリスマスを過ごせるなんて、夢にも思わなかった。
何度もこれは夢や幻なんじゃないかと自問してしまう。
「サンタさん、チョコチップはこれくらいかな?」
キッチンでクッキー作りの最中にまたぼーっとしてしまった。
隣には僕の背を追い越した大人になった君が生地にチョコチップを入れている。
「お母さんはもう少し入れてたから、あと少し追加しようか」
「…それって、俺が摘み食いしてた分?」
「ははっ、当たり」
「もう摘み食いしねーよ!!…だからこれくらいで大丈夫だな!よしっ!」
「ほんとにそうかな…?」
僕がアンドロイドとなって聖夜の家で過ごすようになってから、またクリスマスにクッキーを作るのが恒例になった。
今年はチョコチップ入りのクッキーだ。
こんな会話をしていたら、ちっちゃな手が下から伸びてきてチョコチップを一粒摘んでお口にパクッと運んで行った。
「「あ」」
聖夜と二人同時に下を見れば、そこには明日5歳になる男の子が。
金色の髪とペリドットの様に綺麗な黄緑色の瞳、真っ白な肌はお人形さんの様だ。
「クリス」
僕は手を拭いてから、男の子を抱き上げる。
この子は、去年お父さんが再婚した女性の連れ子だ。
女性はハーフで、クリスは北欧出身のおじいちゃんの遺伝子を色濃く引き継いだらしい。
見た目は外国人だが、口から出るのは基本日本語だ。
「サンさん、ぼくもクッキー作る!」
クリスは僕を“サンタさん”ではなく、“サンさん”と呼ぶ。
何故かは分からないが、可愛いからこのままで。
「いいよ。一緒に作ろうか」
「うん!!おっきいの作るの!!」
「まずは掌サイズからだろ?」
聖夜がクリスの為に踏み台を持ってきてくれた。
そこにクリスを下ろせば、クリスは大きなクッキー生地を全て使おうとする。
「おっきいの作るの!!」
が、小さな手ではクッキー生地を全部持てず断念……。
可愛い頬を二つ膨らませ、聖夜が言う様に掌サイズの小さくなったクッキー生地を丸める。
「むう……」
「ふふっ…可愛いな…」
小さい頃の聖夜と同じ事をするクリスが可愛くて微笑んでいたら、僕より身長が高くなった聖夜が背中に軽く乗っかってきた。
「……サンタさん俺は?」
おや?
大きくなった聖夜も口がへの字になってムスッとしている。
「嫉妬する聖夜も可愛いよ」
耳元で小さく囁き、頬に触れるだけの口付けをすれば聖夜は満足そうに満面の笑顔を浮かべた。
「サンさんーっ!チョコが無いよ!」
「ん?」
クリスの声に作業台へ視線を戻せば、小皿に用意していた分も袋に残っていた分も全部無くなっていた。
生地に混ぜていたチョコも少なくなっているような……
そしてクリスの口元や指先はチョコ色でところどころ汚れていた。
「…少し目を離した隙に、たくさん味見したんだねクリス…」
「うん!だって世界一美味しいチョコクッキーを作るんだ!」
「でもチョコが無いとチョコクッキーは作れないぞ?」
「えぇっ?!やだっ!チョコのクッキーは絶対作るの!!」
チョコを食べてしまった本人が駄々をこね、聖夜は眉間を押さえながら苦悩している。
きっと内心では可愛いクリスに色々とツッコんでいるだろう。
僕はそんな聖夜の姿にクスクス笑い
「君のお母さんも、君が同じ事をした時にそうやって眉間を押さえながら考え込んでいたよ。」
「え゛!?…昔の俺もチョコチップ全部食ったりした…?」
「うん、したよ。お母さんが電話している間に、1個ずつ美味しそうに食べていたよ」
可愛かったな。
1つだけ…
もう1つだけ…
これで最後…
あと一つ食べても大丈夫かな……
と、お母さんが電話を終えた時にはひとりで全部完食していた。
同じ様にチョコチップクッキーは作れないと言われて、泣いて、
それを見たお母さんは悩んだ末…
「チョコチップは無理だけど、これでチョコクッキーは作れるよ」
僕は棚から二人の大好きなココアの粉を取り出した。
それを見てパァァァと明るくなる二人の表情。
「あ!思い出した!そうだ、昔ココアを生地に混ぜて作ったりしたなー、懐かしい…」
「僕の大好きなココアだー!」
お母さんの知恵のお陰で、“3人で初めてのクリスマスクッキー作り”を乗り切ることが出来た。
今年は家族が増えたから、クッキーもクリスマスのディナーも、お父さんと聖夜、二人だけの時よりももっと増えて、いつもの何倍も賑やかだった。
クリスマスディナーを終え、家族みんながリビングで団欒する時間。
僕が家族の飲み物を準備していたら、足元にクリスがやってきた。
「サンさん!今日は特別な日だから、ココアはマシュマロ入れる?」
「勿論。今日は雪だるまの形をしたマシュマロを入れたよ。」
「わぁぁぁ!可愛い!!マーム!ダディー!見てみてーっ!」
マグカップを持ったクリスは、両親に見せようと自分で運んで行った。
走りたいのを我慢してゆっくりゆっくり…こぼさずに上手に2人の元まで辿り着いたのを見届ければ、僕は聖夜のお母さんにもコーヒーをお供えし、両親二人と聖夜にも温かい飲物を運ぶ。
「ありがとう。サンタさんも、こっち来て一緒に話そう」
クリスと同じ雪だるまのマシュマロが入ったホットココアを受け取った聖夜が自分の隣をぽんぽん叩く。
雪だるま以外に、サンタクロースのマシュマロも入っているのは僕の特別である聖夜にだけ。
みんなには内緒だ。
聖夜の隣に腰掛ければ、当たり前のように腰に手を回し密着してきた。
ソファーが小さいというのもあるが、きっと広いソファーでも君は密着してきただろう。
数年前は密着すると照れていたのに、今じゃ頬にキスしても喜ぶばかりで照れなくなってしまった。
成長を感じて嬉しいけれど、どこか悔しい気持ちにもなる。
「聖夜はほんとにサンタさんの事が大好きだよな」
お父さんは密着している僕たちを微笑ましく見つめながらそう言う。
隣に座っているお母さんも同じ様ににこにこと穏やかに微笑んでいて
「ほんとね。クリスの面倒もよくみてくれて、サンタさんはアンドロイドとは思えないわ」
「それは勿論、俺はすげーサンタさんを愛してるよ!サンタさんは俺の大切なダーリンだからな!うちに来る途中で親に挨拶されちゃったし…ね?」
そう言って聖夜は僕にウインクしてきた。
僕はそれにクスクス笑う。
「そうだったね。お父さん、息子さんを僕に下さいって…懐かしいな。」
僕達の会話を不思議そうに聞くお母さんとクリス。
「サンさんは、お兄ちゃんのだーりんなの?!」
「ははっ、そうなんだよー、聞いてくれ2人とも……」
あの懐かしい話をお父さんがお母さんとクリスに話した。
僕と聖夜にとっては冗談みたいに話した冗談ではないお話。
きっと聖夜が今言った“愛してる”もきっと……
「むすこさんを、僕にくだしゃい……」
お父さんから話を聞いたクリスは瞳をキラキラさせながら僕と聖夜の間によじ登ってきた。
僕の右太腿と聖夜の左太腿に座ってふんぞり返れば、僕達の手を両手で握り締め
「ダディー…じゃなくて、おとうしゃん!僕に、サンさんとお兄ちゃんをくだしゃい!!」
「?!……まさか君も言うのかいクリス?!」
「あーあ、父さんが変な事教えるから……」
「ダディー!最初はダメって言うんだよ!」
「えぇぇ……」
「ふふっ、予行練習はたっぷり出来そうね」
「予行練習って、うちは男子だけなのに!!みんな婿養子に行く気なのか?!父さん泣くぞ!!」
「ダディー!はやくー!」
どうやらクリスは“息子さんを僕に下さい”ゴッコがお気に召した様で、僕達の次は「お母さんを下さい」と言ってお父さんを困らせ、僕と聖夜はその様子をお腹を抱えながら笑って見ていた。
聖夜に向かって僕を下さいとクリスが言った時は、本気で嫌がる君を見られて面白かったな。
サンタクロースではなくなった僕だけど、今年も大切な僕の子と一緒に、幸せなクリスマスを過ごせている。
きっと、これからもずっと……
終
2025年のクリスマス、あなたにもクリスマスの奇跡が起きますように
「Merry Christmas」




