16歳のクリスマス
「サンタさん!!!サンタさんっ!!!」
僕の大好きな君。
君は本当に、プレゼントを運べないサンタクロースになっても、僕をキラキラした目で見てくれるかい?
クリスマスの魔法が解けても、僕を大好きでいてくれるかな…
side:聖夜
16歳のクリスマス。
去年とは違い、今年は例年通り家で過ごす。
今年もいつも通りミルクとクッキーを準備した。
去年、一緒に食べようとサンタさんと約束したジンジャーマンのクッキー。
それと、クリスマスツリーの下にはプレゼントが一つ。
一人でラッピングまでしたのは初めてだったから、包装紙は何度もやり直したせいでシワが出来てグチャグチャだし、リボンも少し斜めっている。
「サンタさん……喜んでくれるかな……」
今日の昼間は友人とカラオケでクリスマスパーティー。
夜は父さんとチキンやクラムチャウダー、イチゴと生クリームのケーキをテーブルいっぱいに並べてクリスマスのご馳走を食べた。
父さんは昔みたいに食えなくなったらしいけど、それに比例する様に俺が毎年食べる量が増えているから初めて二人でクリスマスした時から量は変わらない。
父さんが眠るまで自室で暇を潰し、イビキが聞こえてくれば、俺はそっと部屋から出てリビングへと向かう。
リビングの扉をそっと開ければ、サンタさんの姿が……
「あれ?」
いつも居るサンタさんの姿が無い。
今年は俺の方が早かったかな?
冷えたリビングの電気を付けて部屋を見渡すがやっぱり居ない。
暖房を付けて、一人ソファーへと座る。
足を抱え体育座りしながら、時計の音を聞く。
今年はサンタさんに自分からプレゼントを用意して、いつもと違う事をしているから、緊張していつもより早く来てしまった…?
足の指同士を絡めてモジモジしたり、ソファーの周りをウロウロしたり、クリスマスツリーのオーナメントを取って別の場所へ付け替えたりしても、まだ来ない。
棚のホコリを拭いたり、ホウキで床を掃除したり、キッチンで油汚れを掃除しても、まだ来ない…。
「ふぁぁぁ……」
3時まで起きていたが、疲れと暇で眠くなった俺はとうとうソファーで眠ってしまった。
「おいおい、こんなとこで寝てたのか?」
「んん゛っ…さんた、さん……?」
父さんの声に目を開けたら、窓から日差しが入ってきていた。
……もう朝?
「ははっ、サンタクロースの夢でも見てたのか聖夜?」
俺と話しながら父さんはキッチンに行き朝ごはんの準備をしてくれている。
「………」
いつもの朝だ。
ハッとして、慌ててダイニングテーブルを確認すれば、昨夜用意したミルクとジンジャーマンのクッキーはそのままだった。
初めて、サンタさんが来てくれなかった…
今までは、クリスマスの日に必ず会えたのに……
サァァァと血の気が引く。
「さ…さんた…さん…」
「ん?どうした聖夜ー?」
トーストした食パンと目玉焼きをテーブルに置きつつ、父さんが聞き返してくれたがそれに応える余裕は無かった。
“サンタさんが来なかった”
なんで?
どうして?
「今日は出かけるって言ってただろー?早く準備しないと、父さんひとりで行くからなー」
父さんの言葉が耳を通り過ぎていく。
代わりに、去年サンタさんがなつにいに言った言葉が頭に浮かんだ。
“君が会いたいサンタさんは毎年どんなに探しても、クリスマスの日に朝まで起きて待っても、もう二度と会えない。”
今年だけじゃなくて、これからずっと会えないかもしれ…な……
その考えが浮かんだ瞬間、ボロボロと大粒の涙が零れた。
「えぇぇ?!なんで泣いてんだ?!いやいや!嘘だから!置いていかないから!な?!」
突然泣き出した俺に慌てふためく父さん。
持っていた珈琲をテーブルに置き、箱からティッシュを数枚抜いて俺の涙を乱暴に拭うが、それでも俺の涙が止まらなくて、ティッシュはすぐびっしょりに…。
「ほんとにどうしたんだ聖夜…?」
高校生になる子がいきなり泣きだしたら心配にもなるだろう。
話したいが、どう話したらいいか分からず俺はただ泣くしか出来なかった。
父さんは深く追求してくる事はなく、俺の背を擦りながら「大丈夫、大丈夫だぞ」と分からないなりに慰めてくれた。
その言葉がさらに俺の涙を溢れさせていたなんて、父さんは気づいてないだろうな…。
涙が枯れる程泣いて少し落ち着けば、父さんが準備してくれた朝ごはんをもそもそと食べた。
促されるまま服を着替え、手を引かれるまま車に乗ってどこかへと連れていかれる。
高いビルを見上げ、綺麗なエントランスを通り、広いエレベーターで上へ。
案内された部屋の白い革張りのソファーへと座り、父親が白衣を着た人達と話している横で、俺は俯きながらサンタさんの事ばかり考えていた。
もしかして、うっかり“サンタさんは居ない”って言っただろうか?
考えてみたが、まったく思いあたる節は見つからない。
去年、サンタさんは最後に
「君には、クリスマスプレゼントを運ぶサンタクロースは必要ないのかもしれない」
と言っていた。
俺がプレゼントがいらないくら大きくなったから…サンタクロースが、自分はもう必要ないと判断して、自ら消えてしまったのだろうか…
俺が、大人になってしまったから…
そこまで考えて首を横に大きく振る。
いいや、俺はまだ高校生で未成年だ!
まだ大人じゃないっ…!!
「説明は以上になります。それではこちらへどうぞ」
何やら話が終わった大人達が、テーブルに広げていた書類を片付け立ち上がる。
「……聖夜はここで待っているか?」
いつまでも立ち上がらない俺に、父さんは優しくそう言ってくれた。
俺は軽く頷く。
よく分からないが、ついて行く気にはならない。
待っていていいなら、ここに居たい。
「分かった。すぐ戻るからな。」
父さんは俺の肩をポンッと叩き他の大人達と部屋から出ていく。
静かになった白い部屋をなんとなく、ぼーっと見渡していたら、窓際に小さなサンタクロースの人形が飾ってあるのが視界に入った。
掌に乗るくらいのちっちゃなサンタクロース。
俺は立ち上がればそのサンタクロースへと近づき、頭の部分を指先でつついてみた。
サンタクロースの人形は小さく揺れる。
「…………サンタさん……」
小さく呟いたつもりだったが、静かな部屋に響いて思ったより大きく聞こえた。
「サンタさん…っ……」
初めて“サンタクロース”って言った時の記憶は無い。
でも、サンタさんは自分のサンタクロースが消えたなつにいに
“何度も呼べばもしかしたら…”
って言ってたから…
藁にも縋る思いで、サンタさんを呼ぶ。
「サンタさん!!!サンタさんっ!!!」
何度も…
何度も……
名前を呼ぶ度に胸と喉がギュッて締め付けられて、苦しい。
「サン…っ…ぅ……」
苦しいけれど、止められない。
涙をこらえる為ギュッと瞼をきつく閉じた時、遠くから足音や話し声がし音が大きくなったと思ったら部屋の扉が開いた。
大人達が戻ってきたようだ。
俺は泣きそうな顔を見られまいと扉に背を向けたまま振り返らなかった。
「聖夜ただいまっ!!
ほら、見てくれ、今年のクリスマスプレゼントだ!!
ずっと応募していた物が、ついに今年当たったんだよ!!メリークリスマス聖夜!!」
興奮している父さんの言葉が、傷口を抉る。
「くりす、ます…ぷれぜんと」
呆然と、父親の言葉を復唱する。
あれは…何歳の時だったっけ……
そうだ、なつにいのサンタさんが居なくなった年だった。
“なつくんのサンタさんは、去年まで確かに居たはずだよ”
“去年?じゃあ今年は?”
“今年からは、聖夜の言う通りお父さんとお母さんがサンタさんの代わりになるだろうね。”
そんな会話をした事を思い出した。
サンタさんは消える前に、父さんに次のプレゼントを渡す役を引き渡したのか……?
「…っ……いらないっ…」
「え?」
「サンタさんからのクリスマスプレゼントじゃなきゃ、いらないっ!!!」
せっかく父さんが用意してくれたのに…
こんな事言ったら悲しませるって分かっているのに…
受け取ってしまったら、“サンタさんは居ない”と認めてしまう様で怖かった、周りを気遣う余裕が無かった。
傷ついた父さんの顔を見られなくて、飾ってあったサンタクロースの人形を両手で握り締めたまま肩を震わせて居たら、足音が俺に近づいてきて、背後で止まった。
父さんだと思った俺は、さらに強く瞼を閉じる。
「こんにちは聖夜。僕は生活サポートアンドロイドで、16歳の君へのクリスマスプレゼント。12月25日の今日、君に会えるのをとてもとても楽しみにしていたんだよ。」
「え………」
背後から聞こえた声は父さんでは無かった。
ビックリして振り返れば、そこには自分より少し背の高い男性が。
雪の様に真っ白なショートヘアーはウェーブしていてギリギリ結べる長さ、それは後ろに赤いリボンで一つ結びにされている。
金色の瞳は優しく俺を見つめ、微笑んでいた。
いつもはサンタクロースの衣装なのに、今日は赤いニットと黒いズボン。
いつもと違う雰囲気と装いだが、そこに居るのは間違いなく
「さんた、さん……?」
自信なく、確認するように恐る恐る名前を呼べば、目の前の男性は瞳を細め、微笑みを深くし
「Merry Christmas 聖夜!」
そう言って俺にハグしてきた。
そして後ろの大人達には聞こえないよう耳元に唇を寄せヒソヒソ話し
「去年、君が願った事をクリスマスの奇跡が叶えてくれたんだ。
代わりに僕はサンタクロースでは無くなってしまった。…サンタでは無くなった僕からのプレゼント(僕)は受け取って貰えないかな?」
受け取らない?それに頷けば、ほんとに失ってしまう気がした。
受け取る意志を示す為、慌ててどこにも行かないように、サンタさんの服を強く握り締める。
「…………っ…ほんとに、サンタさん…?…俺のサンタさんなんだよな…?」
「そうだよ。サンタクロースでは無くなった、君のサンタだよ。」
「〜〜〜っ…いきなり現れなくなったから、すげー怖かったんだぞ…っ!!…もう、会えないかと…思ったじゃんか…」
安心したらムカついてきて、サンタさんの赤いニットを掴んだまま軽く胴体にパンチする。
「うん、不安にさせてごめんね。この身体に生まれ変わってたから、昨夜は行けなかったんだ。」
サンタさんは俺の背をぽんぽんと撫でながら、申し訳なさそうに言うから…
「〜〜〜っ……」
言いたい事や文句は沢山あるのに、言葉に出来ない。
「…サンタじゃなくても、君のそばに居ていい?」
俺は何も言わずに頷く。
「クリスマスプレゼントも、用意できないかもしれないよ?」
また俺は頷く。
「クリスマスの奇跡も起きないかも」
「……別に、プレゼントや奇跡があるからサンタさんに会いたかったわけじゃない……」
「そうだと嬉しいな」
「そうだから、喜んでいーよ……」
目が合えば、いつもみたいにサンタさんがまっすぐ俺を見るから俺は視線を逸らした。
零れそうだった涙を裾でゴシゴシ擦ればサンタさんとのハグを止め、代わりに手を握って父さんの方へ引っ張り
「父さん、さっきはごめん!やっぱいる!」
「お?おぉ?……よく分からないが、何か吹っ切れたみたいだな。」
「んっ!問題解決したから、もう大丈夫!心配かけてごめんな父さん。」
困惑していたが、父さんは何も聞かない。
俺だったら根掘り葉掘り聞いてしまいそうなのに…
これが“父親”や“大人”ってやつなのだろうか。
「いいよ。お前が元気になったなら良かった。」
「ん……ありがとう……」
父さんは俺には内緒でずっと生活サポートアンドロイドのモニター応募していたらしい。
という話らしいが、正直どこまでホントなんだろうか……。
これは魔法なのか、クリスマスの奇跡なのか、サンタさんに聞いてみたが、微笑むだけで答えてはくれなかった。
「ところで聖夜、そのアンドロイドをずっと“サンタさん”って呼んでるけど…まさそれが名前じゃないだろうな?」
帰りの車内。
運転しながら後部座席に座る俺とサンタさんをミラー越しに見る父さんが聞いてきた。
「え?そうだけど」
「えぇー……もっと他の名前にしないか?」
「ヤダ」
「やだって、当てたのは父さんだぞ?」
「でもクリスマスプレゼントで俺が貰ったんだから俺のだ。もう絶対返さないからな!!」
サンタさんの腕に腕をからませ、しっかりホールドし取られまいとする。
サンタさんはそんな俺をニコニコ微笑みながら頭をヨシヨシ撫で
「僕も“サンタさん”と呼ばれたいです、お父さん」
「お父さん?!まあ、君がいいならいいが……なんだか婿養子を迎えた気分だ……」
その父さんの一言にサンタさんが反応し、楽しげに冗談を言った。
「お義父さん、息子さんを僕に下さい」
「!?……おまえみたいな奴に息子はやらん!」
サンタさんの言葉に父さんは最初驚いたが、冗談だと分かればお決まりの文句を口にし
「そんな……」
「父さん俺達は本気なんだ!!」
俺も2人の会話にのっかり、3人でワイワイ会話を楽しんだ。
楽しい時間はあっという間で、すぐに家に着いてしまった。
車から父さんが先に降りる。
俺も降りようとしたらサンタさんが俺の背後に近づき後ろからヒソッと俺に囁いた。
「お父さんは冗談だと思ったみたいだけど、聖夜までそう思ってないよね?」
「へ?」
(冗談じゃないのか?)
振り返ればニコッと微笑むサンタさん。
……“息子さんを下さい”というのは、冗談じゃなかったらしい。
俺は顔が熱くなるのを感じた。
16歳のクリスマス。
俺のサンタさんはサンタクロースじゃなくなった。
サンタさんは今日から俺の…




