15歳のクリスマス 前編
注)少量流血表現有
君が15歳のクリスマス。
今年は祖母の家で親戚一同集まってクリスマスを楽み、お泊まりをしていた。
君は場所が変わっても、クッキーとミルクをリビングに置いてくれるんだね。
大人達は微笑ましく見つめ、
歳上のお兄さんお姉さんにはからかわれ、
君より歳下の子達は自分もやるーっ!と君の真似をしていたが、まだ幼い二人くらいは我慢できずにクッキーとミルクを自分で食べてしまった。
小さい頃の君と同じことをしているのが、微笑ましかったよ。
今年も皆が寝静まった頃に僕はリビングに姿を現す。
テーブルには三つずつミルクとクッキーが乗ったお皿があった。
僕はその中から迷わず一つの皿を手に取る。
もちろん、君が僕に用意してくれた物だ。
「ふふっ、今年はジンジャーマンや雪だるまだ。」
いつもとは違い可愛いクッキーに笑みが零れる。
さっそくジンジャーマンを一枚食べてみる。
そういえば、これはクリスマスの定番だけど、生姜のクッキーは初めて食べた。
結構美味しい。
味わって食べていたら、バタバタと廊下を走る音と声が複数。
一つは聖夜のものだが、もう一つは誰だろう…?
バタンッと扉が勢い良く開き、現れたのは聖夜と何処と無く顔のパーツが似た大人の男性が居た。
彼は俺と目が合えば、目に涙を溜め
「ほんとに…いた…サンタクロース…本当に…いたんだ…」
僕は咥えていたクッキーに歯を立てサクッと食べる。
(…サンタクロースが見える大人なんて珍しい。)
サンタクロースが見えるかどうかは信じる度合いだと僕は考えている。
小さな子供にはサンタクロースの姿が見えるが、大きくなるにつれ他人のサンタクロースは見えなくなり、やがて自分のサンタクロースと別れるのだけれど…。
何故かこの男は見えているらしい。
この男はまだサンタクロースを信じているのか、という可能性はありえない。
何故なら彼は…
「なつにい!!いきなり押し退けて何すんだよ!!」
そう、彼は“なつにい”だ。
聖夜が8歳の時に、サンタクロースなんかいないと言って、聖夜と喧嘩した親戚のお兄さんだ。
「…サンタ…なあ、なんで俺のとこに来てくれなくなったんだよ…っ…俺、中学生の時…会いに来てくれなかったクリスマスの日に…伝えたい事あったのに…!…」
聖夜の言葉を無視して、ふらふらしながら俺に近づいてきたなつにいは強い力で腕を掴み揺さぶってきた。
腕を掴む力が強くて眉間にシワが寄る。
せっかく持っていたお皿も床に落ちてしまった。
幸いお皿は割れずに済んだが、落ちたクッキーは割れてしまった。
せっかく聖夜が僕の為に準備してくれたのに…少し悲しい…。
悲しみに浸りつつ、揺さぶってくる大人を無視する事は出来ず
「Merry Christmas…なつきくん…痛いから離してくれると嬉しいな…」
苦笑しながら告げれば、なつきくんの唇が弧を描く。
が、腕の力は弱まるどころか更に強くなり
「……っ」
「あぁ…やっぱりサンタだ…小さい頃、俺のとこに毎年来てくれていたサンタだ…!
俺が大きくなったから、子供だった聖夜のとこに行ってたのか…?」
青年である僕は高校生くらいの身長と力で、なつにいは20歳の大人。
あまり変わなそうで、少しばかりなつにいの方が身長も高く、力も強い。
だから振りほどけないし、唇同士が当たりそうな程間近で、見開いた目で見られるのは狂気を感じる。
「おいっ!なつにい!いい加減にしろよっ、その人はなつにいのサンタじゃなくて、俺のサンタさんだ!」
なつにいの腕を掴み、間に割り込み僕を助けようとする聖夜。
“俺のサンタさん”と言われた瞬間、僕は嬉しくて掴まれている痛みを忘れそうになった。
けれど、なつにいはその瞬間、聖夜が掴んだ自分の腕を横に大きく振って、聖夜を振り払った。
ぐらついた身体がテーブルに当たり、上に置いてあったグラスが床に落下して割れる。
「聖夜…!」
その近くに尻もちを着いた君を見て、真っ青になった僕はすぐに側へ駆け寄ろうとしたが、なつにいに片腕を掴まれている為、叶わず…
「……っ…離して。僕は君のサンタクロースじゃないよ。」
「……どうして、そんな意地悪言うんだよ…。俺が、“サンタなんか居ない”って酷い事言ったから…?ごめん…謝るから…俺のとこに戻ってきてくれ…サンタさん…」
泣きそうな声と表情。
離さないといわんばかりに強くなる掴む力。
「…っ…サンタ、さん…」
聖夜の僕を呼ぶ声がした。
床に尻もちを着いていた君はテーブルを支えにすぐに立ち上がる。
手にミルクがかかったみたいだが、グラスの破片で怪我した様子は無くてひとまずほっと胸を撫で下ろした。
と、同時になつにいに対しての怒りがふつふつと湧き上がり、溢れて止まらず…
「なあ、サンタさ…「いい歳こいた大人がいい加減にしなさい。」」
初めて発する地の底を這うような低い声。
僕の言葉になつにいはビクッと身体が震え、後退りするが、逃げる事は許さない。
僕の腕を離そうとしていたなつにいの腕を逆に掴み返し、金から怒りの赤に染まった瞳で静かに睨みつける。
指の爪が鋭く伸びてなつにいの腕に食い込むのも構わず掴む手に力を込めていき
「許さない。君が何度君のサンタクロースに謝っても僕には関係が無いし、僕は聖夜に乱暴した君の元には絶対に行かない。」
「いたっ…サンタ……いた、い…っ…はなせっ…!!」
聖夜を振り払ったこの腕をこのままちぎってしまいたい…
僕達は君達に優しいよ。
でも、なつにいは僕達が大好きな“君達”にもう含まれない。
サンタクロースが居なくなって、大人になって、僕達が大好きな子に乱暴するなら…敵だ。
「僕は聖夜のサンタクロースだ。
君のサンタクロースは中学生の時に“サンタなんかいない”って、君が存在を否定したから居なくなったんだろう?」
僕は更に爪が皮膚に食い込もうが躊躇いなく、力を入れ続け
「う゛あぁぁあぁぁぁッ!!」
掴む力が強くなる程、痛みと苦痛に歪むなつにいの顔。
さっきまで僕が離してと言っても離さなかったクセに、今は必死に僕から離れようと必死だね、面白い。
「中学生だった君は、大人ぶって、大人っぽい自分に酔いしれて、一体何人の友達と言った?
その一言がサンタクロースとの別れの挨拶になると知らずに、何人の子供の夢を壊して、何人のサンタクロースを消した?」
保育士さんは子供にサンタクロースの存在を教えてくれる。
絵本作家さん達がサンタクロースを描いて子供に夢を与えてくれる。
サンタクロースのコスプレをしてイベントに出て幸せを与えてくれる。
そんな大人も居れば、君達みたいに悪意なく夢を壊しサンタクロースを否定する子供達が居る。
聖夜がもしも、8歳の時になつにいの言葉を信じていたら、僕はその時聖夜とサヨナラしていただろう…
“知らなかった”
“そんなつもり無かった”
そうだね、しょうがないよ、君達は子供だから。
僕達は、大人になろうと背伸びする君達が愛しいから、サヨナラが悲しくても恨まずに静かに消えるけれど…
「君が何しようと気にしないけれど、聖夜を傷つけようとしたのは許せない。」
「わ、わるかっ…た…から、…離して、くれ…っ…」
なつにいの腕から僕の指へ伝ってきた赤い血が、袖に付いている白いファーを赤く染める。
必死に僕の指を離そうとする君を冷たく睨みつけながら、ゆっくりと指を離した。
なつにいは、僕が掴んでいた場所をもう片方の手で抑えながら僕から距離を取ろうと後ろに後退しているが、その分僕も近づく。
鼻先が触れそうなくらい顔を近づければ鋭い眼光で睨みつけ
「…もし運が悪ければ、聖夜はテーブルの角に急所をぶつけていたかもしれない。グラスの破片で皮膚を切っていたかもしれない…。大事な聖夜にもしもの事があったらと考えるだけで…っ…こんなに胸が張り裂けそうなのに、目の前でやられて正気でいろという方が無理な話だ。許せるわけないだろ…君が二度と聖夜に乱暴出来ないように、僕が君を切ってやろうか…」
「ヒッ…っ!!」
鋭く尖った爪でなつにいの首を裂こうと手を伸ばした瞬間、
「サンタさんっ!!」
後ろから大きな声で呼ばれ、腹部に腕が回ったかと思えば背後から抱きつかれた。
「聖夜…」
振り返れば、目に涙を溜めて僕にしがみつく聖夜が。
僕にしがみついたまま後ろに下がり、なつにいから僕を引き剥がそうとしているから、君の望み通り下がって彼から距離を取る。
君の方へ身体ごと向きながら血に濡れた鋭い爪は背に隠す。
丸い爪をしているもう片方の綺麗な手で君のクッキー色の髪から頬を優しく撫でれば金に変えた瞳で見つめ
「怖い思いをさせてごめんね聖夜。もうなつにいが君に乱暴しないようによーく念入りにお話しておくから、君は先にお眠り」
背後でなつにいが小さく「ヒッ!」と怯えた声を出すが、気にせず聖夜の額におやすみの口付けを落とす。
が、君は僕にしがみついたまま口付けに照れることもなく、真剣な顔で首を横に振って断った。
「止めてくれサンタさん…」
「………」
「お願いだよ…俺は8歳の時も今日も傷ついてない。ほら、擦り傷一つ無いだろ?」
「それは運が良かっただけで…」
「でもっ!なつにいは俺以上に怪我しただろ?なつにいのサンタさんだって居ない…大好きな人に会えない辛さは俺が1番よく分かる!
…もう十分だろ?サンタさんがやり過ぎたせいで、俺のなつにいに対する怒りも吹っ飛んだから!!」
「………」
「な?…俺の事大切だっていうなら、やめてくれ…サンタさんが俺の為に怒ってくれて嬉しかったから…
…これ以上は悲しくなる…」
「………」
大切な君からこんな切実にお願いされて、続けるなんて出来ない。
「分かったよ、聖夜…」
瞼を閉じると同時に、なつにいへ敵意を向けるのを止めた。
尖っていた爪は丸くなり、なつにいの怪我していた腕は暖かい光に包まれ一瞬で治癒する。
赤い血はキラキラ光りながら散っていき、何事も無かったかのように怖いものは全て消し去った。
クリスマスの小さな魔法をほんの少し使っただけ。
怪我したままだと優しい君が心を痛めるだろうから…。
「…君がそこまで言うなら…もうしないよ」
初めて出会った日、牛乳を零した君に言葉では怒りつつも笑っていたお母さんと同じ様に、僕も仕方ないな…と微笑む。
君は不安そうな表情から一転、安心した様に笑えば、しがみついていた腕に力を込め今度は喜びいっぱいに抱きついてきて
「ありがとう!本当にありがとうサンタさんっ!!!」
「うん…いい、よ…っ…でも、ちょっと…苦しいよ…聖夜…」
僕が音を上げる程、君は力が強くなったんだね…。
成長を感じて嬉しいけど…ちょっと…いや、かなり、苦しい…かも…
僕が背中をパシパシ叩けばようやく力が弱まり、息が出来る。
ふぅ、と一息着けば君と視線が絡みどちらからとなく笑い合った。




