~ おまけ ~ クリスの大切な子 3
食後、僕はサンさんのお手伝いをしていた。
みんなに食後の温かい飲み物を運ぶお手伝いだ。
サンさんから緑茶の入ったマグカップを受け取る。
「これはおばあちゃんに」
「はーい!」
「気をつけて運ぶんだよ」
「うん!」
誰に渡すかを聞けば、ゆっくり歩いて届ける。
「はい、おばーちゃん」
「ありがとう」
おばあちゃんはニコニコ笑いながら受け取ってくれた。
ぼくも釣られて笑顔になってしまう。
おばあちゃんの温かい笑顔は僕がサンタクロースだった時と変わらなくて、ほわほわする。
みんなに配って、最後に僕の分を受け取った。
僕のはマシュマロ入りのココアだ。
子供達のココアには皆マシュマロが入っている。
けれど、他の子より一個多い。
「お手伝いしてくれたご褒美だよ」
サンさんはそう言ってウインクした。
「やった!ありがとうサンさん!」
僕はにこにこご機嫌にテーブルまで運んで飲もうとした。
「いただきまー……」
そこで気づく。
マシュマロが入っているのは子供にだけ。
大人ななつ君のココアにはマシュマロが入っていない。
なつ君はマシュマロ入りのココアが大好きなのに…
ちょうどなつ君は皆が食べるクッキーを取りに行っててテーブルに居なかった。
「…………」
だから僕は皆が見てないうちに、マシュマロ入りの僕のココアとなつ君のココアを取り替えた。
自分のココアにマシュマロが入ってないのも、大好きなマシュマロ入りのココアを他の人が美味しそうに飲むのを見るのも、寂しくなると思うんだ。
なつ君が寂しい思いをすると、僕は自分がマシュマロ入りココアを飲めない以上に寂しくなる。
「ほーら、クッキー持ってきたぞチビっ子どもー」
ちょうどマグカップをすり替えたタイミングで、なつ君が色んな味のクッキーが乗ったお皿を持ってきた。
それを見て僕はわぁぁぁ!と興奮した。
他の子も同じだった。
「クッキーだ!」
「美味しそー!」
バニラ、アーモンド、チョコ、イチゴ、ジンジャーマン…
どれも本当に美味しそう!
沢山ある中から人気なのは、チョコだった。
僕も大好きだし、みんなも好きらしい。
大人達が食べる前にチョコクッキーだけあっという間に無くなっていく。
僕が慌ててチョコクッキーを取った時にはもう無くなっていた。
「ははっ、やっぱ毎年チョコの争奪戦は凄いな。俺が食う分無くなっちまった。」
椅子に座ったなつ君が笑いながらジンジャーマンのクッキーを食べる。
「チョコは多めに作ってるんだけどね」
「来年はチョコだけでいいんじゃないか?」
「えー、俺はジンジャーマンも食いたい」
キッチンでの作業を終えたサンさんと聖夜お兄ちゃんもやってきて、大人同士おしゃべりしているのを聞きながら、僕は自分のお皿に乗せた1枚のチョコクッキーをじっと見る。
僕はチョコクッキーも好き。
でも、なつ君がチョコクッキーが好きなのも知っている。
チョコクッキーが大好きななつ君が食べてないのに、僕だけ食べるの?
それはなんだか、楽しくないし、美味しくないし、寂しい気持ちになった。
だから、僕は隣に座っていたサンさんの袖を引っ張り
「……ねぇサンさん」
「ん?」
僕はサンさんだけ呼んだのに、何故か聖夜お兄ちゃんとなつ君まで僕を見る。
僕は3人から見られたのが恥ずかしくて顔を赤らめサンさんの腕に抱きついて顔を隠す。
「あの…………」
見られていて話せない!!
僕から直接なつ君にチョコクッキーを渡す勇気は無いし、サンさんにお願いしているのを聞かれるのも恥ずかしいよ!!
そんな葛藤をしていたら、僕より少し年上のお兄ちゃんが僕の持っているチョコクッキーに気づき
「クリスくん、チョコクッキーいらないならちょーだいっ!」
そう言って、僕が返事をする前にクッキーに手を伸ばしていた。
僕は慌ててクッキーの乗ったお皿を持ち上げ
「だ、ダメッ!!これはなつ君にあげるの!!」
みんなの視線が僕に集まる。
「え?俺に?」
なつ君を始め、聖夜お兄ちゃんや他の子も僕を見てて恥ずかしい。
「うぅ…………」
「そうだったんだ、ならいいや!僕イチゴのクッキー食べる!これも好きなんだー」
僕のチョコクッキーを取ろうとした子は、僕がダメと言ったら別のクッキーを食べ始めた。
取られなくてちょっとほっとした。
けど、何人かはまだ僕の方を見てて視線が痛い…。
僕はお皿をテーブルに戻せば、サンさんの前に座っているなつ君の方へとお皿を押して、サンさんの腕にしがみついて顔を隠した。
「……俺にチョコクッキーくれんの?」
なつ君の問いに顔を隠したまま頷く。
「……サンキュー!俺チョコクッキー好きだからすげー嬉しいよ」
「わわっ!」
なつ君が手を伸ばしてワシャワシャ髪を撫でてきた。
昔は僕が撫でていたのに。
大きくなった君の手に撫でられるのは凄くドキドキした。
「クリスもチョコクッキー好きか?」
「?……うん」
「じゃあ、半分こしよーぜ」
なつ君はチョコクッキーを半分に割って、その片方を僕の口元へと差し出してきた。
……これは直接食べていいのかな?
僕は差し出されたチョコクッキーをサクッと食べた。
やっぱりチョコクッキーは美味しい。
モグモグしてごっくんすれば、もう一口。
半分こしたクッキーは二口で無くなっちゃったけど
「……おいしい、ありがとー…」
なつ君の方をそろそろと上目遣いで見れば、なつ君は頬を赤くして嬉しそうに笑い
「……っ……やっぱもう半分も食うか?」
頬を赤くして目をキラキラさせながらなつ君がもう半分も差し出してきたから、むっと頬を膨らませて僕は拗ねた。
「それはなつ君が食べるのっ!!」
「でもさ……」
「なつ君が食べてくれなきゃ、美味しくない!」
「そうか……?」
大好きなチョコクッキーを大好きな君と半分こして食べるから美味しいのであって、僕一人で食べたら、あげた意味が無い!
「うーん……分かった」
しぶしぶ納得したなつ君が、一口で食べたのを見届けた僕は嬉しくて無意識ににこにこ微笑みながらちょっと首を傾げ
「……おいしー?」
そう聞けば、なつ君も嬉しそうに笑って
「ん、うまいっ!」
って。
なつ君が美味しいって笑うと、僕も嬉しい。
無事チョコクッキーを渡せた僕は安心してサンさんから離れて自分の椅子に座りなおす。
嬉しくてほわほわしながら、ココアを飲もうとマグカップに口を付け
「…!!??…ゴフッ!」
口に入ってきたのは甘くない苦い液体。
ミルクでちょっと…ほんのちょっとまろやかだが、苦いものは苦い!!
「…うぇ…!…っ…!…ふぇぇ…にがいー……」
甘くないどころか苦い味にビックリした!
僕はこれ知っている。
マムやダディが飲んでるコーヒーってやつだ!
ちゃんと匂いを嗅いだら分かるのに、ほわほわして嬉しくて気づかなかった。
だって、なつ君が飲むこの色の液体って言ったらココアしかないんだもん!
「サンさん、これ、コーヒーだよー…ココアじゃないよー…」
サンさん間違えてるよ!と僕はサンさんの服を引っ張る。
「え?……ほんとだ…ごめんね。おかしいな…確かにココアを渡したと思ったんだけど…間違えちゃったね」
サンさんが僕のマグカップを持って立ち上がろうとした時、なつ君が自分のマグカップを差し出し
「ん?じゃあもしかしてこのマシュマロ浮いてる俺のマグカップがクリスのじゃないか?」
「あぁ、それだよ。なつ君のと間違えちゃったんだね」
サンさんとなつ君がマグカップを変えようとするから、僕はマグカップの飲み物がこぼれ無い程度に軽くサンさんの服を引っ張り
「間違えてないもん!ダメ!なつ君はココアが好きなのっ!マシュマロ入ってるのが好きだから、それはなつ君のなのっ!」
「そうなの?」
「そうだもん!」
「……っ……なあ、俺が昔チョコクッキーやマシュマロ入りココアが好きだったの……お前らが教えたの?」
僕が必死にサンさんに訴えている時に、なつ君がコソッと聖夜お兄ちゃんに聞いていた。
聖夜お兄ちゃんも僕に聞こえないように返し
「教えてねーよ。そもそも、俺なつにいがそれが好きだって知らなかったし…」
「ふーん……」
「なつ君にコーヒーはダメだよ!苦くて泣いちゃうよ!」
なつ君にコーヒーを渡そうとするのを必死で止めていたら、聖夜お兄ちゃんとサンさんとなつ君が口元や顔を隠し肩を震わせて笑った。
なんで?!
「苦くて泣いちゃうんだ…なつにい…っ…ふはっ…」
「うっせ…」
なつ君が聖夜お兄ちゃんの腕を軽く小突き、大きく深呼吸して笑いを落ち着かせれば僕を見た。
「クリス、俺はもうコーヒーが飲めるから大丈夫だよ」
「…そうなの?」
「あぁ。この苦味と甘いものの組み合わせがすげー美味いんだ!
でも、クリスが俺の為にマシュマロ入りのココアくれたのすげー嬉しかった。」
またわしゃわしゃと頭を撫でられた。
「だから、せっかくクリスがくれたココア、半分こしないか?」
「半分こ?」
サンタクロースの時も、一つのマグカップに入ったココアを二人で半分こして飲んでいた。
それを思い出して、嬉しくなり
「……うん!する!なつ君と半分こ!」
「うしっ!じゃあほら、こっち来い。聖夜、クリスと場所変われ」
「まぁいいけど……可愛い弟が他の人に懐くの複雑だな……」
僕はサンさんから離れ、なつ君の隣に座っていた聖夜お兄ちゃんと場所を変わる。
なつ君の隣に座れば、なつ君がココアの入ったマグカップをくれたから、口をつける。
サンタクロースだった前世で飲んだココアと同じだ…。
「美味い?」
「うんっ!半分こして飲むココア凄くおいしーっ!!」
「そか、俺にもちょーだい」
「んっ!はい、なつ君」
なつ君にマグカップを渡したら、なつ君も嬉しそうに飲んでくれて、またマグカップが返ってくる。
交互に飲みながら二人目が合えばどちらともなく笑い合った。
まさか、またこの時間を楽しめるなんて思わなかった。
サンタクロース時代と同じ様になつ君と過ごせて僕は幸せだ。




