実験だクマぁ
「三日振りじゃのぉ、お主、少し寝過ぎではないか? 儂なんて三時間も寝れば十分なんじゃが」
知るか。目覚めた直後にジジイの顔を見せられる俺の気持ちも考えてほしい。率直に言って、最悪だ。
「ジ、ジイ」
「おっ、声が出るようになったか。若いだけあって、回復が早いのお。羨ましい限りじゃて。まあ、回復させたのは儂じゃから、凄いのはお主じゃなく儂じゃけど」
「俺に、何を」
「ふふん、知りたいか? 儂も気分が良いから教えてやらんでもない。但し、話している最中に余計な茶々を入れるなよ? それが約束出来るのなら教えてやろう」
腹が立つけど、俺に拒否権などない。何ならこの状況、生死すらジジイに握られている。
「分か、た」
「よろしい。では、まず儂の目的について話すとしよう。儂はな、ノーベル賞が欲しいんじゃよ。ああ、言っておくが権威として欲しい訳ではない。儂の周りの奴らが、散々ノーベル賞を自慢してきて鬱陶しくてのぉ、だったら儂も取っちゃえば良いじゃないって考えた感じじゃな」
何言ってんの、このジジイ? まさか、ボケてる?
「お主、ロボトミー手術は知っておるか? 頭蓋骨に穴を開け、前頭葉の神経を切断する手術なんじゃが、これが当時、鬱病や統合失調症などの精神疾患を改善させる手段としてノーベル賞に認められた訳じゃが、現在では副作用が余りにも酷いので禁止されておる。儂も何度か試したが、あれは一種のギャンブルじゃったな。治る者もいれば、壊れる者もいる。まあ、医者ではない儂の腕では、その辺りが妥当であろうよ」
いやいや、医者じゃないのにしれっと手術しないでくれませんか? しかも禁止されてる手術なんだよね? 何度もやってるってどういう事?
「そこで、だ。儂は閃いてしまってのぉ。ロボトミーは神経を切断するから宜しくない訳であって、逆に細胞を与えるとどうなるのだろうか、と。そう考えたら途端に楽しくなってのぉ、人の脳細胞だとつまらないから、始めは馬の脳細胞を人間に注入しようと試みたんじゃが、知り合いにストップを掛けられてしもうた。あやつは馬主だから情でも移ったのかもしれんな。儂としては、人馬一体を完成させてみたかったんじゃがなぁ」
これ、何の話してるんだ? ジジイが妄想に浸ってるだけだよな?
「だから儂は、あやつに何の動物なら良いのか訊いての。そしたら、熊だと言うじゃないか。知っとるか、お主。巷では熊が騒ぎを起こしとるらしいぞ。わざわざ山を下りてご苦労な事だわい。まあ、そのお陰で必要な素材は手に入ったから、まあ良しとするかのぉ。後は適当な人間を見繕って、実験をするだけとなった訳じゃな」
え? 終わり? 待て待て、俺の話は?
「俺は?」
「んん? 聞いておったじゃろ? お主は適当に見繕われた内の一人じゃよ。まあ、結果、お主しか覚醒しなかったがな」
「く、ま?」
「そうとも、お主を意識不明から救ったのは、熊の細胞じゃ。儂はこれをB細胞と名付けた。これでノーベル賞は戴きじゃろ」
熊? 俺の身体に熊の細胞が? 何してくれてんだクソジジイ!
「殺、す」
「無駄じゃ。お主には首輪を付けてある。人を襲うようなら電気が流れる仕組みになっておる。お巫山戯な電流ではないぞ? リミットを外したスタンガンの威力は。それに、現実のお主はもう死んでおるのだぞ? 鈴木 コロンブス二十六歳」
ウガァァ、コロンブスって言うな!
「なぜ、俺?」
「知らんよそんな些事。儂はB細胞を被験体に注入し、数多の屍の中でお主という結果が産まれた。それ以外に何の興味もありゃせんわい。どうしても信じられないのならば、自分の姿を見ることじゃな」
ジジイがパチンと指を鳴らすと、白い天井が鏡に変わった。寝そべっている俺は、否応なしに鏡の中の自分と目が合う。
……ウル◯ァリン? え、ウル◯ァリンだよね? 俺っていつの間にアベンジャーズになったの? つうか、顔だけじゃなく腕も毛で覆われてるんだけど。えぇ、熊の細胞強すぎない?
鏡の中の俺は、心なしか涙目に見えた。




