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王の裏切り、俺の無双劇〜 追放英雄ライル、王国を無双で討つ  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第8話 沈黙の継承者

王都の夜は、息を潜めたように静まり返っていた。

 遠くで鐘が三度鳴り、霧に包まれた塔の影が長く伸びる。


 その闇を裂くように、三つの影が動いた。

 ライル、セリア、ゼイル――“裏切られた者たち”。


「情報は確かなのか、セリア」

「ええ。王の娘、エリシア・アルヴェリア。彼女はいま、王の命で“離れの塔”に軟禁されてる」

 女魔法使いの声には、冷たい夜気が混じる。


「王の血を引く者が……父に囚われてるとはな」

 ゼイルが皮肉めいた笑みを浮かべ、肩をすくめた。


「――彼女は沈黙している。でも、ただの囚われ姫じゃない」

 セリアの言葉に、ライルの瞳が鋭く光る。

「沈黙の王女、か。……もしそれが本当なら、王への道が見えてくる」




 塔の外壁は白い大理石で築かれ、月光を淡く反射していた。

 ゼイルが静かに縄を放ち、窓枠へ引き上げる。

 セリアは魔法で音を消し、ライルが先頭に立つ。


「お前、こういう潜入、慣れてるな」

「まあね。裏切られた貴族を殺す仕事、何度もしたから」

「……皮肉だな。今はその“裏切り”を正すために動いている」

「そういう因果、大好きよ」

 セリアが微笑む。だがその笑みの奥に、深い憎悪が潜んでいた。




 塔内部は、まるで時が止まったようだった。

 冷たい空気、白い床、壁にかかる古い絵画――かつての王家の栄光を映す。

 その静寂の奥に、彼女はいた。


 ライルが足を止めた瞬間、時間が軋む音がした気がした。


 奥の小部屋。

 蝋燭の明かりがゆらめき、祈りの声が微かに響いている。


 金色の髪が揺れた。

 白い衣の裾が床を撫で、細い肩が震えている。


 ――その姿を見た瞬間、ライルの心臓が鳴った。


「……エリシア」


 呼んだ声が、静寂を破った。

 彼女の肩がわずかに跳ね、ゆっくりと振り向く。


 青い瞳が、闇の中で光った。

 涙がこぼれ落ちる。


「……ライル……? ほんとうに……あなたなの?」


 その声に、彼の中で何かが崩れた。

 あの日、剣を向けられ、裏切られた時でさえ、心が壊れなかった。

 だが――この再会には、耐えられなかった。


「生きていたのね……っ。ずっと、信じてた」

「……遅くなった。守るはずだったのに、何もできなかった」


 エリシアが小さく首を振る。

「違う。あなたが生きてる、それだけで……私は立っていられたの」


 その瞬間、二人は距離を詰め、抱きしめ合っていた。

 過去も、裏切りも、怒りも――その抱擁の中で溶けていく。




 時間が止まったような静けさの中、彼女が囁いた。

「父は……もう、王ではないの」

「……どういう意味だ」


 エリシアの瞳に、恐れと憎悪が混じる。

「“神聖血統の儀式”を始めたの。

 王族の血を“神”に捧げ、民の魂を供物に変える。

 あなたを追放したのは、真実を知ったからよ」


 ライルの指が震える。

「やはり……あの夜、俺が見たのは……」

「ええ。あれが始まりだった」


 エリシアの声は掠れ、涙が頬を伝った。

「父は国を食べてる。民も、家臣も。

 王の名を持つ怪物よ」


 沈黙。

 次に響いたのは、剣の柄を握る音だった。


「――許さない」

 ライルの声が、雷のように低く響く。

「俺の忠誠を踏みにじり、国を喰らうだと……!」


 その怒りに、部屋の空気が震えた。

 蝋燭の炎が吹き消えそうになる。


 エリシアは、そんな彼の手を握った。

「なら、共に戦って。今度こそ、沈黙を破る時が来たの」


 エリシアが祈りのポーズをとる。

 彼女の掌から淡い光が溢れ、空気が変わる。


「《天誓セラフィック・オース》――誓いを破る者に、天の罰を」

 光が二人を包む。


「ライル・アーヴィング。あなたの剣に、私の祈りを」

「……そして俺の怒りに、君の光を」


 光と闇が混ざり合うように、二人の誓いが交わされた。

 その瞬間、塔の外で風が吹き荒れた。


 セリアが外から呟く。

「……これは、ただの再会じゃない。王国が――震え始める」




――夜の帳が降りていた。

 月明かりだけが、白い寝室を淡く照らしている。


 寝台の上で、ライルは静かに眠っていた。

 その顔は穏やかで、まるであの血に塗れた過去など存在しなかったかのように。


 エリシア・アルヴェリアは、ベッドの端に腰掛け、胸に手を当てた。

 つい先ほどまで――少し、騒がしくしてしまった。

 彼の心臓の鼓動を聞きながら、あの温もりに触れて、久しく忘れていた「人間の幸福」というものを感じてしまったのだ。


 「……ほんとうに、ずるい人」

 囁くように、エリシアは微笑む。

 復讐の炎を宿しているはずの男が、眠っている時だけは、まるで子どものように無防備で――優しい。


 その顔を見るたびに、胸の奥が痛む。

 あの人の瞳を、こんなにも穏やかに閉じさせることができるのに。

 それを“憎しみ”に染め上げたのは――父、アルヴェリア王。


 「父上……あなたは、何を差し出したのですか」

 声が震える。

 民を、兵を、そして――息子のように信じていた騎士さえも、儀式の供物にした。

 王家の威光のために。神聖の名のもとに。


 エリシアは、そっとライルの髪に触れた。

 長く伸びた黒髪が指に絡む。

 その髪の一本一本に、復讐の重みが宿っている気がした。


 「あなたを……こんな顔にしたのは、私たち家族の罪」

 かつて、ライルは彼女の護衛であり、恋人であった。

 だが王の命令ひとつで、彼は“裏切り者”として処刑台に送られかけた。

 助けられなかった自分を、エリシアは一生許せない。


 「だから今度は、私がけじめをつける」

 彼女の瞳に、蒼い光が宿る。

 それは王家に伝わる《聖炎セイクリッド・フレア》――清浄と断罪の炎。


 「父上を討ち、あなたの憎しみを終わらせる」

 ライルの頬に、そっと唇を寄せた。

 それは祈りのようで、別れのようでもあった。


 夜風がカーテンを揺らす。

 静かな寝室の中、決意の炎だけが淡く燃えていた。


 「――どうか、夢の中では穏やかに。

  目覚めたときは、もう“終わり”の始まりだから」


 エリシア・アルヴェリアは、王女ではなく――討つ者として夜を見つめた。



 夜が明け始める頃。

 塔の最上階の窓辺に、ライルとエリシアが並んで立っていた。


「あなたと見る夜明け、もう二度とないと思ってた」

「だがまた見られた。……そして、この光を奪った者を討つ」

 彼は静かに剣を握る。


 下では、セリアとゼイルが待っていた。

「王都が血に染まる夜も、遠くないな」

「ええ。でも……この朝だけは、綺麗ね」


 東の空が、光を帯びていく。

 エリシアが祈りの言葉を唱える。


「――この国に光を。偽りではない、本当の光を」


 その祈りに呼応するように、塔の上に光が舞い上がる。

 まるで天が応えたかのように。


 ライルが呟く。

「沈黙は、終わった。……これが、反撃の始まりだ」


 そして、夜明けの光が王都を照らした。

 沈黙の王女が立ち上がり、復讐の血盟が揃った瞬間だった。


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