表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の裏切り、俺の無双劇〜 追放英雄ライル、王国を無双で討つ  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/53

第43話 再生の誓い

 夜が、ようやく終わりを告げた。

 崩れ落ちた王城の尖塔。その残骸の上で、灰と血にまみれた九人が、朝焼けを見上げていた。

 黒煙がまだ地を覆い、空気には焼けた石の匂いが漂う。それでも、東の空だけは――確かに、光を孕んでいた。


「……長い夜だったな」

 ライルは折れた瓦礫の上に立ち、静かに息を吐く。

 その声は、風の音に溶けるほど低く、けれど確かな響きを持っていた。

 隣でエリシアが瞳を細め、淡い微笑を浮かべる。


「でも、夜が明けたわ。ほら……ちゃんと、光が来てる」


「ほんとだな」

 隣でエリシアが空を見上げる。

 白金の髪が、夜明けの風に揺れた。

 その瞳の奥には、失われたものの痛みと、それでも立ち上がる意志が宿っていた。

 セリアが静かに杖を掲げ、残滓を調べるように光を放つ。

 黒い瘴気は、もうどこにもなかった。


「……あれほどの力でも、終わりは儚いものね。どれほどの闇も、光の前では跡形もない」

 彼女の声は淡々としているが、わずかな震えが滲んでいた。

 

「神に選ばれたとか言ってた割に、朝日に負けるとはな!」

 グロスが瓦礫をどかしながら、豪快に笑う。


「朝日は最強だからね。闇だって寝不足には勝てないよ!」

 ルネが即座に乗る。


「ははっ、違いねぇ!」


「……全員、生き延びた。それだけで奇跡だ」

 カラムは肩をすくめつつ、周囲を見渡した。


「奇跡ってのはね、皮肉な言葉よ。生き残るほど、責任が増えるんだから」

 ミレーヌが唇を歪め、血で汚れた曲刀を拭いながら呟く。


 ライルはその言葉に微かに笑い、黒焔剣ヴァルグレイスを地に突き立てた。

 黒く焦げた大地から、微かに光が広がっていく。


「……それでも、生きる価値はある」


 朝日が、その剣に反射して輝いた。

 全員がその光を見る。

 そして、誰かが小さく息を吐いた。



 数日が経った。

 焦土と化した王都に、ゆっくりと人々の声が戻ってきた。

 避難していた民たちが帰還し、倒壊した家々の間に笑い声が戻る。

 それを見守るように、ライルとエリシアは瓦礫の上に立っていた。

 セリアは魔法陣を刻み、地脈に光の印を流し込む。

 やがて王都を囲むように、淡い魔導壁が再び輝いた。


「防衛陣を再生させる。これで街はもう崩れないわ」


 彼女の額に流れた汗が、一筋の光となって消えた。



「おかえりー! もう大丈夫だよ!」


 ルネは避難所から戻った子どもたちに笑顔を向けていた。

 小さな手を取りながら、彼女は屈託なく笑う。


「ほら、もう泣かないで。矢の涙は、もういらないんだから!」


 子どもが笑い返す。


「……ああ、これだ」


 エリシアがその光景を見て、胸に手を当てた。


「この国が、欲しかったもの」


「重い役目だな、王女様」

 ライルが横に並ぶ。


「父の罪も、国の歪みも……全部、私が背負う」


 

「血盟がいる。俺もいる。逃げ場は、もう用意してある」

 ライルは腕を組む。


「……ずるいわね」

エリシアは少しだけ笑った。


「おらぁ! 若いの、手ぇ止めんな! この街はわしらの家だ!」

 グロスは崩れた塔を支えながら、声を張り上げる。


「次に倒壊の危険がある区域を先に補強しろ。無駄な動きはするな」

 カラムが地図を広げ、職人たちに指示を出す。

 その冷静な判断は、戦場の副将だった頃の名残を感じさせた。


 一方、ミレーヌとゼイルは王国残党の捜索を進めていた。


「やっぱり腐敗は根が深いわね。逃げた官僚ども、次々に潜んでやがる」


「放っておけばまた闇が芽を出す。今のうちに切り落とす」


 二人の声が闇に消え、静かな足音だけが続いた。

 そして、再びライルは剣を掲げた。

 その光は王都全体を包み、崩壊の跡に“希望”という名の影を落とした。


「この剣はもう、人を裁くためではない。守るために振るう」


 エリシアがそっとその手に触れる。


「なら――私も、その光を導く者でありたい」


 二人の間に、柔らかな風が吹いた。



 夜明けから七日後。

 復興の兆しが見え始め、血盟ケツメイの面々はそれぞれの進路を選び始めた。


◆カラム


「俺はこの国の外れで、防衛組織を作る。二度と“王の暴走”が起きぬようにな」


 ライルが握手を差し出す。


「英雄気取りの次は、教師か」


 カラムは笑い、厚い手で握り返した。


「平和な時代こそ、教える者が必要なんだよ。戦じゃなく、守るための力を」


 彼の目は、かつての戦火ではなく、未来を見ていた。


◆セリア


「私はこの王都に残るわ。魔導学術院を建て直す。王政に支配されない“知”の拠点をね」


 彼女の杖が地をなぞり、光の紋章が浮かび上がる。


「理想なんて信じてなかった。でも……あなたたちが、それを見せてくれた」


 ライルは穏やかに微笑む。


「それが血盟の誓いだ。理想は、共に掴むものだ」


 セリアはわずかに頬を赤らめ、視線を逸らした。


◆グロス


「わしは北の辺境へ戻る。焼けた村を再興せにゃならん」


 肩に荷を背負い、背中を丸めながら笑う。


「わしが死んだら、墓に酒でもぶっかけとけ!」


 ルネがすかさず笑い返す。


「やだよ! 飲むなら一緒にだもん!」


「はっはっはっ、負けたわ!」


 その笑い声が、王都の空へと響いた。


◆ミレーヌ


「私は南部に残る王族の残党を追う。中途半端な正義ほど国を腐らせるから」


 背を向けて歩き出すミレーヌに、エリシアが声をかけた。


「あなたも、もう“処刑人”じゃないわ」


 振り返った唇が、初めて柔らかく笑った。


「ふふ……じゃあ、“守護者”って肩書に変えとくわ」


◆ゼイル&ゼス


 ゼスが短く言った。


「俺たちは影に戻る。敵がいなくても、影は必要だ」


 ゼイルが続ける。


「この国の暗部を管理する“影守”として生きる。闇を制するのは、闇の者だ」


 ライルが笑い、手を差し出す。


「光が強ければ影も濃くなる。頼んだぞ」


「言われるまでもない」


 ゼスは無言で頷き、影の中へと溶けた。


◆ルネ


「私……森に帰るね。動物たちが怯えてる。でも、いつかまた、会いにくるから!」


 ライルが笑って頭を撫でた。


「その時は、王都の空を射抜けるくらい、腕を磨いてこい」


「うんっ! 負けないよ、団長!」


 彼女の矢羽が朝日に光り、風に乗って消えた。


◆エリシア&ライル


 すべての仲間を見送り、静寂が訪れる。

 塔の上、エリシアが隣に立った。


「これで……本当に終わりね」


 ライルは首を振る。


「いや、始まりだ。王国の再生は、まだこれからだ」


 二人の影が重なり、風が静かに吹き抜けた。


 夕暮れ。

 王城跡に建てられた新たな広場で、人々が灯火を掲げていた。


 壇上に立つ直前、エリシアは一度だけ拳を握りしめた。

——震えは、もう隠さない。


 壇上に立つエリシアの声が、風に乗って広場全体に響く。


「今日より――新たな王国〈アルヴェリア新王国〉をここに再興します。

 血盟の勇士たちの誓いを礎に、もう二度と、闇に呑まれない国を!」


 民衆の歓声が夜空に昇り、涙が光に変わる。

 ライルは背後で静かに剣を抜いた。


「血に汚れたこの剣も、今は再生の証だ」


 エリシアが光の魔法を放つ。

 風が頬を撫で、ライルが低く呟いた。


「これが、俺たちの――再生の誓いだ」


 ライルは胸の奥で、小さく息を吐いた。

——守ると決めた世界は、こんなにも重く、そして温かい。



 血盟の面々は各地へと散り、王都には静かな朝が戻っていた。


 塔の上、ライルが一人、朝日を見つめている。

 背後から柔らかな声。


「また、戦いが来ると思う?」


「来るさ。でも今度は、俺たちが選んだ戦いだ」


 エリシアが微笑み、ライルの肩に手を置く。

 朝日が昇り、街を黄金に染めた。


「誓いは終わらない。生きる限り――繋ぎ続ける」


 光が全てを包み込み、風が未来へと流れていく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ