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王の裏切り、俺の無双劇〜 追放英雄ライル、王国を無双で討つ  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第38話 神を名乗った王、娘に裁かれる刻

 崩れ落ちた王城の上階。

 かつて王国の栄華を象徴した大聖堂は、今や半壊し、瓦礫と光の残滓だけが漂っていた。

 砕けた柱、千切れたステンドグラスの破片、そして風に煽られ震える光の粒子。

 王都全体を赤黒い空が覆い、その裂け目から、絶えず何かが唸るような音が響いている。

 その中心に、転移の光をまとって姿を現した男がいた。


 白銀の戦装束。

  背後に浮かぶ巨大な“王家の聖印”。

  血と光の入り混じった瘴気を放つその紋章は、周囲の空気をじりじり侵食し、瓦礫すら赤く染めていく。


  アルトレウス三世。

  この国の王にして、“自身を神と信じた男”。


「……我は見た。神は怒っておられる。民は堕落した。ならば――浄化の時だ」

  低く響く声は、祈りというより、呪いに近かった。

  背後で円環状の魔導陣がゆっくりと回転し、 そこから伸びた無数の魔力管が、城外――王都全域へと広がっていく。

  反乱軍も、王国軍も、民も、兵も区別なく。                       

 人々の身体から淡い光が引き剥がされ、天空へ昇っていく。

  それは――魂。


「足りぬ……まだ足りぬ……! ああ……神よ。どうか、愚かな反逆者どもを――裁く力を、我に!」


 王の祈りは懺悔ではなく、契約の言葉だった。       

 聖堂の柱が震え、鐘が狂ったように鳴り響く。

 そして、赤く染まった空が――ゆっくり裂けていく。


「……来たか、我が娘よ」

 血の王の声が、崩れた聖堂に反響した。


 エリシアは瓦礫を踏みしめ、一歩前に進む。

 黄金の髪が光魔力を帯び、揺らめく。


「……父上」

 その声は静かだった。

 だが、震えていない。


「――神である我を裏切った罪、ここで償わせる」

 アルトレウスの瞳が赤く光り、周囲の魔力を押し潰すように圧縮する。


「力で人を支配する……その歪みこそ、王家を腐らせた元凶です。

 あなたはもう……“王”ではありません」


「ほう……言うようになったな」


 父と娘が向き合った瞬間、

 聖堂の空気は“戦場”へと変わった。

 アルトレウスが右手を掲げる。

 背後に広がる聖印から無数の血紋が天へ走り、その紋章が弾け――

 赤黒い槍が生まれた。

 一本、十本、百本。

 空を埋め尽くす血槍の群れ。


「――穿て」


 槍が一斉に降り注いだ。

 赤黒い流星雨が、エリシアを断罪するかのように。


〈聖盾展開・連環照破〉

 エリシアは魔杖を構え、黄金の炎を幾重にも重ねた障壁を作り出す。


 激突。

 血槍と聖盾が触れ合う度、空気が焼け、爆光が散り、聖堂の床が吹き飛ぶ。


「父……あなたは力に溺れているだけです!」


「黙れ。“王”は血に宿る。

 お前はその血を否定した、ただの裏切り者だ!」


 槍が次々と障壁を突き破り、エリシアを後退させる。

 王の魔力がぶつかるたび、聖堂はさらに崩れていった。


 そして、ふいに胸を刺す記憶がよぎる。


「お父様、どうして民のために戦うの?」


 まだ小さかった日のエリシア。

 春の陽射しの庭園。

 父の膝に座りながら、幼い声で問いかけた。

 アルトレウスは微笑み、娘の頭を撫でて答えた。


「民は我が子同然だ。

 王とは、すべての命を背負う者だ」


 その言葉が――

 ずっと誇りだった。

 ずっと信じていた。

 なのに今、その同じ口から“浄化”という言葉が出る。


「……あの時のあなたは、どこへ行ったの……?」


 エリシアの呟きに、アルトレウスは冷笑した。


「愚かな娘よ。

 愛があるからこそ、滅ぼすのだ。

 腐った果実は、切り落とさねば全てを汚す」


「違う……!

 私は、その果実を守る側になります!」


 その瞬間だけ、王の瞳が一瞬揺れた。

 昔の父の面影が、わずかに覗いた気がした。


 だがその気配はすぐ消え――


「ならば教えてやろう。“世界の真理”を」


 雷鳴が落ち、聖堂がさらに崩れる。


「エリシア。

 神の御前で、裁きを受けよ!」


「いいえ――“王女”として、あなたを止めます!」


 互いの魔力が天井を突き破るほど膨れ上がる。


エルシア「神聖術――第五等級……

 〈聖輝降星セイキ・フォール〉!」


 上空に輝星が顕現し、落光攻撃として降下する。

 聖堂の空気が震え、空が白熱化し、星弾が落下―


「ッッッ!」

 エリシアの障壁が砕け、吹き飛ばされる。

 壁に叩きつけられ、血が滲む。


「ああ……まだ……私は……!」


「弱い。

 やはり娘でしかなかったか」


 アルトレウスの胸に刻まれた傷は、聖痕が広がりながら再生していく。


「終わりだ、エリシア。

 神に抗うなど――許されぬ!」

 王の腕が光の槍へと変わり、突き出される。


「くっ……!」


 避けきれない刹那――


 黒衣の影が跳ぶ。

 ゼスだった。

 続けてもう一つの影が滑るように射出される。


「――あんまり娘イジメてんじゃねぇよ、王様」

「……ここからは、俺たちの舞台だ」


 二人は同時に踏み込む。


「《影連迅えいれんじん》!」

「《心断刃しんだんじん》!」


交差した軌跡が一点で重なり――


二人の声が重なる。


『《双影葬刃そうえいそうじん》!!!』


 二人の影が重なり、剣閃が瞬間的に何十にも分裂する。

  遅れて襲う“死の時間差”。 王であっても逃がさぬ絶影の斬撃。


「ゼス……ゼイル……来てくれたのね」


 エリシアの体が震える。

 だが、その震えは恐怖ではなく――安堵だった。


「立てるか、王女殿下。お前の戦いはまだ終わってねぇ」


「倒れんなよ? あんたが倒れたら、ライルが泣くぞ」

 

 その言葉が、エリシアの心を震わせた。


「……当然よ」


「よし。じゃあ行くぞ。

 ライルが泣く前にな」


 三人の視線が、血の王へ向けられる。


「三匹の蝿ごときが……神を討てると思うか!」


「討てるさ」

「人を喰らう“神”なら――ただの怪物だ」


 爆裂。

 剣閃と光翼がぶつかり、聖堂はさらに崩壊する。

 舞い上がる瓦礫の中。

 エリシアは再び父の前に立った。


「どうして……どうしてあなたは変わってしまったの?」


「変わった?

 違う。我は“本来あるべき姿”へ戻っただけだ」


「本来……?」


「王家とは神の代行者。

 民は神の糧。

 それこそ、この世界の理だ」


「それが……あなたの“真理”?

 人を贄して、魂を奪い、神の器を気取って……

 そんなものの、どこが王なの!?」


 エリシアの叫びに、王は一瞬だけ息を呑んだ。


「私は……ずっと信じてた。

 あなたが教えてくれた“王の在り方”を……!」


「――それが間違いだったのだ」


「ええ、間違いよ。

 “あなた”がそれを捨てた日から」


 静寂。

 次の瞬間、エリシアの身体を黄金の光輪が包む。


「私は……あなたに教わった“王の理想”を捨てない。

 だから――あなたを倒す」


 その言葉に、アルトレウスの表情が歪んだ。


「娘に……説教されるとはな…………!」


 そして、怒号――


「ならば証明してみろッ!!

 我が信じた神より、貴様の正しさが勝るというのならッ!」


 エリシアは杖を構え直し、ただ一言。


「ええ……証明します。“娘”として。

 そして――“王女”として」

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