第35話 《黒焔 vs 蒼雷》――天災の衝突
王城の塔が崩れた直後、さらにその上空へと浮上した巨大要塞。
天を裂く衝撃波が渦巻き、空そのものが悲鳴を上げていた。
黒焔と蒼雷。
――そのぶつかり合いは、もはや“魔術戦”ではなく“天災の衝突”だった。
黒い炎は夜の底のように揺らめき、蒼雷は白昼の如き光芒を振りまく。
周囲の雲は燃え、風は二方向に割れて吹き荒れ、重力の流れさえ捻じ曲げられていく。
その中心で、二つの影が対峙していた。
師――王国将軍エルン・グラード。
弟子――裏切り者ライル・アーヴィング。
エルンは雷翼を大きく広げ、白銀の魔導剣を構える。
その顔には、かつての優しさの欠片すら残っていない。
エルン:「……来い、ライル。弟子であるお前が、王国を裏切ったその覚悟――見せてもらうぞ!」
黒炎が瞬いた。
ライルは返事をしない。
ただ、一歩――前へ踏み出した。その一歩だけで、空間が軋み、黒焔剣が獣のように低く唸った。
「覚悟だぁ? そんなもん、とっくに済ませた。
裏切り者に掛ける情けなんざ、一滴だって残ってねぇよ。」
次の瞬間――
《黒焔斬》。
――轟音。
閃光と静寂が同時に走り、世界が一瞬完全に“無音”になる。
剣速は目視を超え、残光だけが線となって空を裂いた。
蒼雷がうねり、黒焔が絡みつき、二つの力が“獣”のように互いを噛み砕こうとする。
速度はもはや視認できない。
空を裂く残光だけが、剣戟の軌跡として線を描いていた。
黒焔の蛇が伸び、 エルンの雷閃がそれを切り裂く。
衝突のたびに魔力が暴発し、浮上要塞の天井に描かれていた巨大魔導陣が崩壊していく。
地上から見上げるセリアが震えながら呟いた。
「……まるで天使と悪魔の戦争……」
カラム:「違う。あれは――“師と弟子”だ。」
同時に空で、蒼と黒の閃光が絡み合う。
剣戟が空と風を引き裂き、雲が真っ二つに割れる。
「うぉっ……!?」
王都外壁が衝撃波でえぐれ、兵士たちが膝から崩れ落ちる。
「ライル……あれが……?」
ミレーヌが震える。
「バケモンだよ。あいつは……限界なんざ知らねぇんだ……!」
グロスが汗を流しながら歯を食いしばる。
光は乱れ、轟音は弾け、世界は白と黒で塗りつぶされる。
それでも――二人の呼吸と足音だけは、妙に鮮明に響いていた。
エルン
「お前の剣……重い。迷いがあるな!」
ライル
「迷いじゃねぇよ――“覚悟の重さ”だ!」
ライルが叫ぶ。
ライルの斬撃が空を裂き、黒焔の奔流が蛇のように空間を噛み砕く。
黒焔剣技《滅炉牙》が暴走するように放たれた。
ライルの斬撃が地を裂く。
黒炎の奔流が空間を切り裂き、残滓が炎の軌跡を描く。
その速度、風を置き去りにした。
エルンは雷翼で一気に上昇。
そして空間ごと反転させる《雷装術式・転界反波》で死角へ移動。
そこから――
蒼雷剣技《雷怒ノ裁き》
上空から蒼雷の柱が落ちる。
雷撃が一本の“罰”のように振り下ろされる。
エルン:「王国を斬って何が残る! ただの焦土だ!」
ライル:「焦土でもいいさ。焼け野原でも、“希望”は残る!」
黒焔剣が雄叫びを上げる。
その一閃が、雷撃を真っ二つに裂いた。
地上に届いた衝撃波が、王都の外壁をえぐる。
兵士たちが崩れ落ちる中、誰もがただ“黒き閃光”を見上げていた。
エルン:「仲間を信じる? 感情に溺れる弱者の理屈だ!」
ライル:「弱者だと? なら、教えてやる。“信じ抜いた人間”が一番、恐ぇんだよ!」
剣が交錯するたび、記憶が閃光のように過ぎる。
稽古場の笑顔、訓練の痛み、師の教え。
そして――決別の夜。
ライル:「なぁ師匠。あの日、俺に何て言った?」
エルン:「“強くあれ”だ。力なき者は何も救えぬ。」
ライル:「だから強くなったんだよ。もう二度と、誰も裏切らせねぇためになぁ!」
エルン:「裏切りは人の業だ。だからこそ、国家が必要なのだ!」
ライル:「国家が人を縛ったんだよ!
その鎖を断つために、俺は剣を取った!」
蒼雷が爆ぜ、黒焔が吠える。
2人の視線がぶつかり合う。
そこにあるのは憎しみではない。
もっと深い――“誇り”だった。
エルン:「仲間など、いつか裏切る!」
ライル:「ああ、裏切るさ! 人は弱ぇ!
でも――それでも信じる。それが俺の生き方だ!!」
エルン:「愚か者め!」
ライル:「愚かだろうが構わねぇ!
裏切り者だけは、絶対に許さねぇ!!」
その刹那――
空気が震えた。
「……来いよ、師匠。終わらせてやる」
黒焔剣ヴァルグレイスが獣の如く吠える。
黒焔が一点に収束し、
「黒焔剣技――奥義……」
ライルの体から黒炎が吹き上がり、世界が暗く染まる。
エルンも雷翼を広げ、全魔導炉を開放。
蒼雷が太陽のように輝き、彼の周囲だけ昼間になる。
「蒼雷剣技――奥義……」
二人の声が、同時に重なった。
「《断罪・崩滅ノ太刀》!!」
「《蒼天覇雷》!!」
黒。
蒼。
二つの奥義が、世界の中心でぶつかり合った。
衝突の瞬間、空が爆ぜた。
黒でも白でもない、
“色の無い空間”が一瞬だけ生まれる。
世界が塗り替わる感覚。
音は遅れてやってきた。
――ドォンッ!!
王都全域が揺れ、地面にいた全員が膝をつく。
空は白く飛び、視界が焼かれる。
やがて――
光が収束していく。
そこに残るのは、
二人の影が交錯する激突の中心。
まだ決着は見えない。
だが、確実に言えることが一つだけ。
――この激突は、まだ終わらない。




