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王の裏切り、俺の無双劇〜 追放英雄ライル、王国を無双で討つ  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第30話 影ノ回廊の断罪

――黒い音が響いた。


 金属ではない。

 肉でもない。

 それは、“影が鳴る音”だった。

 

王城地下、禁断の地《影ノ回廊》。


 古代王が裏切り者の死体を封じたとされるこの迷宮は、まるで生きているように蠢いていた。

 黒曜石の壁には無数の刻印が淡く光り、呼吸するように脈打つ。


その中心で、三つの影が交錯していた。


 崩れた床から滑り落ちたゼスとゼイル。

 そして、血に濡れながらも笑う男がいた。

 右目を覆う黒影がゆらめき、その瞳孔は異様に細い。

《影ノ牙》の教育者にして裏切りの元締め、ディエル・フェンロット。

黒髪は血に濡れ、右目を覆う影が蠢いている。

それでもその笑みは崩れない。


「……逃げる影を追うのも、飽きたな。」


 低く、氷の底から響くような声。

死の匂いが混じるのに、どこか愉悦が滲む。


 ゼイルは片膝をつきながら立ち上がり、

 その横でゼスが剣を構える。


「まだ、あんたを斬りきっていない。」

ゼイルが短く答え、刀の柄に手をかける。


「なら、ここで終わらせる。」

 

 ゼスが並び立つ。

 二人の間に、一瞬、呼吸が重なった。


 ――静寂。

 その瞬間、ディエルは懐から黒い硬貨を取り出し、床に落とした。


 カラン。


 乾いた金属音が響き、床一面に黒い円が広がる。


虚影市ゼロ・マーケット――開市。」


 言葉と同時に、影が液体のように波打ち、周囲の空間そのものが歪んだ。

 気温が数度下がる。視界の端で、光が逃げる。

 

「……また、やっかいなのを。」

ゼスが奥歯を噛む。


「戦場は市場だ。」

 ディエルが愉悦を滲ませる。

「お前らの命の値を、査定してやる。」


 ゼイルは一瞬で影へ沈み――

 消えた。


 同時にゼスは、

 低く構え、無音の呼吸で気配を消す。


 ディエルは音もなく剣を抜いた。


 刃が空気を吸い込み、周囲の雑音を消す。

 その静寂の中で、彼は言った。


黙跡サイレント・レッジャー……記録開始。」


 空気が張り詰める。


 呼吸、鼓動、筋肉の動きが

 “すべて音として拾われていく”。


 ゼイルの影が背後から迫る。

 ゼスが真横から斬り込む。


 どちらも――届かない。


 ディエルの剣が、事前にそこへ動いている。


 まるで、未来を読んでいるかのように。


「どうした、ゼイル。お前の呼吸、昔と同じだな。」ディエルが笑う。


「……何だと?」


「刃を振るたび、心臓が半拍速くなる。その“癖”は変わらんな。終わりだ!」


 ディエルが一歩踏み込み、刃がゼイルの首元を捉えた。

 その一撃を、ゼスが割って入って弾いた。


「――ッ!」

 火花。

 闇が爆ぜたような閃光。


「未来を読んでる……?」

「いや、“情報”を読んでるだけだ。」

ディエルは笑った。

「戦場とはデータの取引だ。

知る者が勝ち、知らぬ者は死ぬ。」


 ゼイルの視界に、

 ――過去の夜景が重なった。


 赤く燃えた街。

 血飛沫を浴びた仲間。

 通信越しに響いたディエルの声。


『切り捨てろ。情報が漏れる。』


 血を吐きながら震えていた仲間を、処分しろと命じられた夜。

 通信越しのディエルの声。

 あの時と同じ冷たさ。


『あれは……仲間だ。』 『仲間? 安い言葉だな。報酬を上げるか?』


 ゼイルの胸の奥が熱くなる。

 あの夜、自分は命令を拒み、仲間を救った。

 その結果、自分は、“裏切り者”の烙印を押された。


「……あの夜、俺を捨てたのは任務か、裏切りか?」

 ゼイルの胸奥が煮えたぎる。

 

 ディエルが剣を構えたまま答える。

「違うな。お前が“安くなった”だけだ。」


――怒りで視界が白く染まる。


 ディエルは、

 そんなゼイルの心を割るように言った。


黒幻市ブラックオークション――開市。」

 ディエルが指を鳴らす。

 壁一面に幻影が浮かんだ。


 そこには、ゼスが殺めた少女の姿。

 幼い顔。

 かつて任務で仕方なく手を下した、罪の記憶。


「見ろ。これが“情報”の力だ。

 裏切り、殺し、嘘――お前らの影は、いくらでも売れる。」


「やめろ!」

ゼスが叫ぶ。

 「それを出すな……!」

剣が震える。


「幻? いや、事実だ。」

ディエルの声は冷たく刺さる。

 

「お前が選んだ結果だ。

――ほら、“痛い所”だろう?」


 ゼスの手が震える。

 剣が落ちそうになる。

 ゼイルが叫んだ。


「ゼス、見ろ! あれは“影”だ、本物じゃない!」

「だって……俺は、あの子を……!」


「違う。罪は残るが、今の“お前”が贖ってるだろう!」


 影に飲まれかけたゼスの瞳に、ゼスの瞳に再び光が宿る。


 その瞬間、ゼイルがゼスに小声で囁いた。


「――行くぞ。」


 ゼイルが小さく息を吐く。


 ゼスは符を取り出し、ゼイルのタイミングに合わせて投げる。


 閃光符が爆ぜ、あたり一面、白光が満ちた。

 ディエルの影が壁に濃く浮き上がる。

 ゼイルが空気を裂いた。


「《影断シャドウ・スプリット》――!」


 無音。

 ただ空気が切り裂かれる音だけが残った。

 

 斬撃は、ディエルの“情報網”を断ち切った。


「な……情報が、断線……?」


 ディエルの瞳から光が抜ける。

 情報網が崩壊し、全ての情報が霧散した。


 情報で構築されていた。

 未来予測が崩壊したのだ。


 しかし――


ディエルは笑っていた。

「……なら、契約を斬る。」


 刃が光る。

 魔力が螺旋を描き、空間が裂ける。


破誓剣コントラクト・カット!」


 その一撃で、ゼイルとゼスの呼吸が乱れた。

 心と刃のリズムが、ずれる。

 連携が断たれた。


「絆も契約も、ただの紙切れだ!」


「違う!」

ゼイルが叫ぶ。

「俺たちは――信頼で繋がってる!」


 互いの声が重なる。


 ゼスが踏み込む。

 音のない世界で、彼の一閃が空間を裂いた。


「――黙刀《終ノ一閃》!」


 静寂。

 次の瞬間、黒い血が舞い上がる。

 ディエルの影が、刃の軌跡とともに崩れ落ちた。


 ディエルは膝をつき、血を吐きながらも笑った。


「影を……裂くか……見事だ。だが……」


 その身体は影へ沈むように溶けていった。


「影は……光のそばに……ある……

――次に照らすとき、会おう。」


 完全に消失。

 ゼイルは刀を下ろし、息を吐いた。


「……終わったのか?」

 ゼスが肩で息をしながら言う。


「いや、奴の“影”はまだ残ってる。」

 ゼイルが静かに答えた。


――その瞬間。


轟音。


天井が崩落を始めた。


ゼイル「走れ!」


ゼス「言われなくても!」


二人は闇の迷宮を駆け抜ける――。


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