表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の裏切り、俺の無双劇〜 追放英雄ライル、王国を無双で討つ  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/42

第28話 紅蓮の誓い ―

崩れかけた《王城離れ・魔導塔》の上層。

紅と黒の炎が天井を舐め、空間そのものが軋む。

床は溶けた金属のように波打ち、焦げた魔力の匂いが鼻を刺した。


セリア・ヴェルディアはルミナ・アークを握りしめて立つ。

紅蓮の魔力が彼女の全身を満たし、髪が光を帯びて揺れていた。

炎のゆらめきの向こう──かつて“師”と呼んだ男がいた。


バレスタ・クローン。

かつて天才と称され、いまは禁呪の炎を抱く《焔帝》。


黒炎をまとったその姿は、地獄の審判官のようだった。


「……まだ立つか。見事だ、セリア。」

彼は笑った。

皮肉ではない――純粋な賞賛だった。


「あなたが教えたの……“諦めない炎”ってね。忘れたとは言わせないわ。」

セリアの声は、震えていない。

だが、その胸は激しく脈打っていた。


「……ふ。」

バレスタが喉の奥で笑う。

黒炎が彼の背後で波打ち、塔の壁を焼いた。


「だが、教えた覚えは無いぞ。お前に“私を倒せ”なんてな。」


「勝手に成長した弟子に嫉妬してるなら、今さらでしょ。」


「はは……生意気だ。」


塔の外から、夜風が吹き込む。

遠くで雷鳴が転がり、空気がさらに熱を帯びた。


炎が鼓動のように塔を照らし──目の前の男との“過去”が脳裏に蘇る。


『いいか、セリア。炎とは破壊ではない。──創造の第一歩だ』


幼い日の研究室。

不器用に灯した小さな火球に、バレスタは穏やかに微笑んでいた。


『でも、燃やしたら何かが消えてしまうわ』


『それでも残る“形”がある。それを理解した者だけが、魔導士になれる』


その言葉は、憧れであり、呪いであり──

彼女を育て、そして縛った。


あの時のバレスタの手は温かかった。

今は、世界を焼き尽くす“黒炎”を操る手へと変質してしまった。


セリアは喉の奥が痛むのを感じた。

「……師匠。」

セリアが呟く。

「私、ずっと信じてた。あなたの教えを。」


「信じるかどうかは弟子の勝手だ。」

バレスタの瞳が紅黒に揺らめく。

「だが――その信仰が、いつかお前を焼くぞ。」


バレスタの足元で、黒い炎が波紋のように広がる。


「来い、セリア。お前が望む答えは、この“終焉”の先にある」


黒炎柱が塔の中心から吹き上がった。


セリアは杖を構え、空間を断ち切る。

「――紅蓮翔閃グレナ・インフェルノ!」


紅蓮の光が翼のように広がり、黒炎へ突進する。

衝突の音が塔を揺らした。


バレスタは口角を上げた。

「浅いな。《黒滅砕牙デス・ブレイカー》!」


黒炎が牙となって襲いかかる。紅蓮が砕け、空気が焼けた。

金属が軋むような音が響く。


「ふふ……やっぱり、師匠は容赦ないわね!」


セリアは床を蹴り、宙へ舞う。

両手を広げ、炎を掬い上げる。


彼女の両手が炎を掬い上げる。

「――《紅蓮嵐陣クリムゾン・テンペスト》!」


塔の外壁ごと、紅の嵐が渦を巻いた。

巻き上がる瓦礫が炎に溶け、塔の内部が光の竜巻と化す。


バレスタの足元に、黒の紋様が広がった。

「《虚黒葬界ネクロ・カリス》!」


空間そのものが黒く腐蝕していく。

紅と黒の境界が歪み、空間がきしむ。


炎の衝突。熱波が皮膚を裂く。

セリアの髪が燃え上がるように舞い、瞳が紅蓮に輝く。


「まだよッ!」

杖を振り抜く。

「――《紅蓮崩星スカーレット・メテオ》!!」


紅の隕石群が空を裂き、バレスタを直撃する。

──通常なら終わりだった。


しかし。

その最中――

 バレスタは胸の奥で、そっと小さく呟いた。


(《神聖術 第十等級――再臨焔環》……


隕石の中心から、より濃密な黒炎が噴き上がった。


終焔審判アポカリプス・フレイム――!!」


黒炎が逆流し、紅蓮が焼かれる。

塔の骨組みが焦げ、世界が巨大な熔炉と化す。


セリアの喉が痛む。

熱が皮膚を裂き、呼吸が焼かれる。

それでも──退けない。



「美しい……」

バレスタが呟いた。

狂気でなく、感嘆のように。

「やはりお前の炎は“私の理想”だ。破壊ではない、創造の極致だ――セリア!」


「そんな理想、私は要らない!」

セリアは息を荒げながらも叫ぶ。

「あなたの理想に、どれだけの命が焼かれたか、忘れたの!?」


黒炎が揺らぎ、バレスタが静かに首を振る。


「犠牲なくして進化はない。……それは君も知っているだろう?」


「違う! 私は“守るために”燃やす!」

紅蓮の光が一層強くなる。

彼女の瞳には涙が浮かんでいた。


バレスタは一瞬、懐かしげに目を細めた。


「……あの頃の君は、そう言うと思っていたが今もか!」

バレスタがかすかに笑った。


その瞬間、彼の全身から黒炎が噴き上がる。

両腕を掲げ、地の底にまで届く巨大な魔導陣が展開された。


セリアは身構えた。


「【禁呪・虚無焔界アナイアレーション・ヴォルカノ】!!」


塔全体が震動した。

空間が裂け、黒炎の津波が塔の頂を呑み込む。

叫びも音も飲み込む終焉の波。


セリアは杖を抱き、息を吐いた。


「ッ――なら……!」

セリアも詠唱を始める。

涙を拭う暇もなく、声を張り上げる。


「私の炎で――あなたを終わらせる!!

 《最終術・紅蓮葬華グレナ・リクイエム》――ッ!!」


紅と黒。

二つの魔法陣が共鳴し──塔が崩壊する。


紅蓮の花が咲く。

黒炎の海が燃える。


その狭間で、空間がねじ切れ、世界が悲鳴を上げた。



爆発のあとに残ったのは、灰と静寂。

紅蓮の炎だけがまだ残り、瓦礫を照らす。

セリアは立っていた。

杖の先端が震える。

杖の先端から、紅の光がまだ消えない。


向かい──灰の中で、バレスタが立っていた。


全身は焼けただれ、黒炎も消えかけている。


「……これが、お前の“炎”か。」

声はかすれ、今にも途切れそうだった。


セリアは震える声で答えた。

「あなたの教えが、私を導いたのよ。」


一瞬の沈黙。

炎の粉塵が舞う。


バレスタは微笑んだ。

あまりにも、優しく。

どこか救われたように。


「ああ……やはり……お前は……私の“完成”だ……」


そのまま、彼の身体は音もなく崩れた。

灰が風に乗り、紅蓮の光を反射しながら散っていく。

──赤橙の輪が、彼女の足元でゆらりと生まれる。


セリアの頬に、灰が触れた。

まるで最後の別れのように。


「……バレスタ。」

膝をつく。


紅蓮の光が、ゆっくりと消えていく。

塔の外壁が崩れ、夜風が流れ込んだ。


「あなたの教えは……まだ、ここにある。」


涙が頬を伝い、灰と混じる。

その一粒が、紅く輝いて床に落ちた。


遠くの夜空に、星が瞬く。

それはまるで――師の魂が、空に帰る光のようだった。




炎の塔が崩れ落ちる中、セリアは立ち上がった。

背後で瓦礫が崩れ、紅蓮の光が王都を照らす。


彼女は一度だけ振り返る。

灰と炎の向こうに、確かにバレスタの影があった気がした。


「……これで、全てが終わったわけじゃない。」


夜風が髪を揺らす。

瞳の奥には、かすかな希望と決意の光。


「次は――この“儀式”を、終わらせる番。」


杖を握り直し、セリアは夜空を見上げた。

紅蓮の残光が雲間を染め、まるで王都そのものが燃えているように見える。


炎の魔女――セリア・ヴェルディア。

その背中は、もう“弟子”ではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ