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王の裏切り、俺の無双劇〜 追放英雄ライル、王国を無双で討つ  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第22話 夜明け前の双炎

夜霧の漂う山間。

 反乱軍本陣――燃える松明の灯の中、無数の兵が息を潜めていた。

 指揮所に立つカラム・ドレイクは、静かに地図を見つめていた。


「……血盟が動いた?」

 報告を終えた情報兵が頷く。

「はい。旧砦跡を拠点に、王都南西へ進軍の兆候が。指揮官は――ライル・アーヴィング」


 カラムの眉がわずかに動いた。

「奴も……王を討つ気か」

 小さく呟くと、彼は地図上に指を走らせた。


「このままでは、王都防衛軍が混乱するでしょう。好機では?」

 副官が促す。

 だが、カラムの瞳は冷たく光った。

「好機か……。いや、災厄だ」


 彼の脳裏に、ライルの姿が浮かぶ。

 あの若者の戦い方――“理想”に燃える、血に塗れた獣。

 仲間を救い、敵を滅ぼす。

 その戦い方は、美しくも脆い。

 革命の現場では、情は毒となる。


「奴は獣を名乗るが、本質は人間のままだ。甘い理想が、戦場を焼き尽くす」

 副官が問う。「では、どうなさいます?」

「動く」

 カラムは外套を翻した。

「血盟が王都を揺らすなら、我らは――炎で焼き尽くす」


 その声に応じ、外で兵たちが一斉に動き出す。

 鎧の擦れる音、槍の列、そして旗の翻り。

 山を下る風が、火の粉を散らした。


 ――二つの反逆が、同時に王都へと進み出す。

 片や、血の理想を掲げた獣たち。

 片や、犠牲を厭わぬ革命の剣。

 夜明け前の空に、二つの道が交差しようとしていた。




 薄い雲が月を覆い、空が白み始めていた。

 王都の遠くにそびえる城壁が、闇の向こうで静かに沈黙している。

 血盟の野営地――そこでは、最後の準備が進められていた。


 ミレーヌは薬瓶を並べながら、隣の巨体に声をかけた。

「ねぇグロス。突っ込みすぎたら、今度こそ本当に死ぬわよ」

「へっ、大丈夫だ。俺が死んだら誰が前に立つんだ?」

「そのセリフ、もう三回目よ」

 ミレーヌは苦笑しながら、最後の強化魔法を唱える。

 彼らの呼吸は、もう戦場のリズムに近かった。


 少し離れた場所で、ゼイルとゼスが短剣の刃を磨いていた。

「……兄貴、緊張してんの?」

「してるさ。王都ってのは、俺たちの故郷でもある」

「だったら、取り戻してやろうぜ。誰の物でもない、俺たちの手で」

 言葉少なに、二人は刃を握り締めた。


 その向こうでは、セリアとルネが地図を見ながら戦術を再確認していた。

「魔導防壁のタイミング、狂わせたら全部崩れるわよ」

「わかってる。お前の指示通りに動く」

 ルネが笑うと、セリアは目を細めて小さく息をついた。

「……ちゃんと帰ってきなさいよ」

 「お前もな」と、ルネは軽く拳を合わせる。


 そして、野営地の外れ。

 ライルは夜明けの空を見上げていた。

 隣に立つエリシアの銀髪が、微かな光を受けて揺れる。


「……眠れなかった?」

「ええ。王都が見えるの。あそこに、生まれた時からの全てがある」

 彼女の声は静かだった。

「もし勝って、王国を取り戻せたら……あなたは、どうするの?」


 ライルは少しの間、何も言わなかった。

 夜明け前の風が、彼の黒髪を揺らす。

「答えは一つだ。俺はもう、王には仕えない」

「それでも、あなたの戦いは終わらないでしょう?」

「……そうだな。けど、お前と共に生きる道は――あるかもしれない」


 その言葉に、エリシアの瞳がわずかに震えた。

 戦いの前夜、ほんの一瞬、血と鉄の世界に差し込んだ柔らかな光。

 だが、すぐに二人の視線は再び戦場へと戻る。


 遠くで、鐘の音が響いた。

 夜明けを告げる、冷たく澄んだ音。

 ライルは外套を翻し、立ち上がる。


「行くぞ。王都を奪還し、すべてを終わらせる」


 その声に応じ、焚き火が吹き上がる。

 血盟の旗が掲げられ、八つの影が一斉に進み出した。

 その先に待つのは、玉座か、あるいは奈落か。


 ――同じ夜明け、別の山道を進む反乱軍の旗もまた、風を裂いていた。

 二つの軍勢が、別々の道から王都を目指す。

 “理想”と“現実”、二つの炎が、やがてひとつの戦場で交わる。


 その瞬間、王国の夜が終わりを告げる。

 そして、新たな時代が、血の色をして産声を上げようとしていた。


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