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王の裏切り、俺の無双劇〜 追放英雄ライル、王国を無双で討つ  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第21話 「命を商う男 ― ディエル・フェンロット

灰色の夜、灰街区は生きる者の匂いと腐敗の臭いで満ちていた。路地には、飢えに苦しむ子供たちのすすり泣きが混ざり、廃棄された食べ物を奪い合う音が絶えなかった。十五歳の少年ディエル・フェンロットは、細く折れそうな腕を抱えて、薄汚れた布切れを握りしめていた。


「兄さん……どうして……」

彼の瞳は、路地の先で吊るされる兄を追った。王国の警備兵が公開処刑を執行している。盗みの罪──だが、ディエルには理解できなかった。「正義」の名で奪われる理不尽。その瞬間、世界の価値は数字でも、言葉でもないと悟る。――命は価格で量れる、と。


「おい、ガキ!」低く響く声。ディエルは反射的に体を伏せた。影のように現れた商人風の男は、片手に金貨を握り、もう片方の手でディエルを指差す。


「この街で生きるには、価値を持て。情報は金になる。覚えておけ。」


ディエルは半信半疑でうなずき、初めての“売買”に踏み出す。仲間の居場所を密告し、金貨一枚を手にした瞬間、胸に熱い感覚が走った。生きるための価値を自分で買った──その感覚は、痛みと共に冷たく、しかし確かに生きる力となった。


ディエル(少年)「この街で正義を信じる奴は、餓死する。」



夜風が廃墟のような路地を吹き抜け、少年の背を押す。世界は冷酷だ。人は弱い。信じる価値など、ない。




数十年後。


王都の闇に紛れた施設。《影ノ牙》訓練場には、夜の灯火が淡く照らす床に、若者たちの声と足音が響いていた。密偵団長ディエル・フェンロットは、影のように部屋を歩き回る。


「失敗だな。」

訓練生の一人が、接触のタイミングを誤り、素早い警戒ラインをかいくぐれなかった。ディエルは手元の帳簿に赤い印をつけるだけで、何も言わない。しかしその冷静な視線が全員の背筋を凍らせる。


「貴様ら、感情で動くな。感情は損失だ。」

ゼイル、十七歳。鋭い目を光らせる少年だ。ディエルはその瞳に興味を覚える。理想を胸に、まだ未熟ながら自らの信念を曲げない。


ディエル「忠義? 面白い。じゃあそれ、どれくらいで売れると思う?」

ゼイル「信じるものに、値はつけない。」

ディエル「……貧乏性だな。」




夜が更けるにつれ、ディエルはゼイルを呼び出す。闇の奥、静寂な室内に二人きり。


「教える。人の心を読む術、裏切りを見抜く法。」

「それが…密偵の仕事ですか?」

「いや、信じるな。取引しろ。それが唯一の信頼だ。」


ゼイルの目に微かな戸惑いが浮かぶ。ディエルは笑わない。冷笑が口元をかすめるだけだ。彼の教えは愛ではなく、計算の産物であり、ゼイル自身を“商品”として測る行為だった。


訓練生たちは次々に試され、淘汰される。失敗すれば“価値なし”として排除される世界。ゼイルだけが、わずかな余白を残されていた。


「才能がある。だが、理想主義者は損だ。」

ディエルの言葉は冷たく、夜の闇よりも深くゼイルの心に刻まれる。




任務は国境線近く、エルディナ連邦の動きを探る密偵活動。

《影ノ牙》の精鋭たちは、夜陰に紛れて偵察を続ける。しかし、突如として包囲される部隊。戦力差は歴然。ディエルは冷静だった。


「撤退を命ずる…が、この者達を囮にする。」

ゼイルは理解できなかった。


ゼイル「何を…!」

ディエル「任務の成功が最優先だ。死地もまた、情報だ。」



ディエルは密かに命令書を改竄し、他の部隊は安全に撤退。ゼイル達数名だけが敵陣に取り残される。

仲間が次々に倒れ、ゼイルは孤独に戦った。息が切れ、視界が揺れる。


数日後、ゼイルは奇跡的に生還する。しかし心の芯は砕かれた。彼の眼前に立つディエルは、淡々と帳簿に赤い印をつけるだけだった。


部下「ゼイルを捨てたんですか!?」

ディエル「いや、“手放した”んだ。需要がなかっただけさ。」



ゼイルの胸に怒りと裏切りが渦巻く。

その夜、《影ノ牙》を離反する決意を固める。ディエルの教育は、忠誠よりも利益という哲学を彼に刻みつけた。



王都の地下議会室。石壁に反射する光が、冷たい空気をさらに冷やす。ディエルは資料の山の前に立ち、影のようにその場を支配していた。

エルン・グラード将軍が現れ、鋭い視線を投げる。


エルン「貴様のような者が、国を腐らせる。」

ディエル「腐る? 違うな。熟してるんだよ、“搾り取る”ためにな。」



王国は腐敗しつつあった。ディエルはその“熟した市場”から、あらゆる情報を金に変えていた。複数の派閥に同時に情報を流す。裏切りも、忠誠も、すべては取引。


その手で、ライル逮捕命令書を取り出す。インクの香り、紙の冷たさが掌に伝わる。

巧妙に書き換え、魔導刻印を施す。命令は契約書へ、忠誠は数字へ。


ディエル「王の署名も、俺のインクで書き換わる。……いい市場だ。」



エルンは眉をひそめるが、ディエルの笑みは消えない。彼の瞳はすでに“次の取引”を見据えていた。忠義と利益、理想と現実――二つの価値が静かに交差する場所で、ディエルは再び影に溶けていく。



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