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王の裏切り、俺の無双劇〜 追放英雄ライル、王国を無双で討つ  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第19話 鋼翼将の真実 ― 忠義は鎖に非ず

王国軍本営、昼。


巨大な作戦会議室には、金の燭台と地図の光が交錯していた。

鎧の擦れる音と紙のめくれる音の中、中央の長机に立つ男が一人――


エルン・グラード。

銀の鎧に刻まれた獅子の紋章。鋭い灰色の瞳は、冷えた刃のように光る。


「――敵軍の主力は北東丘陵へ展開。三日以内に補給線を断つ」


部下の報告を受けると、エルンは短く頷く。


「よくやった。兵たちの士気はどうだ?」


「はっ、将軍の指揮のもと、皆、意気高く――!」


「そうか。それでいい。」


彼の声は落ち着いていて、聞く者を安心させる。

部下たちは自然と背筋を伸ばし、誇らしげに胸を張った。


若い副官・レオナードが進み出る。


「将軍、一つ提案があります。

 民間地区の避難が遅れています。

 前線を一時下げてでも、被害を減らすべきかと――」


会議室が一瞬、静まる。

皆、レオナードを見た。大胆な進言だ。


エルンは微笑んだ。


「……立派な心だな、レオナード。」


「ありがとうございます!」


「だが――」

その瞳がわずかに細まる。


「戦は情けで動かぬ。撤退は、敗北の別名だ。」


空気が張り詰める。

レオナードは一瞬怯んだが、必死に言葉を続ける。


「で、ですが……民を――!」


「命令は、完遂のためにある。」


微笑はそのまま、声だけが氷のように冷えた。


「理想は立派だ。だが、美しさでは敵は斬れん。」


……沈黙。

エルンは会議を打ち切り、穏やかに告げた。


「諸君、準備を進めよ。三日後、決戦だ。」


皆が去った後――

エルンは机上の報告書を一枚、静かに破いた。


“市民保護案”――レオナードの進言が書かれた項目だった。


(理想主義者は、戦場で最も早く死ぬ。)




エルンは冷ややかに呟き、指先で紙屑を潰した。




夜。

本営裏の倉庫には、灯火が一つ。


鉄の椅子に縛られた若い男――レオナードが震えていた。

目の前には、漆黒の軍衣に身を包んだエルン。


「な、なぜです将軍!? 俺は反逆などしていません!

 撤退は、民を守るための――!」


「……反逆かどうかは、王が決める。」


「じゃあ、王に弁明を――!」


「もう遅い。」


短い言葉。刃よりも冷たい。


「戦場で敗れ、命令を破った。

 その時点で、そなたは“敗者”だ。」


「……っ! 俺はあなたを信じて――!」


「忠義は鎖だ。」



エルンは無感情に呟く。


「切れる前に、首をすげ替えろ。」



剣を抜く音が静寂を裂いた。

金属の鈍い響き。

そして――沈黙。


レオナードの瞳が揺らぎ、やがて光を失う。

彼の唇から最後に零れたのは、かすかな声。


「……将軍……信じていました……」


血のしずくが石床を叩いた。

エルンは一瞬だけ、手を止めた。


(信じる、か……)



だがすぐに、無表情に剣を布で拭った。


「信じる者は、いつか裏切る。

 だから、俺は――裏切らない。」


倉庫を出る足音は、風よりも静かだった。





20年前。

北部辺境・フェルグラン騎士団。


まだ若き日のエルン。

理想に燃え、民を守るために剣を振るっていた。


「我らが剣は、民のために!」

仲間たちは笑い合い、誇りに満ちていた。


上官・ヴァルガス老将は彼の肩を叩いた。


「よくやった、エルン。お前のような若者が、この国の希望だ。」


あの頃、エルンは信じていた。

信義は、力よりも強いと。


だが――戦の後。


功績は上官のものにされ、エルンの名は記録から消えた。

さらに、仲間の一人が裏切り、罪を被せた。


「……私が命じた。お前を処刑せよ。」


ヴァルガスの言葉。

それは、恩師の口から発せられた「王命」だった。


「なぜだ、閣下……俺は、王のために――!」




「命令だ、エルン。信義より、国を選べ。」


その夜。

エルンは処刑台の前で笑った。


「なるほど。忠義とは、こうして使い捨てるものか。」



恩師の剣を奪い、逃げ出した彼は、炎に包まれる砦を振り返った。

そして呟いた。


「信義など、所詮は飾りだ。勝者だけが、生きる価値を持つ。」




――それが、“鋼翼将”の誕生だった。



王宮・謁見の間。


金の絨毯の先、王アルトレウス三世が玉座に座す。

エルンは深く膝をついた。


「陛下。北方戦線、我が軍の勝利にございます。」


王は満足げに頷いた。


「さすがは《鋼翼将》。そなたの忠誠、実に頼もしい。」


「陛下の御心に報いるため、いかなる血も惜しみませぬ。」


微笑み。完璧な忠臣の顔。

だが、心の奥で別の声が響く。


(陛下もまた、いつか“首”をすげ替える対象だ。)




宰相が進み出る。


「将軍、次の戦線は東方ですな。ライル将の部隊との協働を――」


「……ライル、ですか。」


一瞬、微細な感情が瞳をかすめた。

すぐに消えたが、王は気づかない。


「ええ。共に、陛下の勝利を。」


(“共に”などという言葉ほど、信用ならぬものはない。)



エルンは心の中で、薄く笑った。




夜。

鎧を脱ぎ、鏡の前に立つ。


鏡に映る自分の顔――

それは、何度見ても“他人”のようだった。


机の上には、血の跡が残る手袋。

幻聴のように、部下たちの声が耳に蘇る。


『将軍、信じていました――』



『民を守りたかっただけなんです!』



『エルン殿、貴殿は理想の――』



「……うるさい。」


エルンは拳で鏡を叩いた。

亀裂が走る。

その中で、幾つもの“自分の顔”が笑っているように見えた。


「勝者こそ正義……なら、俺は、まだ人間でいられるのか?」



静寂。


やがて、彼は机の上の地図を開く。

赤い線で印された名――「ライル」。


「……信義は不要だ。だが、結果は裏切らん。」



ペン先が、赤く走る。

蝋燭の火が揺れ、影が壁に伸びる。


その背中は、もはや“忠臣”ではなかった。

“王国最強の裏切り者”の顔だった。



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