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王の裏切り、俺の無双劇〜 追放英雄ライル、王国を無双で討つ  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第16話 神の沈黙と王の祝福

 ――それは、沈黙ではなかった。


 聖堂の天井が軋み、神核が悲鳴を上げる。

 祭壇の魔法陣が白く焼け、光が王の足元から溢れ出す。

 王都の地脈が逆流し、空が裂けた。

 しかし、その混沌の中心で――アルトレウス三世は笑っていた。


「見よ……! 神の光が我を包む! これぞ、加護……これぞ、王の証だ!」


 叫ぶ声が、崩れゆく聖堂の壁を震わせる。

 聖職者たちは逃げ惑い、兵士たちは祈ることさえ忘れ、ただ王を見上げた。


 そのとき――

 天井の破片が落ち、暗黒の裂け目が現れた。


 そこから、声が降りてきた。


『――退屈だな、人の王よ』



 その声は、静かで、笑っていた。

 だが同時に、聞く者の魂を削るような響きを持っていた。


「……神か……? 我を呼ぶのは、神か!」


 『神? そう呼びたいなら、それでもよい。だが私は、ただ見物していただけだ。

 お前がどれほど愚かに、どれほど美しく堕ちるかを。』




 王は息を呑み、そして笑った。

 その笑いは、恐怖を通り越した恍惚。


「ならば――見よ! 我は堕ちぬ。

 我こそ神に選ばれし者。神を超える王だ!」


『ほう……面白い。ならば、力を与えよう。

 神の血を継ぐと信じた愚かな王よ。

 望むなら、我の手を取れ。』



 黒い腕が、闇の裂け目から伸びた。

 その指先には、金の輪が浮かび、微かに炎が揺れている。

 それは“祝福”と“呪い”の境界。


 王は、迷わなかった。


「神の手を取るのに、理由など要らぬ……! それが、王の定めだ!!」


 指先が触れた瞬間、轟音が聖堂を包んだ。

 神核の光が赤黒く染まり、王の体が炎を纏う。

 皮膚が裂け、血が蒸発し、骨の内側から光が溢れ出る。


『――良い。良いぞ。

 この瞬間、お前は“王”を超え、“神”を名乗る資格を得た。

 代償は――ああ、そうだな。今は教えぬ方が楽しい。』



 邪神の声は、楽しげに笑った。

 その声とともに、王の瞳が金色に染まり、瞳孔が細く縦に裂けた。


「感じる……感じるぞ、この力……! 我が手が、世界を握る!」


『存分に使うがいい。世界を焼こうが、国を滅ぼそうが、構わぬ。

 私は退屈せねば、それで満足だ。』



 王の足元に、血のような花が咲いた。

 燃えるように紅いその花が、聖堂の床を覆い尽くす。


 アルトレウス三世は、ついに神となった。

 ――ただし、神の掌の上で。




 夜が明ける。

 だが、太陽は昇らなかった。

 代わりに、空を焦がすような赤黒い光が王都を包む。


 城壁は崩れ、民の悲鳴が街を満たす。

 それでも、聖堂の中央でただ一人、王は立っていた。


「……これが、神の力……! これが、王の証明だ!」


 彼の声に応じて、大地が震えた。

 魔力の奔流が空を裂き、雷が地を穿つ。

 死体が光に包まれ、魂が天へと昇っていく。


『綺麗だな。人の苦しみは、いつ見ても飽きぬ』



 邪神の声が、王の頭の中に響く。

 王はその声を、もはや“導き”としか感じていなかった。


「見よ……! 神は我に語る! 我は選ばれた! この国は……永遠に在る!」


『永遠――ああ、確かに。

 お前の魂は、永遠に在るだろう。地の底で。

 焼かれ、裂かれ、誰にも知られぬまま。』



 その言葉に、王は気づかない。

 彼の耳には、祝福の鐘が鳴っているようにしか聞こえなかった。


「神よ……我は貴方を讃える! 我が名を、空に刻みたまえ!」


『良いとも。お前の名は、永遠に響く。

 “愚かなる王”。“永劫に燃える魂”。』



 邪神は笑い、声が風に溶けた。

 王はその意味を知らぬまま、天を仰ぐ。


「はは……ははははは……! 神の御心、ここに成れり……!」


 その笑い声が空に響く。

 しかし空の向こう、闇の中で、別の何かが嗤っていた。


 民は後に語る。

 「その夜、王は神になった。だが、同時に地獄の門を開いた」と。


 王の名は祈りと共に消え、王国は沈黙した。

 ただ、風だけが語り続ける。

 ――“王の罪は、神が赦す”と。


 けれどその神が、誰だったのか。

 もう、誰も知らない。






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