第12話 炎の誓い
霧の中、火花が散った。
ミレーヌの剣が風を裂き、王国兵たちの列を一気に薙ぎ払う。
「邪魔よ――どきなさいっ!」
銀閃が走り、鎧が砕け、兵士たちが悲鳴を上げる。
彼女は剣を振り抜きながら、汗に濡れた額を拭った。
「はぁ……楽しくなってきたじゃない!」
「調子に乗るなよ!」
後方からグロスの声が響く。
巨大な戦斧を担ぎ、突撃するように門へと走り込む。
その斧が振り下ろされた瞬間――
「ドォンッ!」という轟音とともに、関所の木門が粉々に砕けた。
「門、突破ぁっ!」
「グロス、ナイスっ!」
ミレーヌが笑いながら剣を振り上げる。
「はっ、俺が壊した後にドヤ顔すんな!」
「誰がドヤ顔よ!」
二人の言い争いの後ろで、ルネの矢が鋭く飛んだ。
「いい加減にしなさい、二人とも!」
ルネの声が飛ぶと同時に、三本の矢が敵兵の足を射抜く。
「逃げる敵は、私が止める。動くなって言ったでしょ?」
矢が的確に急所を外し、敵は倒れるが命は奪われない。
「……相変わらず正確だな」
セリアが小さく感嘆しながら、詠唱を続けた。
「《フレイム・バースト》――!」
炎が爆ぜ、敵の後衛を包む。
爆風に乗って、ゼスが音もなく現れる。
「……伝令、確認。処理完了」
短く報告し、血のついた短刀を拭う。
ゼイルが背後から続き、淡々と告げる。
「監視塔も制圧済み。敵の退路、完全に塞いだ」
「上出来だ」
ライルが小さく頷く。
彼の声には、静かな確信があった。
「全隊、前進――敵を包囲する。セリア、前方に障壁。ルネ、後方の逃げ道を狙え」
「了解!」
「任せて!」
炎と矢の嵐が霧を照らす。
ミレーヌとグロスが正面を押し込み、ゼスとゼイルが背後を断つ。
その全てを、ライルが一瞬の判断で指揮していく。
「ミレーヌ、左翼に回れ! セリア、支援を重ねろ! グロス、今だ、門を押し広げろ!」
「了解!」
「了解!」
「わかってるっての!」
彼の声に応じて、八人の動きが一つになる。
混乱に陥った王国兵たちは、もはや抵抗もままならなかった。
「退け! もう無理だ!」
「ぐっ……隊長がやられた!?」
悲鳴が響く中、ライルは剣を構えた。
「終わりだ――」
その一閃は静かだった。だが、その斬撃が戦場を決定づけた。
戦場の霧が晴れていく。
ライルの周囲に仲間たちが集まり、息を整えた。
「全員、無事か?」
「軽傷者ゼロ。……完璧ね」
セリアが魔力を鎮めながら微笑んだ。
ミレーヌが剣を肩に担ぎ、笑う。
「へへっ、やっぱライルの指揮って、気持ちいいほどキレてるわね」
「戦場で“気持ちいい”とか言うな」
ルネが苦笑しながらも、満足げに矢を収めた。
ゼイルとゼスが無言で頷き合う。
その眼差しは冷静だが、わずかに誇りを宿していた。
「ゼス、後方の巡回兵は?」
「処理済み。もう援軍は来ない」
「よくやった」
ライルが短く返す。
彼は全員の位置を瞬時に把握しながら、指揮を続ける。
セリアとルネの連携射撃が敵を牽制し、ゼイルとゼスが影から急所を突く。
ミレーヌとグロスは正面で暴れ回り、その動きが敵を完全に押し潰した。
「これが……俺たち“血盟”の戦い方だ」
ライルが静かに呟く。
その声に、皆が目を向けた。
「少数でも、統率があれば軍を超える。――それを証明したかった」
「十分証明できたわ」
エリシアが一歩前に出る。
彼女は魔力を込めた短剣を手に、血の付いた地面を見下ろした。
「あなたの戦術、王国軍の誰よりも冴えてる。……父がどれだけ兵を抱えていても、あなたを止めることはできない」
ライルはわずかに目を細めた。
「――その言葉、覚えておこう」
その瞬間、朝日が霧の向こうから差し込んだ。
赤く染まる戦場に、勝者たちの影が伸びる。
戦闘終了後。
街道と関所は完全に制圧され、敵兵は全員拘束。
死者を最小限に抑えたライルの指揮は、まさに職人技だった。
「関所の防壁、修繕完了。監視塔も利用できる」
「補給物資も確保済みだ」
ゼイルとグロスが報告する。
「よし、拠点への帰還準備を整えろ」
ミレーヌが剣を鞘に納めながら笑う。
「これで王国の喉元、一つ奪ったわね」
「次は王都か……ふふ、燃えてきたわ」
セリアが火花を指先で弄びながら呟く。
「落ち着け。王都戦はこの比じゃない」
ルネが軽く肩をすくめた。
その様子を見ながら、ライルは静かに言った。
「……この勝利は序章に過ぎない。だが、よく戦った」
皆の顔が誇らしげに上がる。
エリシアが歩み寄り、焚き火の前で立ち止まった。
「あなたの指揮で、この小隊は一つになった。……私も学ばなきゃ」
「学ぶ?」
「ええ。あなたの“戦い方”を」
その瞳には、かつての王女としての迷いはなかった。
「私は……あなたと共に歩むと決めたのだから」
ライルは一瞬、言葉を失い――そして微笑んだ。
「なら、もう振り返るな。王都で俺たちの“正義”を証明する」
「……はい」
夜明けが訪れる。
霧が晴れ、血盟の旗が朝日に照らされる。
焚き火の炎が消える中、ライルの瞳には揺るぎない光が宿っていた。
「次は――王都だ」
彼の低い声が、仲間たちの胸に響いた。
その声を合図に、八人の戦士たちは再び歩き出す。
彼らの足音が、アルヴェリア王国を揺るがす“反撃の鼓動”となることを、まだ誰も知らない。




