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王の裏切り、俺の無双劇〜 追放英雄ライル、王国を無双で討つ  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第11話 山間の誓い

夜明け前の山間は、霧と静寂に包まれていた。

 旧鉱山を改修した“血盟”の拠点は、岩壁の奥に潜み、外からはただの崩れた洞窟にしか見えない。

 その奥、焚き火の明かりが揺れ、兵たちの息遣いと武具の擦れる音だけが響いていた。


「……ふむ。弓の弦、緩み気味だな」

 焚き火の前で矢を点検していたルネに、ライル・アーヴィングが声をかけた。

 彼の視線は冷静そのもの。追放されたかつての騎士団長――今や“反乱軍の頭脳”である。


「気づいてました? さすが隊長さん」

「弦はおまえの命綱だ。山の湿気を甘く見るな」

「了解。……相変わらず細かいんですから」

 ルネは苦笑しつつ、指で弦を撫でる。その仕草を見届け、ライルは静かに頷いた。


 拠点の隅では、ミレーヌが木人を相手に剣を振るっている。

 金髪を束ね、汗を飛ばしながら豪快に斬り払う姿は、まるで獣のようだ。


「ふっ――はぁっ!」

 木人が真っ二つに裂ける。

「おいおい、訓練用がまた壊れたぞ。おまえ、控えめって言葉知らねぇのか?」

 グロスが苦笑混じりに声をかけ、巨大な戦斧を担いで通り過ぎる。

「うるさい。あんたの斧だって昨日、床に穴あけてたでしょ?」

「ははっ、確かに。まぁ、派手にやったほうが性に合うよな」


 そんな騒がしさをよそに、セリアは静かに魔法陣を描いていた。

 地面に浮かび上がる光の輪が、淡い炎を孕む。

「セリア、結界の強度は?」

「上出来よ。今回は熱障壁を二重にしてみた。これで小隊規模の矢弾なら防げる」

「よくやった。持続時間をもう少し延ばせるなら、戦闘中の援護にも使える」

「……また無茶言うわね」

 セリアは目を細めたが、口元には薄い笑みが浮かぶ。

 ライルの無理難題が、もはや日常になっていた。


 一方、岩陰ではゼイルが短剣を研いでいる。

 刃が光るたび、彼の目は氷のように鋭かった。

「ゼイル、索敵範囲の報告を」

「南西方向、王国兵の巡回は三。三時間ごとに交代。道は狭いが、伏兵を置くには好都合だ」

「いい。ゼスと組んで先行偵察を頼む」

「了解。……“狩り”の時間だな」

 ゼイルが立ち上がると、岩影からもう一人――黒装束のゼスが無言で現れた。

 影が二つ、音もなく霧の中へ消えていく。


 その様子を見送るエリシア王女が、作戦図を手にライルへ近づいた。

「ライル、全員の配置確認終わりました。あなたの指示で動けます」

「ご苦労。……どうだ? この山での生活にも慣れたか?」

「ええ、あなたが夜明けまで訓練を続ける以外はね」

「戦は、待ってはくれんからな」

 エリシアは苦笑するが、その瞳には静かな覚悟が宿っていた。

 ――追放された彼と共に歩む覚悟を。


 ライルは全員の様子を見渡し、短く言った。

「よし、準備は整った。今夜、街道の関所を落とす。小規模だが――この勝利が血盟の信頼を築く礎になる」


 焚き火の火が、隊員たちの瞳に映える。

 彼らの胸に宿るのは、ただ一つ。

 ――王都を奪還するという、静かで熱い誓いだった。



 夜霧が濃くなる頃、八人の小隊は山を下っていた。

 月は雲に隠れ、灯りは最小限。

 ライルを先頭に、ゼイルとゼスが音もなく前を進む。


「視界、十メートルもねぇな」

 グロスが低く呟く。

「静かに。音を立てると霧が敵を呼ぶわよ」

 セリアの小言に、ミレーヌが苦笑する。

「お堅いのは相変わらずね、セリア」

「あなたが緩いのよ」

「おーおー、ケンカすんな。どうせ敵のほうがよっぽど怖いんだし」

 グロスの軽口に笑いが漏れる。

 その一瞬の空気のゆるみも、ライルの低い声で締まった。


「全員、ここからは息を殺せ。ゼイル、前方確認」

「――敵二十。監視塔の外壁に二名、門前に四。交代が近い」

「ふむ……交代の瞬間を狙う。セリア、支援魔法を」

「了解。結界、展開まで十秒」


 淡い光が霧の中に滲む。

 セリアの詠唱と共に、空気が微かに震えた。

 その隙にゼスが滑るように前進し、塔の下へ潜り込む。

 影が二つ、闇に溶けた。

 刹那――「ッ……!」という短い呻きが響き、塔の上の兵が倒れる音。


「……片付いた」

 ゼスの声が風に乗って届く。

「よし、突入開始だ。ミレーヌ、グロス――正面を抑えろ」

「任せなさい!」

「了解!」


 次の瞬間、霧の中を金属音が貫いた。

 ミレーヌの剣が炎の尾を引き、敵兵の盾を叩き割る。

 グロスが咆哮とともに斧を振り下ろし、門扉ごと押し潰した。


「援護する!」

 ルネの矢が連続して放たれ、逃げようとした兵の脚を正確に射抜く。

 その動きに合わせてセリアが詠唱を終えた。

「《フレイム・リング》!」

 炎の輪が敵陣を囲い、退路を断つ。


「な、なんだこの炎はっ!?」

「逃げろ――うわあっ!」

 悲鳴が響く中、ゼイルが音もなく背後から首筋を切り裂く。

「……終わりだ」


 霧の中に倒れる兵たち。

 混乱の中心に立つライルの声が、静かに響く。

「全員、予定通り進め。無駄な殺生はするな。目的は制圧だ」

「了解!」


 その瞬間、誰もが感じた。

 ――彼の声一つで戦場が動く。


 セリアが小さく呟いた。

「やはり……この人が指揮を執ると違うわね」

「そうだな」

 ミレーヌが剣を振り払い、微笑んだ。

「私たち、“戦う意味”を思い出せる」


 霧の向こう、街道の灯がかすかに揺れる。

 彼らはまだ知らない。

 この戦いが、血盟にとって“最初の勝利”であり――王国を震撼させる序章になることを。


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